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第1章

第59話 囚われの身

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「うっ……うう……」

(どこだ、ここは?)

 ムネタカは目を覚ました。
 身体の自由が効かない。
 腕を動かそうとしても動かない。
 それもそのはず、両腕は鎖でつながれていた。
 足も動かない。
 足も鎖でつながれている。
 ムネタカは自分が立たされた状態で鎖につながれているのを把握した。
 かなり頑丈らしく、思いっきり引っ張っても切れることは無さそうだ。

「捕まったか……」

 ひとり呟く。
 辺りを見回した。
 石造りの壁。
 真四角の部屋だ。
 壁には何やら、斧、剣、鞭が立てかけられている。
 火を起こした炉の中には、鉄の棒が差さっている。
 何たる不覚。
 しかも、こんな時のために命を絶つために持っていたレイピアは奪われてしまっている。
 舌をかみ切って死のうにも、口には布切れをまかれていてそれも難しい。

(これから拷問が始まるのか……)

 そう思うとぞっとした。
 身体の自由が効かず、一方的にいたぶられる。



「ね、あなた、私のこと好きなんでしょ?」

「え? いきなり何を言い出すんですか? ペル様」

 応接室に案内されて入るなり、ペルはいきなりローランをじっと見た。
 ローランの顔は真っ赤だった。

「あ、図星だ! その表情!」

「う、そ、そんなことは」

「だって、儀式の間、ずっと私のこと見てたもんね」

「……」

 ペルはニコニコ笑った。
 ローランは困り顔だった。

「では、そろそろ、僕は戻ります。父上が呼んでいるので……」

 丸顔のローランは、ハンカチで汗を拭きながら退室しようとする。

「ね、私の言うこと聞いてくれたら、付き合って上げてもいいんだけどなあ~」

 ペルは去って行くローランの背中に、甘ったるい声を掛けた。

「え?」

 思わず立ち止まるローラン。
 振り返ったその顔には、笑顔を我慢するような引きつった顔がある。

「ね、お願いがあるの」

 ペルはローランの鼻先まで自分の顔を近づけた。



(それにしても、ムネタカという名前、どこかで聴いたことがある……)

 ユメル侯爵はそう思った。
 そう思いだすと、誰だったかか記憶を探り始める。
 だが、思い当たらない。
 かなり昔の様な気がするが……
 やられた方は覚えているが、やった方は覚えていない。
 そんなものだ。

「どうした? ユメル殿」

 オズモンド国王が問い掛ける。

「あ、いや、すいません」

 一行はカドレア領行きが取りやめになり、一旦、ユメル領に引き返すことになった。
 一行と言っても、ほとんどの護衛は殺され、ユメル侯爵は大きな損害を受けた。

 ここはユメル侯爵の執務室。
 オズモンド国王、セリシア王妃、ペルはユメル邸でしばらく滞在することになった。

 あのムネタカとかいう、小僧からこれから訊き出さなければならないことが沢山ある。

 ユメル侯爵はそう思った。
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