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ご主人様へまっしぐら!(※ユキレラ的に生き別れの兄ちゃん1号の兄伯爵様と!)
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スラム街へと向かう馬車の中で、ユキレラはご主人様の兄、リースト伯爵のカイルから書類の束を渡された。
「『ユキレラ報告書』……えっ、こ、これは!?」
「身上調査をせずに、子爵のあいつの側に他人を置けるわけがない。お前のことは、我がリースト伯爵家の調査員が調べ上げている。……最後の数枚を見てみろ」
「は、はい」
慌てて言われた通りに書類を後ろからめくってみると、そこにはユキレラがど田舎村を出奔してからの、義妹アデラの足跡が追加資料として簡潔にまとめられている。
「アデラ……あいつ、いま王都にいるんですか」
「どうやらお前を探しに来たらしいな」
「探しにったって……」
義妹アデラはユキレラを探すため、労働者ギルドのネットワークでユキレラの行方を照会したらしい。
その後、たちの悪いゴロツキたちと意気投合してユキレラを見つけ次第、拉致する計画を立てたと報告書には書かれている。
「男娼館にオレを売り飛ばすって……そんな馬鹿な」
ユキレラは報告書の内容が信じられず、思わず二度見、三度見してしまった。
だが、報告書には「アデラの発言」として記入されている。
「ルシウスも当然、この報告書のことを知っている。我が家の調査員を使ったのはあいつだし、許可を出したのはこのオレだ」
「……はい」
(もう即座に土下座して、迷惑かけてすまね、許してけんろって言いたいけんどもおおおお!)
何となくこのご当主様には、口数は多くないほうが良い気がするユキレラだった。
大人しく聴き役に徹していれば必要なことを話してくれそうな感じもする。
顔はルシウスにそっくりだ。
ということは、ユキレラともよく似ている。むしろ違うところは装束と髪型ぐらいか。
ユキレラは青みがかった銀髪を切りっぱなしで整髪料も付けていないが、カイル伯爵はビシッと前髪を後ろに撫で付けていて、しかも何だか良い匂いがする。
ぱっと見、とても冷たい印象の男だし、以前ルシウスを殴ったところを見てしまったユキレラは正直許したくないところだ。
だが、こうして弟ルシウスの危機に慌てて駆けつけようとするところを見ると、見た目ほど冷たいお人ではないのかもしれない。
「状況から察するに、あいつはお前と間違われて誘拐されたってことだろう。居場所も宿屋から動いていない。コンディションも良好のようだ、まだ身の危険はないだろ………………っ!??」
「ご、ご当代様、どうしたんです!??」
本邸から持参していた、対象者の居場所を確認する魔導具のパネルを見て、伯爵の顔色がどんどん紙のように真っ白になっていく。
「おい、急げ! もっとスピードを出せないか!」
慌てて御者に指示を出していた。
馬車が走る道はこの王都では指定されていて、他に走る馬車がなければスピード制限などもない。
人々が忌避するスラム街へと向かう道だ。幸い、前にも後ろにも馬車はいない。
ぐん、と一気に馬車のスピードが上がり、後部座席に座っていたユキレラは背もたれに身体が押し付けられるのを感じた。
「る、ルシウス様にまさか危険が!?」
「シグナルが一気に警戒水準まで上がった。……くそ、多少の暴力ぐらいでやられる子ではないはずだが」
「ふぁっ、ぼ、暴力ー!??」
と馬車が急停車した。
「おい、どうした!?」
「カイル様、スラム街は馬車が乗り入れられるほど広い道がないようです。入口のここまでになります」
「……わかった。すぐに後続の我が家の騎士団も来る。それまで待機!」
「畏まりました!」
馬車を降りたカイル伯爵は手に持った魔導具のパネルで、ルシウスが捕えられているだろう宿屋の位置を確認した。
そして魔導具をポイっとユキレラに放ってきた。
「わわわ、危ないですって!」
落として割りでもしたら、ユキレラのおちんぎん如きでは弁償できないでしょこれ!
「先に行く。お前はそのパネル表示を見ながら付いて来い」
言うなり、全身に青い魔力を立ち上らせて、次の瞬間には風のように走り去った。
「し、身体強化の術だべ……」
魔力があると常人の何倍、何十倍もの身体能力を発揮することができる。
そう、先日、ルシウスやその甥っ子、王弟が壁走りエンジョイしてたものなど最たるものだ。
ユキレラはパネルに目を落とした。
魔導具とはいうが、魔力で作った透明な樹脂の手のひらサイズの板だ。
見ると、赤い丸ボッチが強く明滅している。
「おっといげね、オレも行がねど!」
忠犬ユキレラ、ご主人様までまっしぐら!
「『ユキレラ報告書』……えっ、こ、これは!?」
「身上調査をせずに、子爵のあいつの側に他人を置けるわけがない。お前のことは、我がリースト伯爵家の調査員が調べ上げている。……最後の数枚を見てみろ」
「は、はい」
慌てて言われた通りに書類を後ろからめくってみると、そこにはユキレラがど田舎村を出奔してからの、義妹アデラの足跡が追加資料として簡潔にまとめられている。
「アデラ……あいつ、いま王都にいるんですか」
「どうやらお前を探しに来たらしいな」
「探しにったって……」
義妹アデラはユキレラを探すため、労働者ギルドのネットワークでユキレラの行方を照会したらしい。
その後、たちの悪いゴロツキたちと意気投合してユキレラを見つけ次第、拉致する計画を立てたと報告書には書かれている。
「男娼館にオレを売り飛ばすって……そんな馬鹿な」
ユキレラは報告書の内容が信じられず、思わず二度見、三度見してしまった。
だが、報告書には「アデラの発言」として記入されている。
「ルシウスも当然、この報告書のことを知っている。我が家の調査員を使ったのはあいつだし、許可を出したのはこのオレだ」
「……はい」
(もう即座に土下座して、迷惑かけてすまね、許してけんろって言いたいけんどもおおおお!)
何となくこのご当主様には、口数は多くないほうが良い気がするユキレラだった。
大人しく聴き役に徹していれば必要なことを話してくれそうな感じもする。
顔はルシウスにそっくりだ。
ということは、ユキレラともよく似ている。むしろ違うところは装束と髪型ぐらいか。
ユキレラは青みがかった銀髪を切りっぱなしで整髪料も付けていないが、カイル伯爵はビシッと前髪を後ろに撫で付けていて、しかも何だか良い匂いがする。
ぱっと見、とても冷たい印象の男だし、以前ルシウスを殴ったところを見てしまったユキレラは正直許したくないところだ。
だが、こうして弟ルシウスの危機に慌てて駆けつけようとするところを見ると、見た目ほど冷たいお人ではないのかもしれない。
「状況から察するに、あいつはお前と間違われて誘拐されたってことだろう。居場所も宿屋から動いていない。コンディションも良好のようだ、まだ身の危険はないだろ………………っ!??」
「ご、ご当代様、どうしたんです!??」
本邸から持参していた、対象者の居場所を確認する魔導具のパネルを見て、伯爵の顔色がどんどん紙のように真っ白になっていく。
「おい、急げ! もっとスピードを出せないか!」
慌てて御者に指示を出していた。
馬車が走る道はこの王都では指定されていて、他に走る馬車がなければスピード制限などもない。
人々が忌避するスラム街へと向かう道だ。幸い、前にも後ろにも馬車はいない。
ぐん、と一気に馬車のスピードが上がり、後部座席に座っていたユキレラは背もたれに身体が押し付けられるのを感じた。
「る、ルシウス様にまさか危険が!?」
「シグナルが一気に警戒水準まで上がった。……くそ、多少の暴力ぐらいでやられる子ではないはずだが」
「ふぁっ、ぼ、暴力ー!??」
と馬車が急停車した。
「おい、どうした!?」
「カイル様、スラム街は馬車が乗り入れられるほど広い道がないようです。入口のここまでになります」
「……わかった。すぐに後続の我が家の騎士団も来る。それまで待機!」
「畏まりました!」
馬車を降りたカイル伯爵は手に持った魔導具のパネルで、ルシウスが捕えられているだろう宿屋の位置を確認した。
そして魔導具をポイっとユキレラに放ってきた。
「わわわ、危ないですって!」
落として割りでもしたら、ユキレラのおちんぎん如きでは弁償できないでしょこれ!
「先に行く。お前はそのパネル表示を見ながら付いて来い」
言うなり、全身に青い魔力を立ち上らせて、次の瞬間には風のように走り去った。
「し、身体強化の術だべ……」
魔力があると常人の何倍、何十倍もの身体能力を発揮することができる。
そう、先日、ルシウスやその甥っ子、王弟が壁走りエンジョイしてたものなど最たるものだ。
ユキレラはパネルに目を落とした。
魔導具とはいうが、魔力で作った透明な樹脂の手のひらサイズの板だ。
見ると、赤い丸ボッチが強く明滅している。
「おっといげね、オレも行がねど!」
忠犬ユキレラ、ご主人様までまっしぐら!
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