38 / 75
第38話 姫と聖女
しおりを挟む
普段は静かなパルテノ村の夜。
だが、今晩だけは、祭りの様な賑やかさだった。
ガイアナ姫達を歓待するため、村をあげての盛大な宴会が行われていた。
道沿いに露店が立ち並び、軽食やお菓子が売られていた。
噴水広場では、吟遊詩人の歌が大人気だった。
「わーい! わーい!」
デメルが大人達の間を縫う様に走り回っている。
(デメルは呑気でいいよなぁ……)
クルスは広場の噴水の縁に腰掛け、そう思った。
会議では、明日の朝からパルテノ村周辺を調査することが決まった。
実際の現状を目の当たりにしないと、具体的な判断が出来ないという結論に落ち着いたからだ。
クルスは露店でパンを売っているアティナを見た。
(これで良かったのかな……)
結局、クルスはアティナのことを会議では言わなかった。
アティナは聖女だ。
Aクラスのモンスターを引き寄せたのは、アティナのせいだ。
ゲームでは、魔王デウスとの最終決戦で、アティナは聖女としての重要な役割を果たす。
その役割と引き換えにアティナは命を落とす。
魔王としては、アティナを生かしてはおけない。
だから、彼女がパルテノ村から一歩でも外に出れば……
本来、出現するはずの無い場所で、強いモンスターを生成《ポップ》してでも、彼女を殺そうとするのが当然だ。
(ゲームではアティナを外に連れ出せなかった。この異世界では外に連れ出せるが……連れ出した結果、魔王の強力な刺客が送り込まれる)
クルスは、
はぁ……
とため息が出た。
ガイアナ姫に本当のことを言えば、アティナはラインハルホ城に連れて行かれるだろう。
クルスは、それだけは避けたかった。
だから、本当のことは伏せて置いた。
「クルス、踊ろう!」
頭を抱えていたクルスは顔を上げた。
「アティナ……?」
いつもの白いブラウスに赤いフレアスカート。
だけど……なんか違う。
「ガイアナ姫……っ!」
「えへへ。アティナの私服、お洒落だから着てみたかったんだ。お互いの服、交換したんだ」
(あ……)
クルスは、ガイアナ姫の指差す先を見た。
露店に立つアティナの服装がいつの間にか変わっている。
昼間見た、ガイアナ姫の白いワンピースを着ている。
「アティナはいい娘だな」
「は、はい……」
(いつの間に二人は仲良くなったんだ!?)
「ガイアナ姫、クルスをよろしくお願いします!」
「うむ!」
お互い手を振り合っている。
(なるべく、あの二人が接近して欲しくなかったんだがな……)
クルスは周囲が一層騒がしくなったのを感じた。
吟遊詩人のギターと大道芸人の笛で、皆、踊り始めている。
それぞれパートナーを見つけ、男女で組んで踊っている。
ダンスパーティーが始まったのだ。
「さ、踊るぞ!」
「ちょっ……ちょっと……」
ガイアナ姫はクルスの手を掴み、無理やり立たせた。
(ダ、ダンスなんてやったことないよぉ……)
つづく
だが、今晩だけは、祭りの様な賑やかさだった。
ガイアナ姫達を歓待するため、村をあげての盛大な宴会が行われていた。
道沿いに露店が立ち並び、軽食やお菓子が売られていた。
噴水広場では、吟遊詩人の歌が大人気だった。
「わーい! わーい!」
デメルが大人達の間を縫う様に走り回っている。
(デメルは呑気でいいよなぁ……)
クルスは広場の噴水の縁に腰掛け、そう思った。
会議では、明日の朝からパルテノ村周辺を調査することが決まった。
実際の現状を目の当たりにしないと、具体的な判断が出来ないという結論に落ち着いたからだ。
クルスは露店でパンを売っているアティナを見た。
(これで良かったのかな……)
結局、クルスはアティナのことを会議では言わなかった。
アティナは聖女だ。
Aクラスのモンスターを引き寄せたのは、アティナのせいだ。
ゲームでは、魔王デウスとの最終決戦で、アティナは聖女としての重要な役割を果たす。
その役割と引き換えにアティナは命を落とす。
魔王としては、アティナを生かしてはおけない。
だから、彼女がパルテノ村から一歩でも外に出れば……
本来、出現するはずの無い場所で、強いモンスターを生成《ポップ》してでも、彼女を殺そうとするのが当然だ。
(ゲームではアティナを外に連れ出せなかった。この異世界では外に連れ出せるが……連れ出した結果、魔王の強力な刺客が送り込まれる)
クルスは、
はぁ……
とため息が出た。
ガイアナ姫に本当のことを言えば、アティナはラインハルホ城に連れて行かれるだろう。
クルスは、それだけは避けたかった。
だから、本当のことは伏せて置いた。
「クルス、踊ろう!」
頭を抱えていたクルスは顔を上げた。
「アティナ……?」
いつもの白いブラウスに赤いフレアスカート。
だけど……なんか違う。
「ガイアナ姫……っ!」
「えへへ。アティナの私服、お洒落だから着てみたかったんだ。お互いの服、交換したんだ」
(あ……)
クルスは、ガイアナ姫の指差す先を見た。
露店に立つアティナの服装がいつの間にか変わっている。
昼間見た、ガイアナ姫の白いワンピースを着ている。
「アティナはいい娘だな」
「は、はい……」
(いつの間に二人は仲良くなったんだ!?)
「ガイアナ姫、クルスをよろしくお願いします!」
「うむ!」
お互い手を振り合っている。
(なるべく、あの二人が接近して欲しくなかったんだがな……)
クルスは周囲が一層騒がしくなったのを感じた。
吟遊詩人のギターと大道芸人の笛で、皆、踊り始めている。
それぞれパートナーを見つけ、男女で組んで踊っている。
ダンスパーティーが始まったのだ。
「さ、踊るぞ!」
「ちょっ……ちょっと……」
ガイアナ姫はクルスの手を掴み、無理やり立たせた。
(ダ、ダンスなんてやったことないよぉ……)
つづく
0
お気に入りに追加
359
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。
真白 悟
ファンタジー
なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。
そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。
だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。
チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。
犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど
楽して儲けたい悪役商人の勘違い英雄譚 ~大商会の御曹司に転生したから好き勝手に生きたかったのに!~
鈴木竜一
ファンタジー
大陸中に名を轟かせるギャラード商会。
その御曹司であるレークは転生者であった。
社畜として生き、社畜として散った前世の記憶を持つ彼はある野望を胸に抱く。
「二度目の人生では働かない!ハーレム作って楽しく暮らしてやる!そして今度は俺が社畜を飼って甘い汁を啜る番だ!」
楽しい異世界生活を送るため、彼は早速努力を重ねる。
さらに社畜兼ハーレム要員として優秀な人材を集め始めた。
優秀な鍛冶職人を雇うため、彼女を不当に囲っていた非合法の闘技場を潰したり。
学園に通い、魔道具アドバイザーとして平民の少女を雇うため、弱みを握って彼女を脅す変態教師を成敗したり。
奴隷として売られるはずだった子どもたちを未来の社畜として育てるため、怪しい組織に支配されていた交易都市を救ったり。
「はっはっはっ!いい調子だ!我が商会の未来は輝いている!」
第二の人生を謳歌するレークはまだ知らない。
楽して儲けようとしてきた数々の行いが人々を助け、いつの間にか英雄として尊敬されていることを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる