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ご主人様が侮辱された!(※ユキレラへは「待て」のご命令。つらい!)
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「ああ! このような異国の地で、私は運命を見つけた! 麗しの君よ、どうか私のものになってはくれまいか!」
(あ? 何だべ、芝居でも始まっただか?)
学生時代の友人たちとダンスを踊ってくるとルシウスが言ったので、踊り終わる頃に合わせて冷たいスパークリングワインを調達に行っていたユキレラ。
ちょうど曲の切れ目に、そんな芝居がかった男の声が聞こえてきて、何かの演目かと思ったら違かった。
(る、ルシウス様がプロポーズ受けてるっぺー!??)
思わず持っていたシャンパングラスを落としそうになったユキレラだ。
よりによって、ダンスホールのど真ん中で。
慌てて近くを通りかかったボーイにグラスを預けてご主人様の近くに駆け寄る。
だが、ルシウスはちらりとユキレラを見て『来なくていい』とアイコンタクトを送ってきた。
イエッサー!
忠犬ユキレラは待てができる良いユキレラ。
ユキレラのご主人様ルシウスは、リースト伯爵家の本家筋の次男で、現役子爵だ。
既に実家を出て独立しているので、さすがに同性の男性からのプロポーズを受けることは難しい。
ということをやんわりと伝え、最初は笑って流していたルシウスだったが、悪いことに相手は本気だった。
次第に困ったように断りを述べるようになったルシウスとは対照的に、相手の王族の機嫌はどんどん悪くなる。
仕舞いには切れてプロポーズ相手のはずのルシウスを怒鳴りつけるときた。
「お前のような顔だけの者はただ愛されていれば良いのだ!」
会場のあちこちで「あちゃあ」という顔をしている者たちがいる。
おそらく、ルシウスをよく知る者たちだろう。
何人か、ユキレラのセフレたちの顔も見えている。
「え、マジで? 魔王様に何かましてくれちやってるの、あの男?」
「あたくしたちのルシウス様に何たる暴言、いや妄言を。許すまじ」
紳士淑女の皆さんの顔もマジ切れしている者がちらほらと。
淑女の方々の中には、手に持った扇をバキリと折りかけている者までいる。
「顔だけ、とは随分なことを申される」
とても低い声がルシウスの腹の底から出た。
えっ、そんな低い声初めて聴きましたよ!? というような地獄の底から出しているような声だった。
「改めて自己紹介致しましょう。冒険者ランク及び騎士ランクS、魔法剣士のリースト子爵ルシウスと申します。で、何か私に仰いましたかな?」
ざわ、と会場が揺れた。
冒険者ランクと騎士ランクS。
それぞれAランクまでなら努力だけで辿り着けるが、Sランクとの間には努力だけでは超えられない断層がある。
Sランクは、冒険者としてなら冒険者ギルドのギルドマスターに就任可能であるし、国の騎士団なら副団長以上に就任可能なランクだった。
(ルシウス様、ほんと秘密多すぎだべ! 聞いてないっぺよー!!!)
「おお! それならなお素晴らしい! Sランクとは、歴史あるタイアド王国の王族である私の伴侶に相応しい飾りでないか!」
「飾り……だと……? よくもまあ言えたものだ……」
あれっ、誰だこの声? とユキレラが張りのあるアルトの女声に隣を振り向くと、真紅のドレス姿の黒髪黒目の三十手前ぐらいの美女がいる。
ダイヤのティアラにアップスタイルの編み込み入りのまとめ髪で、露わになったうなじが大変色っぽい。
この国で黒髪黒目は王族だけ。
そして王家の女性で該当するのは次期女王のグレイシア王太女殿下だ。大当たり!
ルシウス本人もだいぶお冠だったが、その上司でもある王太女のグレイシアもとても良い笑顔だった。
仲裁? するわけがない。
そもそも、予定にないこの他国の王族の来国には大変迷惑しているのだ。
親指を立てて、勢いよく下を指差した。
やっちまいな!
(あ? 何だべ、芝居でも始まっただか?)
学生時代の友人たちとダンスを踊ってくるとルシウスが言ったので、踊り終わる頃に合わせて冷たいスパークリングワインを調達に行っていたユキレラ。
ちょうど曲の切れ目に、そんな芝居がかった男の声が聞こえてきて、何かの演目かと思ったら違かった。
(る、ルシウス様がプロポーズ受けてるっぺー!??)
思わず持っていたシャンパングラスを落としそうになったユキレラだ。
よりによって、ダンスホールのど真ん中で。
慌てて近くを通りかかったボーイにグラスを預けてご主人様の近くに駆け寄る。
だが、ルシウスはちらりとユキレラを見て『来なくていい』とアイコンタクトを送ってきた。
イエッサー!
忠犬ユキレラは待てができる良いユキレラ。
ユキレラのご主人様ルシウスは、リースト伯爵家の本家筋の次男で、現役子爵だ。
既に実家を出て独立しているので、さすがに同性の男性からのプロポーズを受けることは難しい。
ということをやんわりと伝え、最初は笑って流していたルシウスだったが、悪いことに相手は本気だった。
次第に困ったように断りを述べるようになったルシウスとは対照的に、相手の王族の機嫌はどんどん悪くなる。
仕舞いには切れてプロポーズ相手のはずのルシウスを怒鳴りつけるときた。
「お前のような顔だけの者はただ愛されていれば良いのだ!」
会場のあちこちで「あちゃあ」という顔をしている者たちがいる。
おそらく、ルシウスをよく知る者たちだろう。
何人か、ユキレラのセフレたちの顔も見えている。
「え、マジで? 魔王様に何かましてくれちやってるの、あの男?」
「あたくしたちのルシウス様に何たる暴言、いや妄言を。許すまじ」
紳士淑女の皆さんの顔もマジ切れしている者がちらほらと。
淑女の方々の中には、手に持った扇をバキリと折りかけている者までいる。
「顔だけ、とは随分なことを申される」
とても低い声がルシウスの腹の底から出た。
えっ、そんな低い声初めて聴きましたよ!? というような地獄の底から出しているような声だった。
「改めて自己紹介致しましょう。冒険者ランク及び騎士ランクS、魔法剣士のリースト子爵ルシウスと申します。で、何か私に仰いましたかな?」
ざわ、と会場が揺れた。
冒険者ランクと騎士ランクS。
それぞれAランクまでなら努力だけで辿り着けるが、Sランクとの間には努力だけでは超えられない断層がある。
Sランクは、冒険者としてなら冒険者ギルドのギルドマスターに就任可能であるし、国の騎士団なら副団長以上に就任可能なランクだった。
(ルシウス様、ほんと秘密多すぎだべ! 聞いてないっぺよー!!!)
「おお! それならなお素晴らしい! Sランクとは、歴史あるタイアド王国の王族である私の伴侶に相応しい飾りでないか!」
「飾り……だと……? よくもまあ言えたものだ……」
あれっ、誰だこの声? とユキレラが張りのあるアルトの女声に隣を振り向くと、真紅のドレス姿の黒髪黒目の三十手前ぐらいの美女がいる。
ダイヤのティアラにアップスタイルの編み込み入りのまとめ髪で、露わになったうなじが大変色っぽい。
この国で黒髪黒目は王族だけ。
そして王家の女性で該当するのは次期女王のグレイシア王太女殿下だ。大当たり!
ルシウス本人もだいぶお冠だったが、その上司でもある王太女のグレイシアもとても良い笑顔だった。
仲裁? するわけがない。
そもそも、予定にないこの他国の王族の来国には大変迷惑しているのだ。
親指を立てて、勢いよく下を指差した。
やっちまいな!
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