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第49話 覚醒する妹

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 だが、クルスにとって気掛りなことがあった。

 アルゴヌス王国には、七英雄の末裔『漆黒の戦士・ギガテス』がいる。

 彼はゲームではガイアナ姫の許婚という設定だった。

 ゲームのエンディングでは、ガイアナ姫とギガテスの結婚式に乱入したクルスが、ガイアナ姫を略奪する場面がある。

 クルスにとって、ゲーム内で因縁がある相手がいる場所に、少しでも近づくのは気が引けた。

 そして、ギガテスも英雄の末裔だ。
 何かの拍子に、出会ったら出会ったで、ガイアナ姫の様に、クルスを救世主と感じて熱心に魔王討伐の旅に勧誘して来る恐れがある。

「クルス……。どうした?」

 ガイアナ姫に声を掛けられ、クルスは我に返った。

「いや、何でもないです」


 翌朝。

「えいっ! やぁっ! とぉっ!」

 家の外から声が聞こえる。
 クルスは旅の支度をしながら、耳を澄ませた。
 デメルの元気な掛け声に交じって、木と木がぶつかり合う音が聞こえる。

「おっ、やるな! 次はこうだっ!」

 ガイアナ姫の声も聞こえてくる。

(一体、何をやってるんだ?)

 クルスは旅の支度を中断して、外に出てみる。

「あ!」

 クルスは目を見開いた。

 そこには、木剣と木剣をぶつけ合うガイアナ姫とデメルがいた。

「くっ……負けないよ。ガイアナお姉ちゃんっ!」
「ふん。私に勝つなんて100万年早いわ。デメルッ!」

 まだ5歳のデメルが14歳のガイアナ姫と木剣で打ち合っている。
 身長差は二倍もある。
 もちろん、小さい方はデメルだ。
 その彼女がガイアナ姫と同じ大きさの木剣を振り回している。
 クルスはそのことだけでも驚いたが、デメルが黒髪を振り乱し、ガイアナ姫と時には打ち合い、つばぜり合いをし、隙を付き打ち込もうとしている。
 もちろんガイアナ姫だって子供相手だから手加減をしているのだろうが、それでもデメルは善戦していた。
 事実、ガイアナ姫の顔が本気になりつつある。
 
(もしかして、デメルは覚醒し始めているのでは……)

 クルスはデメルのステータスを見た。

 名前:デメル
 レベル:4
 性別:女
 職業:竜戦士
 HP:50
 MP:0
 攻撃力:54
 防御力:76
 素早さ:2048
 スキル:不明
 魔法:不明

(竜騎士に目覚めたか……)

 デメルはゲームでは、イベントキャラクターと言われる特殊なNPCだ。
 クルスの妹として登場する。
 やがて成長するに従い、特殊な職業に目覚める。
 どの職業になるかはランダム要素で決まる。
 プレイヤーによって異なることがSNSや攻略サイトに投稿されていた。
 特に多いのがデメルの職業が『重戦士』になる場合だった。
 この場合は、タンクとしての使い方が出来る。
 他にも獣を乗り回してた戦う『獣戦士』は人気だ。

 兎に角、デメルは特殊な戦士系の職業に覚醒する。

 この異世界でのデメルは、最も人気がある『竜戦士』に覚醒した。
 竜戦士はその名のごとく、ドラゴンを操り戦う。

 ガイアナ姫のレベルは33。
 ステータス的にはデメルは相当劣る。
 だが、その中でも素早さはガイアナ姫より勝っていた。
 その素早さのお陰で、デメルはガイアナ姫を本気にさせるまで打ち合っていた。

「とぉっ!」

 気合一閃。

 デメルの袈裟切りがガイアナ姫を捉えた。

 かのように見えた。

 だが、デメルは次の瞬間地面にうつ伏せに倒れていた。
 すれすれで袈裟切りを交わしたガイアナ姫がデメルの首に木剣を振り下ろしたからだ。

つづく
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