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第五章 異世界不法就労
第九話 私が殺しました
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宮地の話を聞いた東洞はすぐに警察署に連絡。警官達が大勢来て、行方不明になったミロという青年を探すため、山や森の中を一列に並んで進んでいく。いわるゆ山狩りだ。
明善は文字通り草の根を分けて捜索に当たる警察官達の姿を見ながら、顎に手を当てている。
「……うーむ」
明善が眉間に皺を寄せながら唸っていると、「暁!」と呼ぶ声。
声の方に振り向くと、缶コーヒーが飛んできた。眼前に迫ってきたコーヒーを慌てて受け止める。投げてきたのは東洞。コンビニの買い物から戻ってきたのだ。
「ほら、嬢ちゃん達も」
警察官達の捜索の様子を見ていたイーリスとシルフィーに、東洞はレジ袋から取り出した飲み物を手渡す。彼は明善の隣に並び缶コーヒーを開ける。ポンと小気味良い音がした。
「浮かない顔してんな。宮地の話、納得していないんだろ?」
「はい」
「具体的にはどこだ?」
「まずは、ミロという青年を異世界人と断言したところですね」
昨日明善が宮地にミロの行方を尋ねた際、彼はすでにミロが見つかっており、問題ないと言った。だが、今日はどうだ。打って変わってミロは未だ行方不明だと打ち明け、あげくの果てには彼が異世界人であると言い放った。
「確かにパソコンを知らなかったり、未知の言語を喋っていたりと、その青年には怪しいところがありました。だけど、判断材料としては弱い。それなのに宮地さんはミロさんが異世界人であり、彼こそが大河社長を殺めた凶悪な殺人犯だと決めつけていた。一度庇っておきながら今日は殺人犯と批判するなど、どういう心情の変化なのだろう、と。それに喋り方も気になっていまして」
「喋り方?」
「宮地さんはミロさんのことを話す際、個人名ではく異世界人という表現を多用しているんです。なんか主語を大きくして、異世界人全般を悪く言っているように聞こえるんですよね。穿った見方かもしれませんが」
「あー、俺も気になった」
「まだ疑問がありまして。大河社長が外国人雇用の届出をきちんと出さなかったことです。宮地さんは従業員の身の上を考え、あえて出さなかったと言っていましたが、それもおかしいんです。今まで村人から聞いていた大河社長の人柄だと、いくら人助けとはいえ、制度に違反してまでやるとは思えない」
大河社長なら、まずは自治体や国に相談するはずである。行政の支援を受けた方が外国人本人達のためだとわかっているはずだ。制度や義務に違反してまで、わざわざ工場で雇うとは考えにくい。
「そして、まだ宮地さんは隠し事をしているはずです」
「大河社長が厚労省に雇用の届出を確認したというやつだろ?」
さきほどの話し合いの時、明善は宮地に対して、大河社長が厚労省に届出の件数を確認したことを尋ねた。何故直接会社や宮地にではなく、厚労省に確認をしたのかと。
「あいつ、すげー動揺していたな」
「はい」
明善の質問に対し、宮地はわかりやすく露骨に動揺。目を泳がせながら、「そうだったのですね。それは知らなかったです。私に聞いてくれてばよかったのに。社長も回りくどい」となんとか回答を紡ぎ出した。その後は話題を必死に変えようと、ミロを早く捕まえてほしいと連呼していた。
「宮地さんとしてはあまり触れられてほしくない部分なのでしょうね。隠し事をしていることは確実です。やはり大河社長のことが気になりますね。本当に彼が訳あり外国人を雇っていたのかと。宮地さんの話をどこまで信じていいのか」
「……死人に口無し、かもな」
「死人に口無し?」
「ああ。死んだことをいいことに大河社長の今までの行動を美談に仕立てつつ、都合の悪いことは押し付ける」
「あー、なるほど」
「ま、あくまで俺の考えだけどな。あ、そうだ。死人といえば、あれがあった。暁に渡すものがある」
東洞は一度車の方に走って向かった。戻ってきた彼の手には一枚のクリアファイル。
「ほら、これ」
「大河社長の検死結果ですか」
明善はクリアファイルから資料を取り出し、ページを捲っていく。
大河社長の死因は、全身打撲により生じた臓器不全。かなりの高所から落下したものと見られ、全身の骨を骨折している。頭部に小さなタンコブがあり、こちらは死亡の少し前に負ったもの。また、両腕に刃物による傷があり、防御槽と思われる。
やはり、転落死か。
「ん?」
明善は資料に記載されている、ある一文に目を留めた。
「東洞さん、これなんですか?」
明善が気になった部分。
大河の体のところどころに、小さな金属片が体にめり込んでいたというもの。
「それな。多分、元々落下した場所にあったんじゃねえかな。そこに大河社長が落ちてきて刺さったと思う」
「そうですか……」
この金属片は死亡の原因ではない。東洞の言う通り、偶然大河社長の体に刺さったものであり、関係ないだろう。
「死因はわかりましたけど、この事件の真実に繋がる情報ではないですね」
「ああ。やっぱり、例の行方不明の従業員を見つけるしかないな。ただ、見つかるかどうか。いなくなったのは一ヶ月も前だしな」
ミロがいなくなってから、すでに長い時間が経っている。もし、彼が殺人の犯人ならとっくに遠くに逃げているはずだ。全国指名手配も殺人の確たる証拠がないため、それも不可能。地道に探すしかない。
ただ、その一方で明善はあることが気になっている。それは寝泊まりする場所だ。ミロは工場から給料をもらっていたとはいえ、日本語は少ししか喋れないし、頼れる身内や友人もいないようだ。世間に疎いところもあり、公共機関や宿泊施設を利用するのはハードルが高い。もしかしたら、案外近くで身を隠しているのかも知れない。
「同じ会社の従業員とか、居場所を知っている人間いねーかな」
東洞はそうぼやきながら、タバコを口に咥え火を付ける。
居場所を知っている人間、か。
「……そのことなんですが、実は心当たりがありまして」
「心当たり?」
「ええ。今からその人物の元へ行こうと思います」
「俺も着いていっていいか?」
「構いませんよ。イーリス達も一緒にいくか?」
「もちろん! ところでどこにいくのだ?」
「……昨日行ったところだよ」
明善達が訪れたのは郁恵の家。明善達が到着するのと同時に、作業場から郁恵が出てきた。彼女は少しだけ驚いた後、明善達の方へと歩いてきた。まずは腰を屈めイーリスに目線を合わせ、「おはようお嬢」「うむ、おはよう」と挨拶を交わす。イーリスの頭を撫でた後、腰を上げ明善に顔を向けた。
「なんだい、今日も来たのかい?」
相変わらず無愛想な女性だな、と明善は内心苦笑。
「ちょっとお話ししたいことがありまして。昨日話した、行方不明の作業員のことですよ。ミロという青年」
ミロという名前を聞き、郁恵は目を見開く。だが、平静を装うようにすぐにいつもの三白眼に戻した。
「その従業員がどうしたいんだい?」
「工場に確認した結果、ミロさん、まだ見つかっていないみたいなんですよ」
「……そうなのかい。それは心配だね」
「ええ。それでですね、ミロさんに大河社長の殺人容疑がかかっているんです。しかも、それだけじゃない。異世界人の可能性もある」
「……え……」
「今、警察官がたくさん来て、ここら辺一帯を探しているんです。手前味噌になりますが、日本の警察官は優秀です。多少時間は掛かっても、彼を見つけるでしょう」
「……も……たら?」
「はい?」
郁恵は俯きながら、小さな声でボソボソと呟く。
「すいません、今なんと仰いました?」
「もし、見つかったらどうなるの?」
「まずは事情聴取ですね。大河社長の事件に関係しているのか、それと異世界人であるのか。そして彼が殺人事件の犯人だった場合、当然逮捕されますね」
「た、逮捕されたら? 懲役とかになるのかしら?」
「その可能性が高いですね。異世界人が犯罪を犯した場合、その人物の世界へ強制送還になるのですが、殺人となると話は変わってくる。殺人は重罪であり、こちらの世界で裁判となります」
明善は鎮痛な面持ちを作ってみせる。そして、「……大変だろうなあ」とため息混じりで大きめの声で呟いた。郁恵はその言葉を聞き逃さない。
「大変って、どういうこと?」
「え? ああ、刑務所のことですよ。日本の刑務所は厳しい。徹底的に管理され、一挙手一投足を注意される。ミロさんが仮に異世界人だとして、もし日本の刑務所に入れられたら、大変辛い思いをするだろうなって。実際、多いんですよね。刑務所の厳しさに耐えられず、音を上げる異世界人が」
「……そんな……」
郁恵は顔を青ざめ、視線を彷徨わせる。唇は紫色に変色し、指先は小刻みに震えていた。何かにひどく怯えた様子だ。
その様子を見て、明善は我ながら卑怯な手だと思う。
昨日の様子から郁恵はミロとかなり親しい仲であると、明善は感じた。もしかしたら、ミロの居場所に心当たりがあるのではないかと予想したのだ。だが、その場合郁恵はミロを庇い、そう簡単に口は割らないだろう。
だから、明善はある作戦を行うことに。それはミロの悲観的な将来を郁恵に教えることで彼女を動揺させ、ボロを出させるというもの。郁恵の様子を見るに、効果的面のようだ。
明善は若干の罪悪感を抱くも、捜査のために仕方がないと自身を納得させる。
ここで更に明善は畳み掛ける。
「例え逮捕されても、ミロさんが裁判で反省した姿を見せれば、刑は軽くなるかも知れません。今すぐ出頭するべきです。それにミロさんが本当は無実だというならば、やはり姿を警察の前に見せるべきですね。このままでは本当に人殺しにされてしまう」
「……あ、あの、刑事のお兄さん」
郁恵はおずおずと口を開いた。
「はい、なんでしょう?」
「ミロについて、お話ししたいことが……」
ミロと呼び捨てにしたということは、郁恵とミロはやはりある程度親しい間柄のようだ。
明善は郁恵の話したいこととやらが、ミロを庇う発言、もしくは彼の居場所の話かと思った。
だが、どちらでもなかった。郁恵の発した言葉は、想像をはるかに超える衝撃的な一言だった。
「ミロではありません」
「それはどういう意味でしょうか?」
「私です」
「はい?」
郁恵は明善達に言い聞かせるように、一音一音ゆっくりと話した。
「私が大河社長を殺しました」
明善は文字通り草の根を分けて捜索に当たる警察官達の姿を見ながら、顎に手を当てている。
「……うーむ」
明善が眉間に皺を寄せながら唸っていると、「暁!」と呼ぶ声。
声の方に振り向くと、缶コーヒーが飛んできた。眼前に迫ってきたコーヒーを慌てて受け止める。投げてきたのは東洞。コンビニの買い物から戻ってきたのだ。
「ほら、嬢ちゃん達も」
警察官達の捜索の様子を見ていたイーリスとシルフィーに、東洞はレジ袋から取り出した飲み物を手渡す。彼は明善の隣に並び缶コーヒーを開ける。ポンと小気味良い音がした。
「浮かない顔してんな。宮地の話、納得していないんだろ?」
「はい」
「具体的にはどこだ?」
「まずは、ミロという青年を異世界人と断言したところですね」
昨日明善が宮地にミロの行方を尋ねた際、彼はすでにミロが見つかっており、問題ないと言った。だが、今日はどうだ。打って変わってミロは未だ行方不明だと打ち明け、あげくの果てには彼が異世界人であると言い放った。
「確かにパソコンを知らなかったり、未知の言語を喋っていたりと、その青年には怪しいところがありました。だけど、判断材料としては弱い。それなのに宮地さんはミロさんが異世界人であり、彼こそが大河社長を殺めた凶悪な殺人犯だと決めつけていた。一度庇っておきながら今日は殺人犯と批判するなど、どういう心情の変化なのだろう、と。それに喋り方も気になっていまして」
「喋り方?」
「宮地さんはミロさんのことを話す際、個人名ではく異世界人という表現を多用しているんです。なんか主語を大きくして、異世界人全般を悪く言っているように聞こえるんですよね。穿った見方かもしれませんが」
「あー、俺も気になった」
「まだ疑問がありまして。大河社長が外国人雇用の届出をきちんと出さなかったことです。宮地さんは従業員の身の上を考え、あえて出さなかったと言っていましたが、それもおかしいんです。今まで村人から聞いていた大河社長の人柄だと、いくら人助けとはいえ、制度に違反してまでやるとは思えない」
大河社長なら、まずは自治体や国に相談するはずである。行政の支援を受けた方が外国人本人達のためだとわかっているはずだ。制度や義務に違反してまで、わざわざ工場で雇うとは考えにくい。
「そして、まだ宮地さんは隠し事をしているはずです」
「大河社長が厚労省に雇用の届出を確認したというやつだろ?」
さきほどの話し合いの時、明善は宮地に対して、大河社長が厚労省に届出の件数を確認したことを尋ねた。何故直接会社や宮地にではなく、厚労省に確認をしたのかと。
「あいつ、すげー動揺していたな」
「はい」
明善の質問に対し、宮地はわかりやすく露骨に動揺。目を泳がせながら、「そうだったのですね。それは知らなかったです。私に聞いてくれてばよかったのに。社長も回りくどい」となんとか回答を紡ぎ出した。その後は話題を必死に変えようと、ミロを早く捕まえてほしいと連呼していた。
「宮地さんとしてはあまり触れられてほしくない部分なのでしょうね。隠し事をしていることは確実です。やはり大河社長のことが気になりますね。本当に彼が訳あり外国人を雇っていたのかと。宮地さんの話をどこまで信じていいのか」
「……死人に口無し、かもな」
「死人に口無し?」
「ああ。死んだことをいいことに大河社長の今までの行動を美談に仕立てつつ、都合の悪いことは押し付ける」
「あー、なるほど」
「ま、あくまで俺の考えだけどな。あ、そうだ。死人といえば、あれがあった。暁に渡すものがある」
東洞は一度車の方に走って向かった。戻ってきた彼の手には一枚のクリアファイル。
「ほら、これ」
「大河社長の検死結果ですか」
明善はクリアファイルから資料を取り出し、ページを捲っていく。
大河社長の死因は、全身打撲により生じた臓器不全。かなりの高所から落下したものと見られ、全身の骨を骨折している。頭部に小さなタンコブがあり、こちらは死亡の少し前に負ったもの。また、両腕に刃物による傷があり、防御槽と思われる。
やはり、転落死か。
「ん?」
明善は資料に記載されている、ある一文に目を留めた。
「東洞さん、これなんですか?」
明善が気になった部分。
大河の体のところどころに、小さな金属片が体にめり込んでいたというもの。
「それな。多分、元々落下した場所にあったんじゃねえかな。そこに大河社長が落ちてきて刺さったと思う」
「そうですか……」
この金属片は死亡の原因ではない。東洞の言う通り、偶然大河社長の体に刺さったものであり、関係ないだろう。
「死因はわかりましたけど、この事件の真実に繋がる情報ではないですね」
「ああ。やっぱり、例の行方不明の従業員を見つけるしかないな。ただ、見つかるかどうか。いなくなったのは一ヶ月も前だしな」
ミロがいなくなってから、すでに長い時間が経っている。もし、彼が殺人の犯人ならとっくに遠くに逃げているはずだ。全国指名手配も殺人の確たる証拠がないため、それも不可能。地道に探すしかない。
ただ、その一方で明善はあることが気になっている。それは寝泊まりする場所だ。ミロは工場から給料をもらっていたとはいえ、日本語は少ししか喋れないし、頼れる身内や友人もいないようだ。世間に疎いところもあり、公共機関や宿泊施設を利用するのはハードルが高い。もしかしたら、案外近くで身を隠しているのかも知れない。
「同じ会社の従業員とか、居場所を知っている人間いねーかな」
東洞はそうぼやきながら、タバコを口に咥え火を付ける。
居場所を知っている人間、か。
「……そのことなんですが、実は心当たりがありまして」
「心当たり?」
「ええ。今からその人物の元へ行こうと思います」
「俺も着いていっていいか?」
「構いませんよ。イーリス達も一緒にいくか?」
「もちろん! ところでどこにいくのだ?」
「……昨日行ったところだよ」
明善達が訪れたのは郁恵の家。明善達が到着するのと同時に、作業場から郁恵が出てきた。彼女は少しだけ驚いた後、明善達の方へと歩いてきた。まずは腰を屈めイーリスに目線を合わせ、「おはようお嬢」「うむ、おはよう」と挨拶を交わす。イーリスの頭を撫でた後、腰を上げ明善に顔を向けた。
「なんだい、今日も来たのかい?」
相変わらず無愛想な女性だな、と明善は内心苦笑。
「ちょっとお話ししたいことがありまして。昨日話した、行方不明の作業員のことですよ。ミロという青年」
ミロという名前を聞き、郁恵は目を見開く。だが、平静を装うようにすぐにいつもの三白眼に戻した。
「その従業員がどうしたいんだい?」
「工場に確認した結果、ミロさん、まだ見つかっていないみたいなんですよ」
「……そうなのかい。それは心配だね」
「ええ。それでですね、ミロさんに大河社長の殺人容疑がかかっているんです。しかも、それだけじゃない。異世界人の可能性もある」
「……え……」
「今、警察官がたくさん来て、ここら辺一帯を探しているんです。手前味噌になりますが、日本の警察官は優秀です。多少時間は掛かっても、彼を見つけるでしょう」
「……も……たら?」
「はい?」
郁恵は俯きながら、小さな声でボソボソと呟く。
「すいません、今なんと仰いました?」
「もし、見つかったらどうなるの?」
「まずは事情聴取ですね。大河社長の事件に関係しているのか、それと異世界人であるのか。そして彼が殺人事件の犯人だった場合、当然逮捕されますね」
「た、逮捕されたら? 懲役とかになるのかしら?」
「その可能性が高いですね。異世界人が犯罪を犯した場合、その人物の世界へ強制送還になるのですが、殺人となると話は変わってくる。殺人は重罪であり、こちらの世界で裁判となります」
明善は鎮痛な面持ちを作ってみせる。そして、「……大変だろうなあ」とため息混じりで大きめの声で呟いた。郁恵はその言葉を聞き逃さない。
「大変って、どういうこと?」
「え? ああ、刑務所のことですよ。日本の刑務所は厳しい。徹底的に管理され、一挙手一投足を注意される。ミロさんが仮に異世界人だとして、もし日本の刑務所に入れられたら、大変辛い思いをするだろうなって。実際、多いんですよね。刑務所の厳しさに耐えられず、音を上げる異世界人が」
「……そんな……」
郁恵は顔を青ざめ、視線を彷徨わせる。唇は紫色に変色し、指先は小刻みに震えていた。何かにひどく怯えた様子だ。
その様子を見て、明善は我ながら卑怯な手だと思う。
昨日の様子から郁恵はミロとかなり親しい仲であると、明善は感じた。もしかしたら、ミロの居場所に心当たりがあるのではないかと予想したのだ。だが、その場合郁恵はミロを庇い、そう簡単に口は割らないだろう。
だから、明善はある作戦を行うことに。それはミロの悲観的な将来を郁恵に教えることで彼女を動揺させ、ボロを出させるというもの。郁恵の様子を見るに、効果的面のようだ。
明善は若干の罪悪感を抱くも、捜査のために仕方がないと自身を納得させる。
ここで更に明善は畳み掛ける。
「例え逮捕されても、ミロさんが裁判で反省した姿を見せれば、刑は軽くなるかも知れません。今すぐ出頭するべきです。それにミロさんが本当は無実だというならば、やはり姿を警察の前に見せるべきですね。このままでは本当に人殺しにされてしまう」
「……あ、あの、刑事のお兄さん」
郁恵はおずおずと口を開いた。
「はい、なんでしょう?」
「ミロについて、お話ししたいことが……」
ミロと呼び捨てにしたということは、郁恵とミロはやはりある程度親しい間柄のようだ。
明善は郁恵の話したいこととやらが、ミロを庇う発言、もしくは彼の居場所の話かと思った。
だが、どちらでもなかった。郁恵の発した言葉は、想像をはるかに超える衝撃的な一言だった。
「ミロではありません」
「それはどういう意味でしょうか?」
「私です」
「はい?」
郁恵は明善達に言い聞かせるように、一音一音ゆっくりと話した。
「私が大河社長を殺しました」
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