午後のはなし

不幸者Ａ

出オチな話をしよう。

携帯を落とした。
携帯を無くした訳ではない。
ただ、携帯が割れた。
フィルムの合間を縫って画面右端から走る罅ひびは、心臓を、この心を酷く冷たくさせた。
真っ先に思い浮かぶのは頭の悪そうな、「どうしよう」といった焦りであった。どうしようもないことは自明であるのだが。ただ一人、救いようもないほど固いコンクリートに立ち、冷たく降り注ぐ雨を傘で遮り、守るように握り込んだスマートフォンを眺めていたのだ。あぁ、こんな所で止まっていたら、電車に乗り遅れてしまう。そんな風に催促する脳の反面、足は動かずただ手の中のスマートフォンを操作しようと指のみを動かした。
ザーザーうるさい中、やけにはっきりと押下の音が聞こえる。間もなく救いの光のように画面が光り周囲を照らした。
しかし、安堵は出来なかった。喜ぶよりも先に自分の目は嫌なものをとらえ、自分の脳は嫌なことを理解してしまったのだ。罅の蔓延る右下を中心に黒いような紺のような、底無しの穴のようにポッカリあいた暗闇が浮き上がる。液晶が駄目になったのだろうか。割れただけで、なんて思う脳は瞬時に周囲の情報を再認識した。防水機能があれど、割れた液晶の奥は水を許さないだろう。落とした瞬間地面の水が跳ね、割れた罅に入る確率はないとは言えない。とは言え、こんなことがあっていいのか。
初期画面を上にスワイプする。良かった、他の所は動くようだ。なんて安堵も束の間、暗証番号を催促する画面で指は停止した。組み込まれている数字は、壊れた液晶部に表示されなかった。
どうしたらいいのかも、つまりどうなっているのかも、何一つ分からない。あぁいや、一つだけ分かることはあった。

この携帯はもう、使い物にはならない。

思い浮かぶのは裕福とは言えない家庭、思い浮かぶのは明日も明後日も、これからもずっと学校で必要とされる携帯端末。

申し訳程度に映された液晶には現在時刻が表示されている。
やらかした、なんて思う心に追い討ちをかけるように、電車に乗り過ごしたことが知らされた。





















悲しみに暮れる夜、自責に溶ける梅雨の夜。