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もしかして俺、最強?
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あれからひと月近く俺は異世界に身を置いた。身を置いたといっても、中身は40歳のオッサンだ。しかもオッサンはオッサンでも、元引きこもりのオッサン。
魔術や剣術について勉強するでもなく、剣術の修練するでもなく、ただただボーっとしたり、メイドと遊んだりしていた。ちなみにメイドと遊ぶのは地味に楽しかった。夢のような時間だった。
やはりパオロは小さな頃から優秀な子どもだったみたいだ。周囲からの人望も厚く、特に弟のアロンゾからなんかは、やることなすこと尊敬されている。これが1番気持ちいいかもしれない。いずれにせよ、現実にいた時には受けられなかった待遇を受け、豪華な食事など、贅沢な暮らしができる分、特に何をする訳じゃなくても、居心地がいい。
学院入学を直前に控え、市場にある仕立て屋にギルバート帝国学院専用の制服の寸法を合わせに行くことになった。俺としては現実世界、異世界を通じて本当に久しぶりの外出だった為、極度の緊張感を持って外に出た。あ、言い忘れていたけど、臆病過ぎる俺は、仕立て屋まで徒歩5分の距離であるにもかかわらず、メイドに同伴を頼んだ。まあ、どっちみち場所もわからなかったのでちょうどいい。
「パオロ様、一応ね、剣も持っていきましょ!」
「剣などいらないだろう。徒歩5分で、馬車も要らない距離なのだから」
「あれれ~、じゃあ、私ついていくのやめますぅ? パオロ様おひとりで行かれますぅ?」
うっぜーこの女! わざと言ってやがる。性格悪すぎるだろ。でも仕方ない。ここは言うことを聞くしかないし、こういう会話も元引きこもりの俺にとっては意外と楽しかったりするのだ。
「わかったわかった。剣を持っていこう。何かいい剣はあるか?」
「はいこれ!」
メイドが渡してきたのは、木刀だった。なんでやねん。
「これ、小学生が修学旅行とかで使う時のやつ!」
「え、え? しょ、しょが? シュウガクリ?」
「あ! やべ…! ごほんごほん! いやなんでもない」
「なんか今日のパオロ様、変じゃないですか?」
「そんなことはない! 早く行くぞ!」
メイドははあい、と気を抜けた返事をし、訝しげな顔ををしながら俺の後をついてきた。まずいまずい。お笑い芸人みたいな例えツッコミしたって通じないだろうし、小学生も修学旅行もわかる訳がない。気まずい雰囲気になってしまった…。
「さあレッツゴー! え、い、いや~!」
「どうした!」
屋敷を出るなり、メイドは何者かに襲われた。それはモンスターだった。
「これは、コカトリスじゃ!」
辺りにいた人だかりの中から、そんな叫び声が聞こえる。
「パオロ様~! 助けてくださ~い!」
おいおい。勘弁してくれよ。いきなりコカトリスを倒さなきゃいけないの? 最初はせめてスライムからだろう。
メイドはコカトリスに纏われている。仕方ない。行くか。木刀で。
「はっ!」
こうなったらもうやけくそで、どうにでもなれという気持ちで、とりあえず木刀を振り回した。無我夢中で、前も見ずに。ひょっとすると、メイドのことも攻撃してしまったかもしれない。
目をつぶって夢中で木刀を振り回していると、やがて腕に確かな感触があった。そして、周囲から歓声が上がった。
しばらくすると、メイドが俺の元に走ってきて、そのまま俺に抱きついた。黄色い歓声が上がる。
「パ、パオロ様ッ! ありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
「へ?」
え、何、待って。俺、コカトリス倒したの? 凄くね? 体育の成績1の俺が?
「見事だった!」
「立派な剣使いじゃったな!」
「さすがはバレンシア家の次世代当主だ」
口々に俺を称賛する声が聞こえてくる。もしかして、俺って、この世界の主人公?
俺ってこの世界で無双できるんじゃね?
バルドナード本家のルイスのこともボコれるんじゃね?
メイドに抱きつかれながら、そして歓声を浴びながら、俺はそんなことを思うのだった。
魔術や剣術について勉強するでもなく、剣術の修練するでもなく、ただただボーっとしたり、メイドと遊んだりしていた。ちなみにメイドと遊ぶのは地味に楽しかった。夢のような時間だった。
やはりパオロは小さな頃から優秀な子どもだったみたいだ。周囲からの人望も厚く、特に弟のアロンゾからなんかは、やることなすこと尊敬されている。これが1番気持ちいいかもしれない。いずれにせよ、現実にいた時には受けられなかった待遇を受け、豪華な食事など、贅沢な暮らしができる分、特に何をする訳じゃなくても、居心地がいい。
学院入学を直前に控え、市場にある仕立て屋にギルバート帝国学院専用の制服の寸法を合わせに行くことになった。俺としては現実世界、異世界を通じて本当に久しぶりの外出だった為、極度の緊張感を持って外に出た。あ、言い忘れていたけど、臆病過ぎる俺は、仕立て屋まで徒歩5分の距離であるにもかかわらず、メイドに同伴を頼んだ。まあ、どっちみち場所もわからなかったのでちょうどいい。
「パオロ様、一応ね、剣も持っていきましょ!」
「剣などいらないだろう。徒歩5分で、馬車も要らない距離なのだから」
「あれれ~、じゃあ、私ついていくのやめますぅ? パオロ様おひとりで行かれますぅ?」
うっぜーこの女! わざと言ってやがる。性格悪すぎるだろ。でも仕方ない。ここは言うことを聞くしかないし、こういう会話も元引きこもりの俺にとっては意外と楽しかったりするのだ。
「わかったわかった。剣を持っていこう。何かいい剣はあるか?」
「はいこれ!」
メイドが渡してきたのは、木刀だった。なんでやねん。
「これ、小学生が修学旅行とかで使う時のやつ!」
「え、え? しょ、しょが? シュウガクリ?」
「あ! やべ…! ごほんごほん! いやなんでもない」
「なんか今日のパオロ様、変じゃないですか?」
「そんなことはない! 早く行くぞ!」
メイドははあい、と気を抜けた返事をし、訝しげな顔ををしながら俺の後をついてきた。まずいまずい。お笑い芸人みたいな例えツッコミしたって通じないだろうし、小学生も修学旅行もわかる訳がない。気まずい雰囲気になってしまった…。
「さあレッツゴー! え、い、いや~!」
「どうした!」
屋敷を出るなり、メイドは何者かに襲われた。それはモンスターだった。
「これは、コカトリスじゃ!」
辺りにいた人だかりの中から、そんな叫び声が聞こえる。
「パオロ様~! 助けてくださ~い!」
おいおい。勘弁してくれよ。いきなりコカトリスを倒さなきゃいけないの? 最初はせめてスライムからだろう。
メイドはコカトリスに纏われている。仕方ない。行くか。木刀で。
「はっ!」
こうなったらもうやけくそで、どうにでもなれという気持ちで、とりあえず木刀を振り回した。無我夢中で、前も見ずに。ひょっとすると、メイドのことも攻撃してしまったかもしれない。
目をつぶって夢中で木刀を振り回していると、やがて腕に確かな感触があった。そして、周囲から歓声が上がった。
しばらくすると、メイドが俺の元に走ってきて、そのまま俺に抱きついた。黄色い歓声が上がる。
「パ、パオロ様ッ! ありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
「へ?」
え、何、待って。俺、コカトリス倒したの? 凄くね? 体育の成績1の俺が?
「見事だった!」
「立派な剣使いじゃったな!」
「さすがはバレンシア家の次世代当主だ」
口々に俺を称賛する声が聞こえてくる。もしかして、俺って、この世界の主人公?
俺ってこの世界で無双できるんじゃね?
バルドナード本家のルイスのこともボコれるんじゃね?
メイドに抱きつかれながら、そして歓声を浴びながら、俺はそんなことを思うのだった。
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