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賢者の人生編
第97話 now loading……⑤
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私はセーブポイントを設定することにした。
ジェス姫が私から去った日がセーブポイントになった。
虚無感に満ちたつまらない人生が再び始まるのだけは避けたかった。
だから、私は魔王ハーデンに期待した。
これまで何度もループして、人の何倍もの経験を積んでいる私を倒せるのは魔王だけだ。
だが、魔王ハーデンは弱過ぎた。
私以外のパーティの仲間達は、苦戦していたようだが……
とにかく、余りの弱さに私は失望した。
平和が訪れた。
私はつまらない人生にため息が出た。
私は自殺した。
セーブポイントに戻った。
その証拠に、ジェス姫とその想い人が手を取り合って森の中へと消えて行く。
私はそれを見送ると、今後、どうするか考えた。
そうだ、私を楽しませてくれる者を育てればいい。
そう考えた私は、パーティメンバーを自ら探すことにした。
ギルドで勇者気取りのグランに声を掛けた。
こいつは口先ばかりで、大して強くもない。
だが、野心があるから育て方次第で私を楽しませてくれるかもしれない。
「グラン、お前の好きな女のタイプを教えてくれ」
「そんなの訊いてどうするんだ?」
「見つけといてやるよ」
「ありがたいけど……何で?」
「魔王討伐パーティのメンバーのモチベーションが上がるなら、私は何だってするよ」
表向きグランをリーダーという形にして、私はメンバー集めを始めた。
イケメンのグランが爽やかな挨拶と共に声を掛ける。
皆、好印象を抱きパーティに加わってくれた。
「次はあいつだ」
そして私が最後に選んだのがケンタだった。
彼は街の片隅で、背中にたくさんの荷物を背負い行商みたいなことをしていた。
「あんな弱そうな奴を?」
「うむ」
グランは不承不承と言った感じで、ケンタに声を掛けに行く。
あんな雑魚、私だってある理由が無ければパーティに入れる気はなかった。
グランが戻って来て、こう言う。
「断られたよ」
「分かった。ディオ王から勅命を出してもらおう」
私は勅書を携えて、教会に向かった。
教会は所々にゴミの山が点在するスラム街の、ど真ん中にあった。
孤児院が併設された教会は薄汚くて、すえた匂いがする。
私は思わず顔をしかめた。
「ケンタが……ですか?」
シスターマリナは目を丸くしていた。
彼女を見るのはこれで二度目だった。
一度目は街で見掛けた。
その時は、ケンタと孤児を連れて買い物しているところだった。
グラン好みの女が見つかった。
私はそう思うと、今後のストーリー展開にこの女を組み込めば、面白いことになると思った。
「ケンタ君は真面目なので、是非、我がパーティで働いてもらいたい」
「ありがたいお話ですが……、うちのケンタは、力にならないと思いますよ」
「勲章を与えられ、ディオ王に召し抱えられるチャンスでもあります」
「名誉の問題ではなく……」
私は言葉の端々からケンタに対するマリナの愛情を感じ取った。
彼女は彼の名誉よりも彼の命の方が大切なのだ。
これはますます面白くなりそうだ。
「見れば、この教会、ボロボロじゃないですか。ところどころ虫が湧いてて衛生的じゃない。雨漏りも酷い。大切な子供たちが病気になってしまいますよ」
私は教会の壁をペシペシ叩いた。
「報酬の半分を前渡ししますよ」
マリナはそれでも断った。
だが、それを聞きつけたケンタが割り込んで来た。
もうかなり前から、壁の向こうで気配は感じていた。
私はケンタに語り掛けていたのだ。
「マリナさん。僕、行ってきます!」
「ケンタ、でも……」
「だって、お金があれば皆、好きなものが食べられて、穴のあいていない服が着れて、綺麗な教会に住めるでしょ?」
マリナは眉根を寄せ困惑した表情だ。
ケンタは純粋なのだろう。
マリナの役に立ちたい一心なのか、鼻息荒くこう言う。
「孤児だった僕をここまで立派に育ててくれた牧師様や皆、そしてマリナさんに恩返しがしたいんです!」
マリナは目に涙を浮かべていた。
それは、嬉しさと悲しさがない混ぜになったものだろう。
私はそう思った。
こうしてケンタの魔王討伐パーティ入りが決まった。
つづく
ジェス姫が私から去った日がセーブポイントになった。
虚無感に満ちたつまらない人生が再び始まるのだけは避けたかった。
だから、私は魔王ハーデンに期待した。
これまで何度もループして、人の何倍もの経験を積んでいる私を倒せるのは魔王だけだ。
だが、魔王ハーデンは弱過ぎた。
私以外のパーティの仲間達は、苦戦していたようだが……
とにかく、余りの弱さに私は失望した。
平和が訪れた。
私はつまらない人生にため息が出た。
私は自殺した。
セーブポイントに戻った。
その証拠に、ジェス姫とその想い人が手を取り合って森の中へと消えて行く。
私はそれを見送ると、今後、どうするか考えた。
そうだ、私を楽しませてくれる者を育てればいい。
そう考えた私は、パーティメンバーを自ら探すことにした。
ギルドで勇者気取りのグランに声を掛けた。
こいつは口先ばかりで、大して強くもない。
だが、野心があるから育て方次第で私を楽しませてくれるかもしれない。
「グラン、お前の好きな女のタイプを教えてくれ」
「そんなの訊いてどうするんだ?」
「見つけといてやるよ」
「ありがたいけど……何で?」
「魔王討伐パーティのメンバーのモチベーションが上がるなら、私は何だってするよ」
表向きグランをリーダーという形にして、私はメンバー集めを始めた。
イケメンのグランが爽やかな挨拶と共に声を掛ける。
皆、好印象を抱きパーティに加わってくれた。
「次はあいつだ」
そして私が最後に選んだのがケンタだった。
彼は街の片隅で、背中にたくさんの荷物を背負い行商みたいなことをしていた。
「あんな弱そうな奴を?」
「うむ」
グランは不承不承と言った感じで、ケンタに声を掛けに行く。
あんな雑魚、私だってある理由が無ければパーティに入れる気はなかった。
グランが戻って来て、こう言う。
「断られたよ」
「分かった。ディオ王から勅命を出してもらおう」
私は勅書を携えて、教会に向かった。
教会は所々にゴミの山が点在するスラム街の、ど真ん中にあった。
孤児院が併設された教会は薄汚くて、すえた匂いがする。
私は思わず顔をしかめた。
「ケンタが……ですか?」
シスターマリナは目を丸くしていた。
彼女を見るのはこれで二度目だった。
一度目は街で見掛けた。
その時は、ケンタと孤児を連れて買い物しているところだった。
グラン好みの女が見つかった。
私はそう思うと、今後のストーリー展開にこの女を組み込めば、面白いことになると思った。
「ケンタ君は真面目なので、是非、我がパーティで働いてもらいたい」
「ありがたいお話ですが……、うちのケンタは、力にならないと思いますよ」
「勲章を与えられ、ディオ王に召し抱えられるチャンスでもあります」
「名誉の問題ではなく……」
私は言葉の端々からケンタに対するマリナの愛情を感じ取った。
彼女は彼の名誉よりも彼の命の方が大切なのだ。
これはますます面白くなりそうだ。
「見れば、この教会、ボロボロじゃないですか。ところどころ虫が湧いてて衛生的じゃない。雨漏りも酷い。大切な子供たちが病気になってしまいますよ」
私は教会の壁をペシペシ叩いた。
「報酬の半分を前渡ししますよ」
マリナはそれでも断った。
だが、それを聞きつけたケンタが割り込んで来た。
もうかなり前から、壁の向こうで気配は感じていた。
私はケンタに語り掛けていたのだ。
「マリナさん。僕、行ってきます!」
「ケンタ、でも……」
「だって、お金があれば皆、好きなものが食べられて、穴のあいていない服が着れて、綺麗な教会に住めるでしょ?」
マリナは眉根を寄せ困惑した表情だ。
ケンタは純粋なのだろう。
マリナの役に立ちたい一心なのか、鼻息荒くこう言う。
「孤児だった僕をここまで立派に育ててくれた牧師様や皆、そしてマリナさんに恩返しがしたいんです!」
マリナは目に涙を浮かべていた。
それは、嬉しさと悲しさがない混ぜになったものだろう。
私はそう思った。
こうしてケンタの魔王討伐パーティ入りが決まった。
つづく
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