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第一章 女子高生行方不明事件
第三十四話
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「よう、待たせたな」
刺青の男は笑いながら、小さな茶色い紙袋を明善に手渡した。
「念の為、紙袋の中を確認してくれ。あとで入って無かった、偽物をつかまされたと言われるのは嫌だからな」
刺青の言う通りに明善は紙袋を開け、手を入れる。取り出したのは透明なパケが連なったものであり、中には灰色の粉末が入っている。ルルからもらったサンプルと同じものだ。
「一、二……ちゃんと二十あります。ありがとうございます」
「その袋には吸引器も入れてある。初回サービスだ。リベレーションの吸い方は、わかるか?」
「沖田さんから後で聞きますよ」
「そうか。わかった」
「それで料金はいくらですか?」
「二十袋だから、えーと、二万円だな」
事前にリベレーションの価格は沖田から事前に聞いていたとはいえ、他の薬物に比べかなり安い。外の警官隊がまだ突入する気配はないし、ここは情報収集も兼ねて話を続けて時間を稼ぐ。
今なら刺青の男はなんでも喋ってくれそうだしな。
「ちなみになんですけど、リベレーションって一グラムどれくらいの値段ですか?」
現在の覚醒剤の末端価格が一グラム六万円ほど。大麻においては五千円前後。
明善の質問に、刺青は申し訳なそうに頭を掻く。
「すまねえな、兄ちゃん。こっちの世界の単位はわからない」
そりゃそうだ。無意味な質問だったな。
明善が推測するに、一パケ千円で内容量は三グラム前後。とすると、一グラムの値段は約三百円だ。正直、利益は大したものではない。リベレーションはかなり依存性が高い。もっと値段をふっかけても、買う人間は多いはず。
この値段でも儲かるぐらい、製作費が安いのか。それとも利益無視の、他の目的があるのか。
「いやー、随分安いなと思いましてね。ちょっと興味本位で聞いてみました」
「ははは。よく言われるよ。まあ、リベレーションの材料自体は俺達の世界ではたくさん取れるしな」
「……へえ。その材料って、どういうものなんですかね?」
材料の話が出てきたことは思わぬ収穫だ。現在、様々な世界がリベレーションの治療薬を作ることに躍起になっている。だが、未だ含まれている成分が特定できておらず、かなり難航している。もし材料がわかれば、これは大きな進展だ。
幸い刺青は口が軽く、簡単に質問に答えてくれた。
「材料は花だ」
「花?」
こちらの世界でもケシ(※)という花を咲かせる植物が存在する。その花からは麻薬が製造されるが、アルミトスにも同様の植物が存在するようだ。
「マイニアっていう名前の綺麗な花でな、その根から作るんだ。育つ場所は限られているが、結構強い花で環境さえ……」
「おい!」
刺青の肩を金髪が強く掴み、言葉を遮る。
「べらべら話すな! 何度も言ってるだろ!」
「何だよ。気にしすぎだぜ。沖田さんの知り合いなんだから、多少はいいだろ」
「限度がある! お前はいつもそうだ。口が軽すぎる」
「お前は細かいんだよ。俺は彼らにも協力者になってもらおうと思う。信頼関係を作るためには、こちらの話もしないとな」
「だからって、全てを話していいわけじゃない!」
異世界人二人が言い争いをしていると、上着の胸ポケットに入れていた明善のスマートフォンに着信。
二人は喧嘩しているし、多少堂々とメールを確認しても大丈夫だろう。
明善は「ちょっと失礼」と言い、素早くスマートフォンのメールに目を通す。落合からだ。
内容は以下。
一分後に突入。打ち合わせ通り、可能ならその場にいる相手を無力化。
明善は愛美に目配せし、彼女は短く頷く。
さて、ここからが正念場だ。
(※)ケシ
ケシからはアヘンと呼ばれる物質が採取でき、このアヘンから薬物であるモルヒネやヘロインが精製できる。
日本においてはアヘン法により、栽培が禁止されている。
刺青の男は笑いながら、小さな茶色い紙袋を明善に手渡した。
「念の為、紙袋の中を確認してくれ。あとで入って無かった、偽物をつかまされたと言われるのは嫌だからな」
刺青の言う通りに明善は紙袋を開け、手を入れる。取り出したのは透明なパケが連なったものであり、中には灰色の粉末が入っている。ルルからもらったサンプルと同じものだ。
「一、二……ちゃんと二十あります。ありがとうございます」
「その袋には吸引器も入れてある。初回サービスだ。リベレーションの吸い方は、わかるか?」
「沖田さんから後で聞きますよ」
「そうか。わかった」
「それで料金はいくらですか?」
「二十袋だから、えーと、二万円だな」
事前にリベレーションの価格は沖田から事前に聞いていたとはいえ、他の薬物に比べかなり安い。外の警官隊がまだ突入する気配はないし、ここは情報収集も兼ねて話を続けて時間を稼ぐ。
今なら刺青の男はなんでも喋ってくれそうだしな。
「ちなみになんですけど、リベレーションって一グラムどれくらいの値段ですか?」
現在の覚醒剤の末端価格が一グラム六万円ほど。大麻においては五千円前後。
明善の質問に、刺青は申し訳なそうに頭を掻く。
「すまねえな、兄ちゃん。こっちの世界の単位はわからない」
そりゃそうだ。無意味な質問だったな。
明善が推測するに、一パケ千円で内容量は三グラム前後。とすると、一グラムの値段は約三百円だ。正直、利益は大したものではない。リベレーションはかなり依存性が高い。もっと値段をふっかけても、買う人間は多いはず。
この値段でも儲かるぐらい、製作費が安いのか。それとも利益無視の、他の目的があるのか。
「いやー、随分安いなと思いましてね。ちょっと興味本位で聞いてみました」
「ははは。よく言われるよ。まあ、リベレーションの材料自体は俺達の世界ではたくさん取れるしな」
「……へえ。その材料って、どういうものなんですかね?」
材料の話が出てきたことは思わぬ収穫だ。現在、様々な世界がリベレーションの治療薬を作ることに躍起になっている。だが、未だ含まれている成分が特定できておらず、かなり難航している。もし材料がわかれば、これは大きな進展だ。
幸い刺青は口が軽く、簡単に質問に答えてくれた。
「材料は花だ」
「花?」
こちらの世界でもケシ(※)という花を咲かせる植物が存在する。その花からは麻薬が製造されるが、アルミトスにも同様の植物が存在するようだ。
「マイニアっていう名前の綺麗な花でな、その根から作るんだ。育つ場所は限られているが、結構強い花で環境さえ……」
「おい!」
刺青の肩を金髪が強く掴み、言葉を遮る。
「べらべら話すな! 何度も言ってるだろ!」
「何だよ。気にしすぎだぜ。沖田さんの知り合いなんだから、多少はいいだろ」
「限度がある! お前はいつもそうだ。口が軽すぎる」
「お前は細かいんだよ。俺は彼らにも協力者になってもらおうと思う。信頼関係を作るためには、こちらの話もしないとな」
「だからって、全てを話していいわけじゃない!」
異世界人二人が言い争いをしていると、上着の胸ポケットに入れていた明善のスマートフォンに着信。
二人は喧嘩しているし、多少堂々とメールを確認しても大丈夫だろう。
明善は「ちょっと失礼」と言い、素早くスマートフォンのメールに目を通す。落合からだ。
内容は以下。
一分後に突入。打ち合わせ通り、可能ならその場にいる相手を無力化。
明善は愛美に目配せし、彼女は短く頷く。
さて、ここからが正念場だ。
(※)ケシ
ケシからはアヘンと呼ばれる物質が採取でき、このアヘンから薬物であるモルヒネやヘロインが精製できる。
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