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第74話 王国騎士団

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 クルスは安堵した。

ガシャッ、ガシャッ!

 だが、すぐにそれは不安へと変わった。
 金属が規則的に触れ合う音がクルスの耳朶を打った。
 鎧をまとった複数の誰かが、ここに降りて来ている……
 音と気配からクルスはそう感じ取った。

 クルスはうなだれる男とナモを見た。

 もしかして、奴らの援軍か。

 クルスは身構えることも出来ず、かといって戦う気持ちだけが先行し、もどかしい思いだった。

 階段を慌ただしく降りて来る男達。

 来るか!

 クルスはせめて、心の中で身構える。

 だが、一団はクルスとエスティアの横を通り過ぎて行った。

(あれ!?)

「ガイアナ姫! 大丈夫ですか!?」

 彼らはガイアナ姫を取り囲んだ。
 その胸には、ラインハルホ王国の紋章。
 鎧に身を包んだラインハルホ王国の騎士だった。
 その数三人。

「ああ。この通り、アジトの頭は降伏した」

 ガイアナ姫は親指をクイと、男とナモに向ける。

「まったく。我々を置いて勝手に敵地に飛び込まないで下さいっ! 自分より強い相手が潜んでいたらどうするんですか!?」

 ケロリとした姫に、騎士の一人が声を荒げる。
 鼻筋の通った凛々しい男で、黒い眼帯で左目を覆っているのが特徴的だ。
 ガイアナ姫より少し年上といった感じだ。

「すまん。エルビス」

 舌を出して、申し訳なさそうにマユをハの字にするガイアナ姫。

 パルテノ村を探索した時もそうだった。
 ガイアナ姫は、ゴブリンの群れに勝手に突っ込んで行ったが、今回も単騎で乗り込んで来たらしい。
 やると決めたら周りが見えなくなる。
 作戦なんてあったもんじゃない。
 向こう見ずで自分勝手な姫だった。

「無事だったから良かったものを……。積極的なのは結構ですが、無計画に猪突猛進するのだけは慎んでください!」

 クルスが言いたかったことを、エルビスは顔を真っ赤にして言ってくれた。
 彼の様子から、本当にガイアナ姫のことを心配しているのが伝わる。

 ラインハルホ王国の戦力は、大きく王国騎士団と王国兵団に分かれる。
 立場的には王国騎士団の方が王国兵団より上で、個々の実力も高い。
 ちなみにクルスの父親であるナツヤは、王国騎士団に属していた。
 王族の護衛を任されるのが王国騎士団の役目で、城や街の警護は王国兵団が行う。
 それぞれ役目は分かれているが、臨機応変に立場を越えてお互いを助け合い、双方信頼関係で成り立っている。

 王国騎士団長であるエルビスは、ゲームでもガイアナ姫のことをいつも心配していた。
 この異世界でも、その想いは同じ様だ。

 彼の様にガイアナ姫のことを気遣ってくれる者がいれば、ひとまず安心だ。
 クルスはそう思った。

「縄かけろっ!」
「ははっ!」

 エルビスは他の騎士に命じた。
 部下の騎士たちは男とナモの身体に縄をかけ始めた。
 エルビスは部屋の中を調べ始めた。

 ひとまず騒ぎは収まり、張りつめた空気が緩んでいく。

「クルス、間にあって良かった……」

 クルスを見下ろすガイアナ姫の目が潤んでいた。
 本当に心配してくれていた様だ。

「あ……うぅ……」

 クルスは何度もお礼の言葉を述べようとするが、痺れ薬が効いていてまともに声がでない。

「わたしっ……クルスが死んだら、この先、どうすればいいか……」

 ガイアナ姫は、目の端に涙を浮かべ唇を噛み締めた。
 クルスの頬にしずくが落ちた。

(ガイアナ姫……)

 やばい、アティナというものがありながら……
 惚れちゃいそうだ……
 クルスの心が揺れる。

「みゃっ、みゃああっ」
「ん?」
「みゃああああっ!」
「何だ?」

 エスティアの鳴き声にガイアナ姫は反応した。
 エスティアは痺れで自由がきかないなりに、目力と拙い鳴き声で、ガイアナ姫に必死に何かを訴えている。

「みゃあ、みいやああああっつ! みゃああああっ!」
「何? クルスは、あたしのものだから……言い寄るな? だと。……おい、クルス。何だんだ? この獣人の女は? 私に許可なくどこで知り合ったんだ?」

 なんでエスティアと知り合うのに、あなたの許可がいるんですか?
 僕はあなたの部下じゃありませんっ!

 クルスは声を大にして、エスティアのことを説明したかった。

「お、何かしゃべりたいんだな。すまん、すまん。バタバタしてて忘れてた。さて、クルス。これを飲め」

(ちょっとバタバタって……忘れないでくださいよ。それ一番大事!)

 ガイアナ姫はクルスの口に錠剤を入れ、水筒の水を飲ませた。
 痺れ薬の痺れを取るための薬だった。

 クルスの身体からみるみる痺れが取れて行く。

「ひ、姫……。ありがとうございます」
「うむ」

 クルスは色々話したかった。
 エスティアのことも、さっきの涙のことも、だが、まず最初に出た言葉は……

「でも、どうしてここに?」

 クルスの不思議そうな顔に向かって、ガイアナ姫はクスッと笑いこう答えた。

「私もロドス大陸へ行くために、マドニアに来たんだ」

つづく
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