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十八話 地獄極楽天国やっぱり地獄 中
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「先に行くよ、マゾーガ!」
「ああ、わがった」
街のすぐそば、とはいえ灯りの届かないような距離に無数の火が見えた。
バリーが示唆してくれた別動隊だろう。
元の世界では田舎でももっとマシだと思うような暗闇は、やっぱり文明の差を感じる。
松明や蝋燭、月明かりくらいしか光源のない夜は本当に真っ暗だ。
だけど、そのお蔭で火を使うと、遠くからでも見つけれた。
勇者の力を全開にして走りながら、そういう意味では僕は運がいいのだろうか?と考える。
「……そもそも運がよかったら、召喚される事もないんじゃないだろうか」
凄い能力を貰っても、ソフィアさんや魔王と戦うにはまったく足りないしさ。
いや、でも召喚されたからこそ、ルーみたいな最高の彼女が出来たわけだし……いや、でもだからこそソフィアさんに目付けられたわけだし……微妙過ぎる。
ソフィアさんを嫌いというわけではなく、あのストイックに剣を極めようとする姿は尊敬出来る……んだけど、平地に乱を起こしてでも戦うのは、正直ついていけないし、ちょくちょく命の危険があるので勘弁して欲しい。
「間に合わないか」
無数の火が動いた。
地に伏せられていた火が、空に向かって動くのを僕は見ているしかない。
多分、大きさからして火矢くらいのものだろうし、石造りの建物は少しの火で燃え上がるものじゃないはずだ。
何度が撃たれれば火事になるかもしれないけど、まあそこまで大した事にはなりはしない。
そんな気分で僕は放たれる火矢の群れを見送った。
花火でも見ているような、綺麗だななんて感想を持ちながら。
「でも二発目は止める」
万が一億が一、あの先にルーがいたなら後悔してもしきれない。
まだ相手の姿は闇に隠されて見えないけど、大体の場所はわかっている。
その辺りに魔術をぶちこんでやればいい!
「というわけで、食らえ知らない奴ら!」
適当に束ねた魔力をまとめて放つ。
十本ばかりの雷が火が見える位置に真っ直ぐに飛んで行った。
しかし、どうも勇者=雷というイメージが強すぎて他の魔術は上手く扱えないのは何とかならないかな。
出来たら火とか氷とか出してみたいんだけど。
そんな暢気な事を考えていたら、着弾。
さすがに一網打尽とはいかなかったけど、何人かには当たったらしい。
稲光で切り裂かれた暗闇から、でかいザリガニ達が器用に弓に矢をつがえているのが一瞬だけ見えた。
なんだ、あのファンタジーな生物は。
「しかし、コントロールがまだまだだなあ」
雷が一本、街の方に逸れて飛んでいってしまった。
まあ相当、運が悪くなきゃ当たるはずも――初めは光、次には衝撃。
「なんだこりあああああ!?」
「お、お前何じだ!?」
街が爆発してる!?
え、なんで僕のせい!?
何があったの!?
「あいつは事を起こさないと死ぬ病気にでもかかっているのか」
「否定しきれませんわ……」
謎の大爆発があり、様子を見にきた我々の視界に入ってきたのは、縛り上げられたリョウジとマゾーガの姿だった。
「てめえ、何しやがった!」
「ち、違います、僕は何も!」
「うるせえ、何かやった奴は皆そう言うんだよ!」
兵士達に囲まれ、足蹴にされているリョウジと、後難を恐れたのか縄を打たれはしているものの、微妙に遠巻きにされたマゾーガが対照的だ。
辺りは十か二十軒ほどの建物が跡形もなく吹き飛び、あちこちでうめき声を上げる負傷者達が倒れている。
兵士に混ざり、昼間の交渉で見た覚えのある街のお偉方やその部下の姿が見られるが、負傷者を助けるわけでもなく、不安そうな顔を晒していた。
「お、お嬢様、助けなくてよろしいのでしょうか?」
「……どうやってだ?」
こいつら皆殺してみせろ、と言われれば出来なくもないが、アンジェリカの時のように魔物に操られているわけでもない連中を斬り捨てた日には、さすがにシャレにならん。
「でも、犯人はアカツキではありませんわよ!」
「その心は?」
「こんな事出来る度胸ありませんもの」
「ぐうの音も出ないほど納得してしまった」
とはいえ、リョウジを知らない連中をどう納得させたものか。
「ルーテシア、何があったと思う?」
「さっぱりですわね……ただこれを成したのは、魔術ではありませんわ。 これだけの破壊を成せる魔術の発動なら、駆け出しの魔術師でも気付きます」
「ふむ」
さて、どうしたものか。
どうもいまいち状況が掴めないが……と、考えた所でぴんときた。
「お嬢様、悪い笑顔になってますよ!?」
「また耳がぴくぴく動いてますわ」
「おっと」
いかんな、この耳は。
「まあなんだ。 リョウジ達も助かり、更にドワイト男爵の依頼もこなせるような、そんな道を
見つけてみようか」
「ドワイト男爵の依頼って……徴税権を取り返すって話でしたわよね? そんな事出来ますの?」
税を取る権利という金のなる木を、ただで手放す馬鹿がいないのは言うまでもないことだ。
だが、権利という物は翻ってみれば、重い重い枷となる。
ドワイト男爵の借金の形に徴税権を奪った連中が、この場に集まっているのも好都合だ。
「恐らく何とかなるだろう」
駄目なら駄目でルーテシアの実家の名前を押し出せば、リョウジとマゾーガは開放されるはずだろうし。
配当はドワイト男爵の徴税権。
そして、
「私を便利使いしようとした報いは受けてもらうとしようか、ドワイト男爵」
「ああ、わがった」
街のすぐそば、とはいえ灯りの届かないような距離に無数の火が見えた。
バリーが示唆してくれた別動隊だろう。
元の世界では田舎でももっとマシだと思うような暗闇は、やっぱり文明の差を感じる。
松明や蝋燭、月明かりくらいしか光源のない夜は本当に真っ暗だ。
だけど、そのお蔭で火を使うと、遠くからでも見つけれた。
勇者の力を全開にして走りながら、そういう意味では僕は運がいいのだろうか?と考える。
「……そもそも運がよかったら、召喚される事もないんじゃないだろうか」
凄い能力を貰っても、ソフィアさんや魔王と戦うにはまったく足りないしさ。
いや、でも召喚されたからこそ、ルーみたいな最高の彼女が出来たわけだし……いや、でもだからこそソフィアさんに目付けられたわけだし……微妙過ぎる。
ソフィアさんを嫌いというわけではなく、あのストイックに剣を極めようとする姿は尊敬出来る……んだけど、平地に乱を起こしてでも戦うのは、正直ついていけないし、ちょくちょく命の危険があるので勘弁して欲しい。
「間に合わないか」
無数の火が動いた。
地に伏せられていた火が、空に向かって動くのを僕は見ているしかない。
多分、大きさからして火矢くらいのものだろうし、石造りの建物は少しの火で燃え上がるものじゃないはずだ。
何度が撃たれれば火事になるかもしれないけど、まあそこまで大した事にはなりはしない。
そんな気分で僕は放たれる火矢の群れを見送った。
花火でも見ているような、綺麗だななんて感想を持ちながら。
「でも二発目は止める」
万が一億が一、あの先にルーがいたなら後悔してもしきれない。
まだ相手の姿は闇に隠されて見えないけど、大体の場所はわかっている。
その辺りに魔術をぶちこんでやればいい!
「というわけで、食らえ知らない奴ら!」
適当に束ねた魔力をまとめて放つ。
十本ばかりの雷が火が見える位置に真っ直ぐに飛んで行った。
しかし、どうも勇者=雷というイメージが強すぎて他の魔術は上手く扱えないのは何とかならないかな。
出来たら火とか氷とか出してみたいんだけど。
そんな暢気な事を考えていたら、着弾。
さすがに一網打尽とはいかなかったけど、何人かには当たったらしい。
稲光で切り裂かれた暗闇から、でかいザリガニ達が器用に弓に矢をつがえているのが一瞬だけ見えた。
なんだ、あのファンタジーな生物は。
「しかし、コントロールがまだまだだなあ」
雷が一本、街の方に逸れて飛んでいってしまった。
まあ相当、運が悪くなきゃ当たるはずも――初めは光、次には衝撃。
「なんだこりあああああ!?」
「お、お前何じだ!?」
街が爆発してる!?
え、なんで僕のせい!?
何があったの!?
「あいつは事を起こさないと死ぬ病気にでもかかっているのか」
「否定しきれませんわ……」
謎の大爆発があり、様子を見にきた我々の視界に入ってきたのは、縛り上げられたリョウジとマゾーガの姿だった。
「てめえ、何しやがった!」
「ち、違います、僕は何も!」
「うるせえ、何かやった奴は皆そう言うんだよ!」
兵士達に囲まれ、足蹴にされているリョウジと、後難を恐れたのか縄を打たれはしているものの、微妙に遠巻きにされたマゾーガが対照的だ。
辺りは十か二十軒ほどの建物が跡形もなく吹き飛び、あちこちでうめき声を上げる負傷者達が倒れている。
兵士に混ざり、昼間の交渉で見た覚えのある街のお偉方やその部下の姿が見られるが、負傷者を助けるわけでもなく、不安そうな顔を晒していた。
「お、お嬢様、助けなくてよろしいのでしょうか?」
「……どうやってだ?」
こいつら皆殺してみせろ、と言われれば出来なくもないが、アンジェリカの時のように魔物に操られているわけでもない連中を斬り捨てた日には、さすがにシャレにならん。
「でも、犯人はアカツキではありませんわよ!」
「その心は?」
「こんな事出来る度胸ありませんもの」
「ぐうの音も出ないほど納得してしまった」
とはいえ、リョウジを知らない連中をどう納得させたものか。
「ルーテシア、何があったと思う?」
「さっぱりですわね……ただこれを成したのは、魔術ではありませんわ。 これだけの破壊を成せる魔術の発動なら、駆け出しの魔術師でも気付きます」
「ふむ」
さて、どうしたものか。
どうもいまいち状況が掴めないが……と、考えた所でぴんときた。
「お嬢様、悪い笑顔になってますよ!?」
「また耳がぴくぴく動いてますわ」
「おっと」
いかんな、この耳は。
「まあなんだ。 リョウジ達も助かり、更にドワイト男爵の依頼もこなせるような、そんな道を
見つけてみようか」
「ドワイト男爵の依頼って……徴税権を取り返すって話でしたわよね? そんな事出来ますの?」
税を取る権利という金のなる木を、ただで手放す馬鹿がいないのは言うまでもないことだ。
だが、権利という物は翻ってみれば、重い重い枷となる。
ドワイト男爵の借金の形に徴税権を奪った連中が、この場に集まっているのも好都合だ。
「恐らく何とかなるだろう」
駄目なら駄目でルーテシアの実家の名前を押し出せば、リョウジとマゾーガは開放されるはずだろうし。
配当はドワイト男爵の徴税権。
そして、
「私を便利使いしようとした報いは受けてもらうとしようか、ドワイト男爵」
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