上 下
28 / 77

緊急裁判

しおりを挟む
 バルドナード邸には、分家の人間も含め親族が全員集結していた。分家の中の御三家には、バレンシア家を筆頭に、クロフォード家、ヘンスリー家がある。
 バルドナード家のよくわからない豪華な会議室のような部屋で、俺はまるで裁判の被告人のような扱いを受けていた。

「殺人犯!」


「よくのこのこと出てきやがったな!」



「尊属殺人だろ!」

「そうだ、そうだ!」

「なんてことをしてくれたんだ!」


「パオロを追放しろ!」


「この人殺し!」


 言われたい放題なんですけど、正直、つらいっす。母親のソーナは俯いている。なんだか申し訳ないな。もっとも、自分が悪いことをしたつもりはないんだけど。一方で親父、いや、ロベルトは堂々としている。とてつもない風格である。よく見ると、現実の親父よりもだいぶ若い。そりゃそうか。実際の親父、確か60過ぎだし。
 そうこうしているうちにロベルトは口を開いた。


「お言葉ですが一族のみなさん、息子は確かに、ロイド・バルドナード様の御子息、ルイス君を殺めてしまいました。しかしながら、ギルバート帝国学院剣術科の必須科目である決闘のルールに従ったまでのことです。この件に関して息子を責めたてることは、学校を責めることとなり、ひいては皇帝様を責めることになります。みなさんはそのおつもりですか」




 うわー。煽りますねー。まるで俺の本物の親父みたいだな。でも、いよいよ収集つかなくなってしまいましたけど、どうするんですかね。父上殿。
 ロベルトの堂々たる発言によって、場は荒れた。そこここから土豪が飛び交う。母親であるソーナと、弟のアロンゾは遂に泣き出した。いくら野次を浴びても、ロベルトは微動だにせず、きっと前を見つめている。


「おい! ロベルト! 聞いているのか!」



「バレンシア家の歴史に泥を塗りたいようだな!」



「バレンシア家を一族から追い出せ!」



 好き放題の言われよう。俺も遂に、現実世界でニートだった時と扱いが変わらなくなってしまうのか。そう思った時だった。荒れた場を収めたのは、バルドナード本家の当主、ロイド・バルドナードだった。




「貴様ら黙れい! 馬鹿なことを…!」



 さっきまで騒がしかった会議室が、しんと静まり返る。凄い。さすがはバルドナード家の当主だ。しわがれた声に似合った貫禄のある体系に、黒い口髭。威厳を感じずにはいられない。



「パオロ君」



「は、はい!」


「さっきからここの大馬鹿者が、君を侮辱してすまない。ワシが一族を代表して謝るよ」



「いえ、とんでもございません!」


 しかし、横槍が入った。



「しかし、ロイド様! この小僧はルイス君を殺してしまったのですよ!」



 そこそこ偉い雰囲気の男性が叫ぶ。恐らく、本家の人間だろう。



「やかましい…!」



 そう言って、ロイドは、その男に人差し指を向けた。するとその男は血を吐いて倒れた。



「いいか諸君。ワシに逆らう者は死んでもらう。今の大馬鹿者のようにな」



 もう、誰も何も言えなくなった。



「ルイスは、馬鹿息子じゃった。散々罪を犯しては、ワシは火消しに奔走した。奴のことはもう忘れる」


 おいおい、マジかよ。いくらルイスでも、自分の息子だろ? 鬼だ。この爺さん。



「そこでだ。パオロ・バレンシア君にいい話がある」



「な、なんでしょう」


「君にバルドナード本家の嫡子となってもらいたい。ワシは優秀な君が欲しい。まあ、養子ということだな」



「え、それはその…」



「うん? 何か勘違いしているようだね、パオロ・バレンシア、いや、パオロ・バルドナード」



 そう言ってロイドは少し笑った。恐ろしい。に、逃げてえ~。


「これは命令じゃ。逆らったらバレンシア家をこの世から殲滅させる」




ー続くー




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

無能を装って廃嫡された最強賢者は新生活を満喫したい!

えながゆうき
ファンタジー
 五歳のときに妖精と出会った少年は、彼女から自分の置かれている立場が危ういことを告げられた。  このままではお母様と同じように殺されてしまう。  自分の行く末に絶望した少年に、妖精は一つの策を授けた。それは少年が持っている「子爵家の嫡男」という立場を捨てること。  その日から、少年はひそかに妖精から魔法を教えてもらいながら無能者を演じ続けた。  それから十年後、予定通りに廃嫡された少年は自分の夢に向かって歩き出す。  膨大な魔力を内包する少年は、妖精に教えてもらった、古い時代の魔法を武器に冒険者として生計を立てることにした。  だがしかし、魔法の知識はあっても、一般常識については乏しい二人。やや常識外れな魔法を使いながらも、周囲の人たちの支えによって名を上げていく。  そして彼らは「かつてこの世界で起こった危機」について知ることになる。それが少年の夢につながっているとは知らずに……。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

処理中です...