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第二章 お師匠様がやってきた
いつ? いつから修行!?(期待しかない!)
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いつ魔力使いの修行が始まるのかとドキドキしていたアイシャとトオンだ。
ルシウスが相当に力のある魔力使いというのは、ふたりともわかる。
本人のネオンブルーの魔力が、近づくと文字通り圧力として感じられるほどで、アイシャだってここまで魔力の密度は高くない。
「やっぱりさ、身体を鍛えるために朝晩走り込みとかさせられたりして。あっちの山頂まで行って帰ってくるのが日課だー! とか言われちゃったり」
「あるかも。限界まで魔力を放出して、消耗しきる寸前を見極めては超回復! とか? とか?」
「……それは筋肉を鍛える場合ではないのか?」
「「あ」」
冷静に突っ込まれてしまった。
魔力を鍛える場合はどうやら違うらしい。
「もう少しお互いを知ってからでも良いかなと思っていたのだよ」
「ルシウスさん、カズンのお師匠様でしょう? 何かもうそれだけで間違いないって思うの」
「ねえ? だってちょっとした仕草とかカズンそっくりでさ。口調とか口癖もよく似てるし」
「む。そ、そうか?」
「「そういうとこ!」」
聞けば、ルシウスはカズンが4歳の頃からの付き合いだという。
「お前たちの生活パターンもあるだろうし、どこに修行の時間を入れるか考えてたのさ」
「生活パターンって言っても」
「古書店はあんまりお客さんも来ないしね。上の宿なんかもっと少ないし。俺は週に2回、昼間に街に古紙回収に出れば後はわりと自由がきくよ」
「私も、教会や騎士団経由で聖女に依頼がなければ時間を持て余してる感じよ」
アイシャはよく練られた飴のような茶の瞳で、トオンは蛍石の薄緑色の瞳を輝かせながらルシウスを見つめた。
(き、期待には応えねばなるまい!)
だが、魔力のあることが当たり前だったルシウスの故郷アケロニア王国の者たちと同じようにこのふたりを鍛えると、恐らく数日と保たない。
ルシウス自身が研鑽を積んできたのは、主に旧世代の魔力使いとしての分野だ。
アイシャとトオンは、新世代だから勝手が違う。
その辺り、ルシウスは少し戸惑っていた。だから時間をかけてふたりを観察して、どのようなカリキュラムが適すかを考えていたのだ。
「理論上は、環使いにできないことはないとされている。目的を設定して、その目的の実現に必要な魔力の質と量があればOKだ。……それだけなんだ」
とりあえず基本から入ることにした。
「まず……」
と言いかけて、ルシウスは口ごもった。
アイシャは既に聖女として完成している。旧世代の魔力使いとしてはかなり高い水準で合格ラインに達している。
ただし、環使いとしてはまだ誰の指導も受けていないから、これから使い方を覚えていかねばならない。
とはいえ、元々が魔力量の多い聖女なので、コツを掴めば難なく使いこなせるだろう。
彼女にはあまり問題がない。
トオンのほうは、このカーナ王国の初代聖女エイリーの実子で、前国王との間の庶子だそうだが、元々の魔力量はさほど多くない。
ルシウスは自分が莫大な魔力持ちであるし、これまで周囲にも優秀な魔力使いが多かったから、トオンのような本当の初心者を教えた経験がなかった。
(このふたりは恋人同士だというし、確かに見たところ魔力の相性も良い。アンバランスだとは思うが、常に互いを補うよう導くのが良いのだろう)
アイシャとトオンは、近くにいると互いの間をメビウスの輪のような8の字を描く魔力の流れが循環している。
この形の魔力の流れは、自分と相手との相性が良いときに発生する。穏やかな人間関係になりやすく、激昂するような喧嘩もしにくい関係であることが、見ただけでわかる。
ただしその分、激しい感情、例えば強い愛情の絡む関係には発展しにくいともいえた。
とりあえず、ルシウスは自分の知る環や環使いたちのことをある程度話していこうと決めた。
あとは彼らの反応を見ながら、何を教えるか工夫していけばよい、と。
ルシウスが相当に力のある魔力使いというのは、ふたりともわかる。
本人のネオンブルーの魔力が、近づくと文字通り圧力として感じられるほどで、アイシャだってここまで魔力の密度は高くない。
「やっぱりさ、身体を鍛えるために朝晩走り込みとかさせられたりして。あっちの山頂まで行って帰ってくるのが日課だー! とか言われちゃったり」
「あるかも。限界まで魔力を放出して、消耗しきる寸前を見極めては超回復! とか? とか?」
「……それは筋肉を鍛える場合ではないのか?」
「「あ」」
冷静に突っ込まれてしまった。
魔力を鍛える場合はどうやら違うらしい。
「もう少しお互いを知ってからでも良いかなと思っていたのだよ」
「ルシウスさん、カズンのお師匠様でしょう? 何かもうそれだけで間違いないって思うの」
「ねえ? だってちょっとした仕草とかカズンそっくりでさ。口調とか口癖もよく似てるし」
「む。そ、そうか?」
「「そういうとこ!」」
聞けば、ルシウスはカズンが4歳の頃からの付き合いだという。
「お前たちの生活パターンもあるだろうし、どこに修行の時間を入れるか考えてたのさ」
「生活パターンって言っても」
「古書店はあんまりお客さんも来ないしね。上の宿なんかもっと少ないし。俺は週に2回、昼間に街に古紙回収に出れば後はわりと自由がきくよ」
「私も、教会や騎士団経由で聖女に依頼がなければ時間を持て余してる感じよ」
アイシャはよく練られた飴のような茶の瞳で、トオンは蛍石の薄緑色の瞳を輝かせながらルシウスを見つめた。
(き、期待には応えねばなるまい!)
だが、魔力のあることが当たり前だったルシウスの故郷アケロニア王国の者たちと同じようにこのふたりを鍛えると、恐らく数日と保たない。
ルシウス自身が研鑽を積んできたのは、主に旧世代の魔力使いとしての分野だ。
アイシャとトオンは、新世代だから勝手が違う。
その辺り、ルシウスは少し戸惑っていた。だから時間をかけてふたりを観察して、どのようなカリキュラムが適すかを考えていたのだ。
「理論上は、環使いにできないことはないとされている。目的を設定して、その目的の実現に必要な魔力の質と量があればOKだ。……それだけなんだ」
とりあえず基本から入ることにした。
「まず……」
と言いかけて、ルシウスは口ごもった。
アイシャは既に聖女として完成している。旧世代の魔力使いとしてはかなり高い水準で合格ラインに達している。
ただし、環使いとしてはまだ誰の指導も受けていないから、これから使い方を覚えていかねばならない。
とはいえ、元々が魔力量の多い聖女なので、コツを掴めば難なく使いこなせるだろう。
彼女にはあまり問題がない。
トオンのほうは、このカーナ王国の初代聖女エイリーの実子で、前国王との間の庶子だそうだが、元々の魔力量はさほど多くない。
ルシウスは自分が莫大な魔力持ちであるし、これまで周囲にも優秀な魔力使いが多かったから、トオンのような本当の初心者を教えた経験がなかった。
(このふたりは恋人同士だというし、確かに見たところ魔力の相性も良い。アンバランスだとは思うが、常に互いを補うよう導くのが良いのだろう)
アイシャとトオンは、近くにいると互いの間をメビウスの輪のような8の字を描く魔力の流れが循環している。
この形の魔力の流れは、自分と相手との相性が良いときに発生する。穏やかな人間関係になりやすく、激昂するような喧嘩もしにくい関係であることが、見ただけでわかる。
ただしその分、激しい感情、例えば強い愛情の絡む関係には発展しにくいともいえた。
とりあえず、ルシウスは自分の知る環や環使いたちのことをある程度話していこうと決めた。
あとは彼らの反応を見ながら、何を教えるか工夫していけばよい、と。
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