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第1章

第58話 最悪の再会

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 剣を構えるユメル侯爵。
 だが、ムネタカの戦い振りを見て、不利と感じ取っているのか、少し手が震えている。
 勝つということは自信が無いと出来ない。
 実力が有っても自信が無ければ負ける場合もある。
 逆に実力が無くても自信があれば勝つことが出来る場合もある。
 今のムネタカは、どっちでもいいことだった。
 自信とか実力以上に、復讐の対象を倒せるという喜びがあるから。

「最後だ!」

 あと少し。
 その時、

「ムネタカ~!」

(は?)

 自分を呼ぶ幼い声に思わず足が、一瞬、ほんの一瞬だけ止まるムネタカ。

「やっぱ、ムネタカだ!」

 ユメル侯爵の背後に立つ少女が笑顔で手を振っている。

(誰だ? あの女は)

 関わっている暇は無い。
 それにしても、あの満面の笑みは一体何なのか?
 ムネタカの沈黙と行動停止はほんの一瞬のものだった。
 ユメル侯爵は目の前にいながら、ムネタカのほんの一瞬のフリーズに気付かなかったくらいだ。
 本当にそのくらいの短い停止……フリーズ。
 事実、その次のほんのマイクロ秒の間には次の行動に移ろうとしていた。
 だが、その細かい停止タイミングを見逃す者がいなかったわけじゃない。

ドスッ!

「いっ……」

 ムネタカは背中に激痛を感じた。
 次の一歩が踏み出せない。
 矢が刺さったのだ。
 毒の矢じりから流れる毒が、毒がじわじわと身体を侵していく。

「うううう……」

 ムネタカは無念だった。
 まだ敵がいた。
 誰かが放った矢が、ムネタカの悲願を阻んだ。
 ぐにゃりと歪む視界の中に、邪悪な笑顔のユメル侯爵が浮かぶ。
 目の前で、マーブルの様にいろんなものの色が混じり合い、1つになったところでムネタカの意識が飛んだ。



 その日の夕方。

「ムネタカが捕まったか……」

「はい」

「むむむ……」

 執務室にて斥候の兵士からの報告に、唇を噛むフェミナ。
 その顔は苦渋に満ちていた。

「本当に、ムネタカだったの?」

 念を押すマーシャ。
 彼女もまた信じたくない様だ。

「はい。間違いありません」

 重苦しい雰囲気が部屋の中を包む。
 ムネタカの命が失われていないだけでも良しとすべきか。
 だが、彼がもし拷問を受け、口を割り、フェミル達の仕業だと知れ渡れば……それこそ戦争の始まりだろう。

「フェミル様……」

 マーシャが次の行動を促す様に、フェミルの方を見る。
 その目は決心に満ちていた。

「マーシャ。救出に行きたいのはやまやまだが……、我々ではそれが無理だと分かる。ムネタカを救いに動けば、失敗した時。我々が宗孝を差し向けたということがバレてしまう……今はムネタカを信じるしかない」

「フェミル様、それはつまり……」

「ムネタカが真実を語る前に、何らかの方法で命を絶ってくれるのを願うしかない」

 マーシャはじっとフェミルを見たまま、何も言えなかった。
 10年間ずっと一緒だったムネタカを、仕方ないとはいえ、見殺しにしてしまうのは、どうしてもできない。
 だが、どうすればいい?
 自分が非力過ぎて、悔しい。
 それが今のマーシャだった。
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