午後のはなし

会社員A

カチャ、カチャン
ゆったりとした、ほんの少しの疲労を纏った歩幅に合わせてそんな音が響く。郊外、自然に囲まれた駅近の家には今頃、テレワークを終えた妻と高校から帰ってきた息子が晩御飯を作っているのだろう。そんな幸せの巣へ帰るのだと考えれば、足にしがみつくような疲労も特段気に留めるようなことでもなかった。
カチャン、響くは思いやりの音。子供の弁当のついで、なんて言ってはいるが、そこには確かに手間がかけられているはずだ。それでも毎日毎日鞄に入っている重みは、少し口の悪い彼女なりの愛情表現だろう。
季節は秋となり、午後は冬のような寒さを抱く。虫の音もすっかり消え果て木々種々のざわめきのみがほのかに鼓膜を揺らす。ふふ、と漏れ出た笑みは風に流れて飛んでいった。一歩、また距離を縮める。わざと大きくしたそれに合わせて、プラスチック同士がぶつかる音が大きく響いた。






















家族想いの家族の話、幸せを繰り返す秋の夜