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第64話 奴隷オークション

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 遠ざかって行く船の姿を見ながら、クルスは膝をついた。

「母さん……ごめん……」

 ユナを助けることは出来なかった。
 ゲームでも助けることは出来ないのだから、この異世界でも、こうなるのは運命だったのかもしれない。

(結局、どうあがいても、形は違えどゲームのシナリオ通りことは進んでいくとしたら、アティナだってその内、死ぬのではないか……)

 クルスは暗い大きな穴を覗き込んでいるような気分になった。
 それは絶望という暗黒がどこまでも続く大きな穴だった。

 ……だとしても、納得がいかなかった。

 運命は変えられたのだ。

 奴隷商人ゲロルグさえ助けなければ、船に乗ることが出来たのではないか……クルスの胸の中は後悔と憎しみでいっぱいになった。

 打ちひしがれている間にも、港には沢山の船が入って来る。

 ひと際大きな黒い船が入港して来た。

「おお! あれだ! あれだ!」

 馬車の車輪の音共にゲロルグの声が聞こえて来た。
 挨拶も無く、クルスの横を通り過ぎて行く。

「トラキオ行きの定期船はこちらでーす!」

 青と白の縞模様のシャツを着た船員が、手を振りながら人々を誘導する。
 その中にはゲロルグ一行の姿もあった。

「さ、降りろ!」

 タカが荷台からエスティアの手を取り、降ろしている。
 エスティアは観念したのか、暴れることも無く、俯いたままそれに従っていた。

「ゲロルグさん、こりゃまた、いい感じの獣人だね!」
「だろ? ラインハルホのスラムにある獣人孤児院から買い取ったんだよ。結構高かったんだから。ばっちり高値で買い取ってくれよ」

 クルスは顔を上げた。
 ゲロルグとやり取りしているのは、黒いターバンを巻いたちょび髭の太った男だった。
 ゲロルグも似たような格好だ。
 白いターバンをしていてちょび髭で太っている。
 まるで兄弟が話しているみたいだ。
 二人は、タカに手を握られうなだれたままのエスティアを見ながら話している。

「オークションに出せば、高い値で買い取ってくれる物好きの金持ちがいるはずだ。奴ら、普通の相手じゃ飽きてるからね」
「たのむよ。ロザベッティさん。わしにとっては、あんたしか奴隷オークションへの繋がりがないんだからな」

 黒いターバンの男、ロザベッティは奴隷ブローカーらしい。
 トラキオでは奴隷のオークションが行われ、人気が高い奴隷は高値で競り落とされるらしい。
 そこまではゲームでも一緒だ。
 クルスもゲームではそういうイベントがあると知っていたが、どこか胸糞が悪くてスルーしていた。
 まさか、ここでそういう胸糞イベントの一端に触れることになるとは。

 船に乗り遅れたばかりで、多少自暴自棄になっているクルスにとって、この二人のやり取りはただただ、腹立たしいばかりだった。

つづく
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