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第二章 ストーカーは異世界人?
第七話
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巻田のアパートに着いた明善は、アパートの周辺をゆっくりと車で巡回する。目を忙しなく動かし怪しい人物がいないか目を皿にして探すが、そのような人物はなし。目に入るのは農作業をしている農家のみだ。
明善はとある畑の前で止まり車を降りた。その畑では中年の男性が鍬で耕している最中。
「あのー、すいませーん」
「はいー?」
麦わら帽子の下から怪訝な表情を見せる男性に、明善は警察手帳を提示。
「最近、ここらへんで不審な人物を見ませんでしたかね?」
「不審な人物? いや、見ねーな。俺最近日中は畑にいるけど、会うのは周りの畑の人だけだし」
「では、外国人みたいな人を見たことはありますかね? ここらで」
「外国人? 日本人しか見てないよ」
「そうですか。ありがとうございます」
その後も明善は通行人などを呼び止め、不審者を目撃情報を探すが、収穫はなし。
なんの手がかりもないことに明善は首を捻った。
異世界人はこちらの世界とは顔の作りが違うことが多い。西洋人に似た人種もいるが、よくよく顔を見てみるとどの人種とも違うことがわかる。特にここらへんの田舎では日本人でないだけで目立つ。ストーカーはかれこれ一ヶ月ほど巻田のアパート周辺にいるはず。だが、姿すら目撃されていないとはどういうことだろう。ヴェスタの住人の異能は精霊との対話。この異能では姿を隠すことはできない。可能性としてはここから遠い場所におり、プレゼントを置く時のみここに来る。または逆に近くに潜伏して、日中は人目を避けているか。
一度アパートの方を訪ねてみるか。
明善は車を少し走らせ、アパートに到着。車を停めアパートの周りを歩きながら、ストーカーらしき人物がいないか見回った。だが、長閑な風景の中、特にそのような人物はいなかった。
「大家さんに挨拶がてら、今日のことについて聞いてみよ」
巻田は今日もストーカーからプレゼントをもらっている。もしかしたら大家が直接目撃したか、住民から何か話を聞いているかもしれない。
明善は大家の部屋に向かう最中、その部屋の前で大家の奥さんと中年の女性がいることに気がついた。二人とも何か深刻そうな表情だ。
「あ! 昨日のお巡りさん! いいところに!」
明善に気がついた奥さんがブンブンと手を振って、自分の元に呼び寄せる。
何かあったのかな?
警察官である自分を呼ぶというのは只事ではない。明善が駆け寄ると、奥さんは捲し立てて話す。
「ちょっと聞いてよ、お巡りさん! 変な人が、変な人がいるみたいなの! この人私の友人なんだけど、この人の畑に誰かいる! ちょっと見てくれる⁉︎」
「奥さん、落ち着いてください。変な人がいるとのことですが?」
明善に視線を向けられた中年女性は「はい」と頷く。
「どういうことでしょうか? もう少し詳しく」
「うちの、そこの畑の小屋なんですけど」
「小屋?」
女性の指差す先には、トタンと木材で組まれた粗末な掘っ建て小屋があった。鎌や鍬などの器具、ゴミなどを保管するものであり、ここら一帯の畑にはよくあるものだ。
「あの小屋ですか? あの小屋に変な人が?」
「はい。そうです。あの小屋には農機具があって、取り出そうとしたんです。そしたら何か人の気配がするなって。小屋の壁に隙間があって、そこから中を覗いてみたら……」
「人がいた、と」
「そうなんです!」
「ふむ……。ちなみになんですが、その人見たことはありますかね?」
「いえ、ないです。それに見たこともない格好をしていて。顔立ちも日本人じゃないです」
「日本人じゃない……」
もう一度明善は小屋に目をやる。あの小屋はここから畑を二つ挟んだ場所にあり、アパートの様子がよく見える。住人の出入りを観察するのは容易だ。そこに日本人とは容姿が異なる人間がいる。となると……。
「あの小屋に入ったはどれくらい前ですか? 今日ではなくて、それ以前に」
「前に入った時ですか? いつだったかな? 畑には毎週のように入っていたんですけど、道具は小屋の前に置いていて、それを使っていたんですよね。小屋に入ったのは……。確か、少なくとも一ヶ月半以上前だったと思います」
「一ヶ月半以上前、ですか」
女性の話から、あの小屋に一ヶ月間潜伏することは可能だったようだ。
もしかして、例のストーカーか。
そのような考えが脳裏に浮かんだ明善は、愛美のスマートフォンにすぐに電話をかける。
「はい、もしもし。アキくんどうしたの?」
「例のストーカー、見つけたかもしれない」
「マジで!」
「アパートの近くの小屋に不審者がいてさ、異世界人の可能性がある。応援に来てくれる?」
「こっちの仕事もちょうど片付いたし、行けるっちゃ行けるよ。ただ、ちょっと時間がかかるね」
「そうか」
他の異犯対のメンバーが来るまで待つか。だが、その不審者は今もアパートの様子を伺い、明善の存在を目視しているかもしれない。もし、ストーカーが自分の存在が気づかれたと感づけば、すぐに逃げるだろう。もしかしたら、自分の世界に戻るかも。とにかく出来るだけ早く身柄を捕まえる必要がある。
「俺一人で確保するよ。今回の相手は攻撃的な異能じゃないから。とりあえず、アパートまで来てくれる?」
「了解っす! ぶっ飛ばしていくから!」
「道交法は守れよ」
通話を切った明善は、そのまま須川署に連絡し応援を要請。パトカーのサイレンを鳴らさず来ることを何度も念押。スマートフォンをポケットにしまいながら、大家の奥さんと女性に振り向いた。
「ちょっと確認してきます。念の為、ここで待ってください。絶対近づかないように」
そう指示した後、明善は小屋の様子を注視しながら、ゆっくりと近づいた。
明善はとある畑の前で止まり車を降りた。その畑では中年の男性が鍬で耕している最中。
「あのー、すいませーん」
「はいー?」
麦わら帽子の下から怪訝な表情を見せる男性に、明善は警察手帳を提示。
「最近、ここらへんで不審な人物を見ませんでしたかね?」
「不審な人物? いや、見ねーな。俺最近日中は畑にいるけど、会うのは周りの畑の人だけだし」
「では、外国人みたいな人を見たことはありますかね? ここらで」
「外国人? 日本人しか見てないよ」
「そうですか。ありがとうございます」
その後も明善は通行人などを呼び止め、不審者を目撃情報を探すが、収穫はなし。
なんの手がかりもないことに明善は首を捻った。
異世界人はこちらの世界とは顔の作りが違うことが多い。西洋人に似た人種もいるが、よくよく顔を見てみるとどの人種とも違うことがわかる。特にここらへんの田舎では日本人でないだけで目立つ。ストーカーはかれこれ一ヶ月ほど巻田のアパート周辺にいるはず。だが、姿すら目撃されていないとはどういうことだろう。ヴェスタの住人の異能は精霊との対話。この異能では姿を隠すことはできない。可能性としてはここから遠い場所におり、プレゼントを置く時のみここに来る。または逆に近くに潜伏して、日中は人目を避けているか。
一度アパートの方を訪ねてみるか。
明善は車を少し走らせ、アパートに到着。車を停めアパートの周りを歩きながら、ストーカーらしき人物がいないか見回った。だが、長閑な風景の中、特にそのような人物はいなかった。
「大家さんに挨拶がてら、今日のことについて聞いてみよ」
巻田は今日もストーカーからプレゼントをもらっている。もしかしたら大家が直接目撃したか、住民から何か話を聞いているかもしれない。
明善は大家の部屋に向かう最中、その部屋の前で大家の奥さんと中年の女性がいることに気がついた。二人とも何か深刻そうな表情だ。
「あ! 昨日のお巡りさん! いいところに!」
明善に気がついた奥さんがブンブンと手を振って、自分の元に呼び寄せる。
何かあったのかな?
警察官である自分を呼ぶというのは只事ではない。明善が駆け寄ると、奥さんは捲し立てて話す。
「ちょっと聞いてよ、お巡りさん! 変な人が、変な人がいるみたいなの! この人私の友人なんだけど、この人の畑に誰かいる! ちょっと見てくれる⁉︎」
「奥さん、落ち着いてください。変な人がいるとのことですが?」
明善に視線を向けられた中年女性は「はい」と頷く。
「どういうことでしょうか? もう少し詳しく」
「うちの、そこの畑の小屋なんですけど」
「小屋?」
女性の指差す先には、トタンと木材で組まれた粗末な掘っ建て小屋があった。鎌や鍬などの器具、ゴミなどを保管するものであり、ここら一帯の畑にはよくあるものだ。
「あの小屋ですか? あの小屋に変な人が?」
「はい。そうです。あの小屋には農機具があって、取り出そうとしたんです。そしたら何か人の気配がするなって。小屋の壁に隙間があって、そこから中を覗いてみたら……」
「人がいた、と」
「そうなんです!」
「ふむ……。ちなみになんですが、その人見たことはありますかね?」
「いえ、ないです。それに見たこともない格好をしていて。顔立ちも日本人じゃないです」
「日本人じゃない……」
もう一度明善は小屋に目をやる。あの小屋はここから畑を二つ挟んだ場所にあり、アパートの様子がよく見える。住人の出入りを観察するのは容易だ。そこに日本人とは容姿が異なる人間がいる。となると……。
「あの小屋に入ったはどれくらい前ですか? 今日ではなくて、それ以前に」
「前に入った時ですか? いつだったかな? 畑には毎週のように入っていたんですけど、道具は小屋の前に置いていて、それを使っていたんですよね。小屋に入ったのは……。確か、少なくとも一ヶ月半以上前だったと思います」
「一ヶ月半以上前、ですか」
女性の話から、あの小屋に一ヶ月間潜伏することは可能だったようだ。
もしかして、例のストーカーか。
そのような考えが脳裏に浮かんだ明善は、愛美のスマートフォンにすぐに電話をかける。
「はい、もしもし。アキくんどうしたの?」
「例のストーカー、見つけたかもしれない」
「マジで!」
「アパートの近くの小屋に不審者がいてさ、異世界人の可能性がある。応援に来てくれる?」
「こっちの仕事もちょうど片付いたし、行けるっちゃ行けるよ。ただ、ちょっと時間がかかるね」
「そうか」
他の異犯対のメンバーが来るまで待つか。だが、その不審者は今もアパートの様子を伺い、明善の存在を目視しているかもしれない。もし、ストーカーが自分の存在が気づかれたと感づけば、すぐに逃げるだろう。もしかしたら、自分の世界に戻るかも。とにかく出来るだけ早く身柄を捕まえる必要がある。
「俺一人で確保するよ。今回の相手は攻撃的な異能じゃないから。とりあえず、アパートまで来てくれる?」
「了解っす! ぶっ飛ばしていくから!」
「道交法は守れよ」
通話を切った明善は、そのまま須川署に連絡し応援を要請。パトカーのサイレンを鳴らさず来ることを何度も念押。スマートフォンをポケットにしまいながら、大家の奥さんと女性に振り向いた。
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