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第二章 お師匠様がやってきた

頼むから普通に高級宿行ってください

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 古い赤レンガの建物にそぐわない、青銀の髪の麗しの男前ルシウス・リーストは、魔術師カズンの故郷、アケロニア王国の貴族だという。

「まあ一応、貴族籍にはある。当主の甥っ子の補佐をしていたのだが……先日、親戚に謀反を起こされて甥っ子ともども、家を追い出されてしまってな」

 行く宛ならいくらでもあったが、せっかくだからカズンから話を聞いていた、カーナ王国の聖女アイシャの顔でも見てこようと思いたち、元々こちらへ向かってくる途中だったらしい。
 それで3日前、そのカズンからリンク経由で、アイシャとトオンの食事事情を改善してやってくれと頼まれて、問題なく今朝、無事にカーナ王国入りしたとのこと。

「謀叛って! 大丈夫なんですか、それ」
「まあ、お手並み拝見というやつだ。ちょうどカズン様だけでなく我が師フリーダヤからもこの国のことを頼まれたところだったし、休暇気分だな」

 不穏な単語に驚いているトオンに、本人は朗らかに笑っている。

 いつまでも立ち話もなんなので、奥の食堂のほうにルシウスを促して、そちらで茶を入れて座りながら話をすることにした。
 普段から掃除はよくしているし、聖女のアイシャの祥兆であまり埃など汚れの溜まらない建物ではある。
 それでも、この麗しき男前の白い軍服に埃でも付きやしないかと、トオンは少し冷や冷やした。



「鮭の人……ええと、あのカズンの幼馴染みのリースト侯爵さんはどうなったんですか?」

 カズンから、「鮭を送ってきた奴は小さい頃からの幼馴染みでとても仲が良かった」と聞いていた。
 アイシャが尋ねてみると。

「うむ。今頃はカズン様を全力で追っていることだろう。会えると良いのだが、さてどうかな」

 カズンが5年前、故郷を出奔したときルシウスの甥も付いて行きたがったらしいのだが、当時は理由があって叶わなかったらしい。
 せめてもと、各国の冒険者ギルドに手を回して、カズンの足跡が判明するたび支援物資を送り続けていたという。
 アイシャとトオンがたくさん食べさせてもらった美味しい鮭も、その支援物資のひとつだったようだ。



「ところで、ルシウスさん。外の馬車はどうするんです? この後は宿泊先の宿に行くんですよね?」

 貴族の軍人将校そのものの外見や装いもそうだし、馬車5台分の荷物を運び入れることのできる宿屋となると、この王都にもそう数はない。

「いや、私は君たちの魔力使いの師匠となるため来たので、ここで厄介になることにするよ」
「え!? 無理ですよ、外の馬車の荷物が入るような部屋なんて、うちにはないですよ?」

 実際、トオンはアイシャと一緒にルシウスを建物の2階の宿屋フロアへ案内して、部屋を見せてみた。

 階段を上がって、廊下を挟んだ右手奥がアイシャの部屋。
 カズンがいたときは、左手の手前の部屋を使っていた。
 そちらのほうをルシウスに見せると、彼は窓際にベッド、壁際には小さな机と椅子、その隣に細長いクローゼットがあるだけの室内を興味深そうに眺めた。

「ん、何も問題ない。私はここを使わせてもらうとしよう」
「ええ!? 本気ですか? 残りの3部屋全部使ったって、あなたの外の馬車の荷物ぜんぶは入りませんよ!?」
「フフフ……懐かしいな、私も若い頃はやんちゃして冒険者ギルドの宿泊所で寝泊まりしていたものだ。そこはこの部屋より狭かったのだぞ?」

 自慢げに言われてしまったが、そうじゃない。そういう話じゃない。

 まだ出会ったばかりのこの大の大人にどう突っ込めばいいのかトオンが戸惑っているうちに、ルシウスは1階に降りて外の馬車の御者たちに何やら指示を出し、馬車の中で軍服を普段着に着替えてきた。
 それも、やはりお貴族様というべきか、妙にヒラヒラした飾りの付いたシャツや、見るからに肌触りの良さそうなネイビーのスラックスと黒の革靴だったりした。
 しかし、あの白いマント付きの軍服よりは遥かにマシだった。

 彼が部屋に持ち込んだ荷物は、自分の胸元までの高さの、大きめの旅行用スーツケースひとつのみ。
 残りは馬車ごと御者たちに指示を出して、荷物を保管する家を別途、準備させるとのことだった。




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鮭送ってきた人と、その叔父さんルシウスはサードシーズンで実家を追い出されてニート化するんですよ。
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