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姫のラブソング編
第81話 わがまま
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「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
またこの絶叫だ。
広場にいる皆が、一斉にこっちを向く。
マリナさんがグランと一緒に出て来るのを見ると、ケンタは気が狂った様に城に向かって走り出すのが常だ。
「とりゃ!」
そんな彼の首根っこに向かって、私は手刀を食らわせた。
氷でコーティングしたカチカチの手刀を食らったケンタは、さっきの怒りはどこへやら、あっさりと気を失う。
へばったケンタをソウニンと一緒に運んで宿屋まで連れて帰ることにした。
「ちょっと行ってくる」
ソウニンは行き先も告げずに出て行った。
私はあえて理由を訊かなかった。
どうせマリクのところにでも行くのだろう。
そんなことよりも私はケンタと二人きりになりたかったのだ。
過去3回ともグランと対面することが出来た。
だが、どの戦いも今一歩及ばなかった。
やはり、ダニーを通してソウニンの心を読み取り、グランの弱点を知るというイベントを経る必要があるのだ。
そのダニーが毎回、仲間にならない。(否、仲間にする方法はあるのだ。私達が見つけきれないだけで)
グランの弱点が分かれば、この先の展開も変わってくるはずだ。
きっと、ケンタが望むカンストメンバーが集まるかもしれない。
要は、この世界も『ゲーム』と同じだ。
何かをすればフラグが立ち、何かが変わる。
私は3回の死に戻り経験で、似たような行動をするだけじゃ先が見えないことに気付いた。
そして4回目。
「寝顔……」
厳密に言うと、気を失ってるから寝顔ではない。
ケンタはベッドで仰向けになっている。
頬には涙の跡がカサカサになって貼りついている。
彼は絶叫しながら泣いていた。
そりゃそうだ。
愛する人が、憎き復讐相手の腕の中にいるのだから。
惚れ薬によるドーピングとはいえ……
それにしても、可愛い唇。
ケンタの薄い特徴の無い唇が、私の唇と触れ合いそうなくらい近くなる。
彼とのキスは過去3回、死ぬ前に繰り返してるけど、それでも緊張する。
ゴン!
「いたっ!」
「いたいっ!」
覚醒したケンタが起き上がると同時に、私に頭突きを繰り出した。(故意じゃない)
私の額にクリーンヒット。
意外に石頭。
お互いちょっとHPが減ったかもってくらいの痛さだ。
「なっ、なにしてるんですか!」
「なにって! 君が気を失ったから介抱してたのっ!」
私は顔を真っ赤にして言い訳する。
私が何をしようとしたか、ケンタはまるで気付いていない様子で周囲をキョロキョロ見回したかと思うと、
「あっ! マリナは!?」
「グランと結婚した」
「……やっぱり、夢じゃなかったんだ」
「そうね。人間の心は変わるものよ」
私は、無意識に自分の口から飛び出した言葉に驚いた。
いつもならここで、マリナとグランが惚れ薬を使った偽りの愛で結ばれていることを説明し、ケンタを安心させるのだけど。
自分の卑怯さに、自己嫌悪に陥る。
だけど、言葉は止まらなかった。
「君の知ってるマリナさんはこの世にはもういないんだよ」
「そんな。嘘です」
「もう諦めなよ。そして、私と一緒に暮らしましょう」
つづく
またこの絶叫だ。
広場にいる皆が、一斉にこっちを向く。
マリナさんがグランと一緒に出て来るのを見ると、ケンタは気が狂った様に城に向かって走り出すのが常だ。
「とりゃ!」
そんな彼の首根っこに向かって、私は手刀を食らわせた。
氷でコーティングしたカチカチの手刀を食らったケンタは、さっきの怒りはどこへやら、あっさりと気を失う。
へばったケンタをソウニンと一緒に運んで宿屋まで連れて帰ることにした。
「ちょっと行ってくる」
ソウニンは行き先も告げずに出て行った。
私はあえて理由を訊かなかった。
どうせマリクのところにでも行くのだろう。
そんなことよりも私はケンタと二人きりになりたかったのだ。
過去3回ともグランと対面することが出来た。
だが、どの戦いも今一歩及ばなかった。
やはり、ダニーを通してソウニンの心を読み取り、グランの弱点を知るというイベントを経る必要があるのだ。
そのダニーが毎回、仲間にならない。(否、仲間にする方法はあるのだ。私達が見つけきれないだけで)
グランの弱点が分かれば、この先の展開も変わってくるはずだ。
きっと、ケンタが望むカンストメンバーが集まるかもしれない。
要は、この世界も『ゲーム』と同じだ。
何かをすればフラグが立ち、何かが変わる。
私は3回の死に戻り経験で、似たような行動をするだけじゃ先が見えないことに気付いた。
そして4回目。
「寝顔……」
厳密に言うと、気を失ってるから寝顔ではない。
ケンタはベッドで仰向けになっている。
頬には涙の跡がカサカサになって貼りついている。
彼は絶叫しながら泣いていた。
そりゃそうだ。
愛する人が、憎き復讐相手の腕の中にいるのだから。
惚れ薬によるドーピングとはいえ……
それにしても、可愛い唇。
ケンタの薄い特徴の無い唇が、私の唇と触れ合いそうなくらい近くなる。
彼とのキスは過去3回、死ぬ前に繰り返してるけど、それでも緊張する。
ゴン!
「いたっ!」
「いたいっ!」
覚醒したケンタが起き上がると同時に、私に頭突きを繰り出した。(故意じゃない)
私の額にクリーンヒット。
意外に石頭。
お互いちょっとHPが減ったかもってくらいの痛さだ。
「なっ、なにしてるんですか!」
「なにって! 君が気を失ったから介抱してたのっ!」
私は顔を真っ赤にして言い訳する。
私が何をしようとしたか、ケンタはまるで気付いていない様子で周囲をキョロキョロ見回したかと思うと、
「あっ! マリナは!?」
「グランと結婚した」
「……やっぱり、夢じゃなかったんだ」
「そうね。人間の心は変わるものよ」
私は、無意識に自分の口から飛び出した言葉に驚いた。
いつもならここで、マリナとグランが惚れ薬を使った偽りの愛で結ばれていることを説明し、ケンタを安心させるのだけど。
自分の卑怯さに、自己嫌悪に陥る。
だけど、言葉は止まらなかった。
「君の知ってるマリナさんはこの世にはもういないんだよ」
「そんな。嘘です」
「もう諦めなよ。そして、私と一緒に暮らしましょう」
つづく
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