上 下
134 / 418

第134話 名探偵レオナ

しおりを挟む
 時間は少し遡る。


 ―――――レオナ視点―――――



「・・・なんだこりゃ?」


 西区まで攻め込んで来た魔物は見つけ次第全て討伐し、そのまま街の中央の魔物を倒しながら貴族街へと入り、ようやく北門へと辿り着いたわけだが・・・。


「魔物同士が戦ってる??」
「門を塞いでるのって、もしかしてカロリーゼロじゃない!?」


 カロリーゼロだ。

 パンダ工房にいたペチコが、工房の入り口に立っているカロリーゼロを指差して『街の守護神にゃ!』とか言っていたが、本当に守護神だったのか。

 しかし人間に味方する魔物がいるなんて普通は考えられない。
 可能性があるとしたらそれは・・・。


「近くにテイマーがいないか?」
「テイマー?」
「え?このカロリーゼロってテイムされた魔物なの!?」
「野生の魔物が人間の街なんか守るかよ!考えられるとしたら名のあるテイマーの仕業だ。もしくは・・・」
「カロリーゼロのテイムに成功した人がいるなんて聞いたことがないよ!」
「そりゃあテイム出来る可能性が無いわけじゃないけどさ、こんな無機物みたいな魔物を一体どうやって服従させるの?」
「テイマーじゃないんだから知るかよ!でもそれしか考えられねえだろ!!」


 貴族街を北上して来る時、すでに街の中は魔物の死体だらけだった。
 アタシらの前に魔物と派手に戦った奴らがいるんだ!

 そのお陰でこうして無事に北門へと辿り着けた。

 だが此処に来て見たモノは、魔物と戦っている勇敢な冒険者達ではなく、魔物が魔物と戦っているという超常現象だ。正直意味が分からない。


 防壁の上を調べに行っていたナナが戻って来た。


「防壁の上には誰もいなかったよ。いるとしたら門の外?」
「テイマーが前線に出て戦うなんて有り得ないと思うんだけど!自分が死んだらどうすんのさ!?」
「それよりね!門の外は『ウォーレヴィア』まみれだったよ!」
「何で『ウォーレヴィア』が?移動速度とか死ぬほど遅いハズだけど」
「ん~~~、そういえばおかしいわね。アレも門を守ってたとか?」
「へーーーーー!障害物として使ってるのかな?すごく頭の良いテイマーだね!!

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 しかしこのカロリーゼロから感じる雰囲気って、なんか可愛いというか、ほっとけないというか、とても身近な何かを連想させ・・・あっ!パンダだ!!


「もしかして、クーヤ・・・なのか?」


 二人が振り向いた。


「「クーヤちゃん!?」」


 そしてまた北門の方を見る。


「そういえば確かに可愛い何かを感じるような・・・」
「クーヤちゃんってテイマーだったっけ?」
「いや、クーヤは召喚士だ」
「え?じゃあこのカロリーゼロって召喚獣なの!?」
「それこそ不可能でしょ!!召喚士って魔物を単独で撃破しないと召喚獣には出来ないんだよ?小さな子供がどうやってこんなのを倒すのよ!」

「・・・でもクーヤだぞ?」


 その一言に説得力があったようで、二人は黙り込んだ。


 クーヤの意味不明さはご存じの通りだ。
 それにパンダ工房に寄った時、クーヤとタマだけがいなかったんだよ。

 あの二人が西門の防壁上から『北門が突破された』って情報を一早く伝えてくれたお陰で、街が大きな被害を受ける前にアタシらは北門まで到着することが出来た。


 ―――クーヤはその情報をどこから仕入れた?


 考えられることは一つ。召喚獣に偵察をさせていたんだ。

 アイテム召喚をしている姿は何度も見ていたが、さてはクーヤの奴・・・、家族に内緒で召喚獣を集めまくってやがったな!?

 おそらく魔物のスタンピードに備えて、一早く動いてたんだ。
 そしてタマもこの件に一枚絡んでやがるハズだ。


 これはみんなが避けている話だが、タマの職業はバーサーカーだ。


 ほとんどの子供は、この職業を祝福の儀で授かった瞬間に精神が破壊され、警護の兵士達によってその命を散らすことになる。

 しかしタマは最初の試練を乗り越えることに成功した。
 8歳にして、狂気の衝動を強靭な精神力で抑え込んだんだ。

 一歩間違えば魂が狂気に支配され、視界に入る全ての人間を惨殺して回るような非常に危険な職業。

 それを知った両親は、8歳になったばかりの娘を置いて何処かへと逃亡した。

 優しいじいちゃんばあちゃんのお陰で今も元気に暮らしてはいるが、学校でも恐れられて友達一人いなかったことだろう。

 だがクーヤは初めて出会った時に彼女の存在を受け入れた。

 バーサーカーの恐ろしさを知る前の年齢だったのが幸いしたとも言えるのだが、たぶんアイツはそれを知った所で態度を変えるような真似はしない。

 例え彼女の心が闇の底へ沈んだとしても、それを引き戻すことが出来るほどに信頼されているのはアタシから見ても明らかだ。

 そのことだけでも、クーヤが優しい心の持ち主だって証明になるだろう。

 とにかくそんな二人が組んだことで、カロリーゼロを召喚獣にすることが可能となったに違いない。一体何をやらかしたのかは想像もつかないけど、クーヤ一人じゃ街の外に出るだけでも困難だからな。


「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!カロリーゼロがやられた!!」


 なんだって!?まさかクーヤまでやられたんじゃねえだろうな!?

 ・・・いや、西門でタマは何かを投げて魔物に攻撃していたから、ここを守ってるならば防壁の上にいるハズだ。でも何となく別の場所にいるような気がする。少なくとも最前線で暴れるような戦い方はしないだろう。


「どうしよう!?私達三人で守るなんて無理だよ!!」
「いや待て!上手いことカロリーゼロの死体が門を塞いでるぞ!!あっ、もしかしてそれを想定して最終防衛線にカロリーゼロを配置したのか!?」

 こんなの5歳児の考えることじゃねーし!天才かよ!?

「でも召喚獣ってさ、倒されたら死体が消えなかった?」
「勝手に消えたような気がする・・・」
「1時間ほどで消滅するんだったかな?あんまり覚えてねーけど」

 拙いな・・・、三人で此処を守り切るなんて絶対無理だ。
 救援を呼びに一度戻った方がいいか。

「あーーーーーーーーーーーっ!向こうから援軍が来てるよ!!」

 ナナの指差す方向を見ると、冒険者の集団が駆け寄って来ている姿が見えた。

「やったあああああああああああああ!これで北門は何とかなるかもしれない!!」
「よっしゃーーーーーーーーーーーー!何としても此処を守り切るぞ!!」


 助かったぜクーヤ!!
 つっても本当にクーヤの仕業かどうかはわかんねーけど・・・。
 いや、間違いねーだろ!とにかく北門の守りはアタシらが引き継ぐぜ!!

 スタンピードが終わったら全部白状させてやっからな!!
 
しおりを挟む
感想 165

あなたにおすすめの小説

赤い流星 ―――ガチャを回したら最強の服が出た。でも永久にコスプレ生活って、地獄か!!

ほむらさん
ファンタジー
ヘルメット、マスク、そして赤い軍服。 幸か不幸か、偶然この服を手に入れたことにより、波乱な人生が幕を開けた。 これは、異世界で赤い流星の衣装を一生涯着続けることになった男の物語。 ※服は話の流れで比較的序盤に手に入れますが、しばらくは作業着生活です。 ※主人公は凄腕付与魔法使いです。 ※多種多様なヒロインが数多く登場します。 ※戦って内政してガチャしてラッキースケベしてと、バラエティー豊かな作品です。 ☆祝・100万文字達成!皆様に心よりの感謝を! 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。  

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...