異世界犯罪対策課

河野守

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第一章 女子高生行方不明事件

第四十二話

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 明善が我妻を軍用車からエスコートして下ろすと、益子が明善の方に近づいてきた。
「その子が行方不明になった子か?」
 益子は強い東北訛りのしゃがれた声でそう言いながら、ヘルメットのバイザーを上げた。現れたのは白髪混じりの太い眉に鋭い眼光。顎には小さな真一文字の傷がついている。明善は以前、この傷について興味本位で聞いたことがあった。その質問に対し、益子は「中坊の時、自転車で坂道を下っていたら転んでできた」と笑いながら答えてくれた。彼は小さい頃から風を感じることが好きらしく、白バイ隊員を目指した理由の一つがそれである。
 いかつい見た目に反し、益子はなかなか気さくで茶目っ気がある。だが、初対面の人間は訛りのある喋り方と人相から、つい益子に対し怯えてしまう。例にもれず我妻もビビってしまい、明善の後ろについ隠れる。その様子に対し、益子は苦笑いしていた。
「はい。見た感じ、どこも怪我はないようですね。このまま署に連れて行こうと思います」
「それで、あいつらはどうする?」
 益子の視線の先には、手錠をかけられ地面に座った異世界人達。
「どうするというのは、どうやってこの空間の外に連れていくということですか?」
「そうだ」
 明善達の車は五人乗り。明善と落合、我妻に異世界人二人を乗せることはできる。だが……。
「我妻さんと異世界人達を同じ車に乗せたくはないですね。今の彼らは魔法を封じられているとはいえ、万が一がありますから」
「そりゃ、そうだ」
 どうしようかと明善が悩んでいると、落合が軍用車の中を覗きながら声をかけてきた。
「なあ、この車を使えばいいんじゃね」
「それ使うんですか? 俺達には運転できませんよ」
「いや、見た感じ、俺たちの車とほとんど同じだぞ」
 明善と益子は軍用車に近づき、車内を確認。よくよく見ると、ハンドルやアクセルなどのペダル、はてはシートベルトも同じだ。
「本当だ。同じに見えますね。もしかして、こちらの世界の車を参考に作ったのかも」
「多分そうだろうな。なんか運転できそうだろ? どちらにしろ、この車も証拠品として持って行かなきゃいけねえんだ」
「まあ、そうですね」
「俺がお嬢ちゃんを俺達の車に乗せる。暁はこの車で異世界人達を連行する」
「え! 俺がこっちを運転するんですか?」
「当たりめーだろ。慣れない車でお嬢ちゃんを運ぶのは危険だし、
「……わかりましたよ」
 異世界人達を軍用車に乗せた後、明善は運転席に座った。もちろん、シートベルトはきちんとつける。
「えーと、エンジンはどうやって……これか!」
 エンジンキーの差し込み口に当たる場所に、丸いスイッチが付いていた。このスイッチを押すと、車内にモーターが回転するような低い音が響く。
「電気自動車と同じか。乗ったことないけど」
 明善は恐る恐る足元にある、一番右のペダルを軽く踏み込む。すると車体はゆっくりと前進。
「アクセルも同じ。本当に俺達の世界の車と変わらない。これは色々とややこしいことになりそう」
 現在、自動車の類は異世界には輸出していない。もしこの軍用車がこちらの世界の車を参考に作ったものだとしたら、それは技術が流出しているということだ。これからこの車は徹底的に調べられることになるだろうが、もしそうだった場合、大騒ぎになる。異世界での戦争などに使われているかもしれないのだから。
 明善はおっかなびっくりしながらも運転し、落合の車の後を追う。益子は何かあっても対応できるようにと、明善が運転する軍用車の後ろにつく。
 間の回廊を抜けると、ゲートの前には大勢の警官達がおり、明善達に気づくと、駆け寄ってきた。皆口々に「よくやった!」「さすが異犯対だ!」と褒め称える。
 異世界の軍用車をこのまま走らせることは、道路交通法違反になるかもしれない。警察官が法律を破るわけにはいかないので、明善は軍用車を停車。異世界人達を護送車に移し自身も乗り込む。落合の車と護送車はたくさんのパトカーに挟まれながら、須賀川署に向かった。
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