異世界犯罪対策課

河野守

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第一章 女子高生行方不明事件

第三十九話

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 確保された異世界人二人はそのまま警官達に連行されていった。彼らは特に暴れることなく、項垂れながらも大人しく警察の指示に従っていた。
 とりあえず、二人は確保。残りは四人だな。
 胸を撫で下ろす明善と愛美の背中に、鈍い衝撃。びっくりしながら後ろを振り向くと、東洞がニカっと歯を見せて笑っていた。明善と愛美が背中をさすりながら恨みのこもった眼で睨むが、彼は気にしていない。
「暁、谷家、よくやった。お前達はもう下がれ」
「はい」
「りょーかいっす」
 先ほどの金髪のを見た限り、彼らは攻撃や捕縛など様々なものが使えるようだ。の自分が一番前に出て盾になった方が良いのではないかと、明善は一瞬考えた。だが、それでは事前の打ち合わせと違うし、余計な混乱を現場に招く。ここは大人しく作戦通りに動くべきだ。
「横に並べ」
 異対機動隊の隊長は隊員達に指示。彼らは瞬時に隊列を組み横に隙間なく並びながら、ゆっくりと前に進む。秋穂と愛美は異対機動隊の後ろに下がり、他の警官達と共に彼らの後ろについていった。目標は残りの異世界人達がいるであろう、事務所の部屋。
 明善は事務所に意識と視線を向けながら、東洞に耳打ち。
「東洞さん、落合さんはどうしました?」
「ん? 落合なら署長に現場の報告しに車に戻ったよ。暁が異世界人二人を捕まえた時にな。暁と異対機動隊がいるから、自分はここにいなくても大丈夫だろうってな」
「ははは、落合さんらしいですね」
「まったくだ。まだ異世界人はいるのに。あの野郎、今頃タバコでも吸ってるんじゃねーだろな。……ところでよ、さっきのって……」
「はい。使
「やっぱり魔法だよな。資料の内容と違うし。なんかおかしくねーか?」
 アルミトスが使う力はルーンのはず。なのに、使。少なくとも金髪は
「ええ。客を装って彼らと話をしたんですけど、その時も色々と気になる点がありました」
「これ、きな臭いな」
「まあ、残りの異世界人も捕まえて、みっちりと締め上げましょうか」
「やっぱ、そうするしかないか」
 ある程度前進したところで、異対機動隊隊長が隊員達に指示を出す。隊列は少しずつ円を描くような形になっていく。保護対象である我妻和奏あがつま わかながいるであろう休憩室を陣形の内側から外しつつ、事務所の部屋の入り口を囲むためだ。明善としては休憩室に真っ先に入り中を確認したかったが、見張りとして異世界人がいるかもしれない。ここは確実に異世界人達の身柄を確保すべき。下手に焦ってはいけない。
 異対機動隊が円を狭めながら近づき、事務所の部屋まであと10メートルほどの距離に近づいた時だ。
「おい! なんだ、朝から騒がしいぞ」
 部屋から眠気眼の茶髪の長髪が出てきた。茶髪は警察の方を向き、怪訝な顔をし一度目を擦る。再度警察の姿を目視し、見間違いではないことに気づき目を見開いた。
「お、おい! 囲まれてるぞ!」
 茶髪の声を聞き、他の三人の異世界人も部屋から飛び出してきた。彼らは皆寝起きのようであったが、警察の姿を見て一様に焦りの表情に変わる。
「な、なんだよ、これ⁉︎」
「警察という組織か!」
「どうなってるんだよ!」
「し、知らねえよ!」
 動揺する異世界人達に対し、異対機動隊の隊長は大声で彼らに呼びかける。
「ここはすでに包囲されている! 君達に逃げ場はないぞ! 大人しく投降しなさい! 繰り返す! 大人しく投降しなさい!」
 異対機動隊は異世界人達に呼びかけながら、少しずつ前進し彼らと距離を詰めていく。
 茶髪が事務所の真横にある休憩室に慌てて飛び入った。まもなく出てきた茶髪は、少女を連れ出してきた。その少女は可愛らしいピンク色のパジャマを着ており、手で口を隠しながら欠伸。どうやら、寝ているところを叩き起こされたみたいだ。まだ状況が把握できていないみたいであり、キョロキョロと周りを見渡している。
 あの少女は……!
「あの子です! あの子が我妻和奏あがつま わかなさんです! 保護対象!」
 明善の言葉に、警官達が前進していた足を一度止める。異世界人達が我妻を人質にしたと考え、不用意に近づくのをやめたのだ。
 警官達の停止を見た異世界人達はじりじりと、右に移動していく。警官達も異世界人を包囲するように移動し、少しずつ近づいていく。
「その女の子を解放して、大人しく投降しなさい!」
 異対機動隊隊長の声を無視し、異世界人達は壁際に寄っていく。
 一人が手を虚空に伸ばす。空中で何かを掴み、思いっきり引っ張った。すると、あるモノが姿を突如現した。
「車……?」
 愛美の言う通り、それは車である。巨大な車輪に高い車高。黒光りする分厚い装甲の姿は、軍用車にも見える。車体には二振の剣が交差した紋章。アルミトスがよく使う紋章だ。
 彼らは警官達を威嚇しながら、その軍用車に乗り込んだ。我妻は放り投げられるように車体に押し込まれ、「きゃあ!」と悲鳴を漏らす。
 まずい!
 呆気に取られていた警官達は、発進させまいと車に殺到する。だが、窓からは異世界人が魔法を放ち牽制。何発かが異対機動隊に命中したが、彼らは盾に防いでいた。やはり魔法の威力が減衰しているようである。魔法を受けた隊員は多少ふらつくも、隊列を乱さぬよう体勢をすぐに立て直す。飛び交う魔法にも臆せず、異対機動隊は軍用車に張り付き、異世界人を引きずりだそうとする。すると、二名の異世界人が左右のドアを勢いよく開け、張り付いていた異対機動隊を振り払いながら、車外に降りた。二人は魔法や持っていたナイフで警官達を威嚇し、後ろに下がらせる。
 隊員達が近づきあぐねていると、軍用車からモーターのような音がし、ゆっくりと走り出した。警官達は車を止めようとするが、社外の異世界人達に邪魔をされる。軍用車は一気に加速し、警官達を振り払い、工場の外に飛び出した。
「追え! 追え! 追え!」
「絶対逃すな!」
 警官達は慌てて走り出し追いかける。残った異世界人達は追わせまいと魔法を放ち妨害。だが、すぐに魔力切れを起こし、攻撃の手が緩んだところで異対機動隊に拘束された。
 明善も軍用車を必死になって追う。彼は軽装であり、若く脚も速い。警官達の先頭を走り追うが、流石に人間の足では追いつくことができない。明善の息はあがっていき、脚がもつれる。痛む脇腹を手で抑え、それでも尚必死に脚を前に動かすが、軍用車が遠くなっていく。
「くっそ……! せっかく見つけたのに……!」
 ここで逃すわけにはいかない。もし、逃せばそのまま異世界に高飛びする可能性がある。
 明善の体が限界に近づいた時だ。
 一台の車が明善の前に止まった。
「暁、乗れ!」
 車の中から、落合が呼びかける。
 明善は扉を開け急いで乗り込んだ。明善がドアを完全に閉め切る前に、車はいき良いよく走り出す。
「谷家から電話が来て、びっくりしたぜ。署への連絡で車にいたのが不幸中の幸いだ。それにしても、向こうが車をこっちの世界に持ってきているとはな」
「ええ。流石に予想外です」
「それでよ、異世界人、魔法を使ったよな?」
「はい。ですが、彼らの車にはアルミトスがよく使うマークがあるんですよ」
「あの剣のやつか。本当にどうなっているんだ」
「まあ、ふん捕まえて聞き出すしかないですね」
「だな。っと、カーチェイスももう終わりみたいだな」
 異世界人の軍用車の先、サイレンを鳴らした何台ものパトカーが道を塞ぐように停車。道路の両側は木が生えており、パトカーを強引に避けることは不可能だ。
「よっしゃ! これで終わりだな」
 落合がガッツポーズをした瞬間だ。
 軍用車の前方、青い光を放つ四角形が現れた。
「ゲート! ゲートですよ、あれ!」
 ゲート。世界と世界を繋ぐモノ。あのゲートを通ることで異世界に行くことができる。
「……あいつら、このまま逃げるつもりだ!」
 落合の言う通り、異世界人達はゲートを開き、我妻と共に逃げ込むようだ。この世界には彼らの仲間がまだ残っているが、仲間を見捨てでも我妻を連れ帰ることを優先したのだろう。
「暁、いくぞ。覚悟はいいな?」
「はい、もちろん!」
 だが、明善達もみすみす逃すつもりはない。どこまで追いかけ、異世界人を逮捕。そして、我妻和奏を奪還する。これは警察官としての意地だ。
 明善達の車は、軍用車の後に続き、ゲートに迷いなく飛び込んだ。
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