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第3話
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その日の夜、僕は机でスマホ内の写真を見ていた。それは、その日海で撮った写真だ。写真の中には、笑顔を向けている僕と悠が写っている。
僕の頬に自分の頬を寄せ、幸せそうな表情でいる悠。きっと、こんなことは愛する相手にしかしないはずだ。そんなことを思うと、嬉しさと共に安心感のようなものも湧いてくる。
僕はその写真を見ながら、今日の夕暮れ時のことを思い出す。それはまるで今体感しているように、鮮明に映像化されていく。
オレンジに染まった空、漣の音、海に起こる緩やかな波。僕達は座りながらそれを眺めている。
そうしていると、悠がふいに僕の肩に頭を乗せる。僕の鼻腔に入る、華やかな髪の香り。僕はそれにどぎまぎしながらも、平静を取り繕いこう尋ねる。
「急にどうしたんだ?」
「別に、何でもない」
そう言ってから程無くして、悠は僕の頬にキスした。僕の胸は更に高揚し、身体が沸騰したような感覚を覚える。そんな僕をからかうように、悠は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
悠は海に向き直ると、思い出したようにこう言った。
「そういや、キスなんてしたことなかったね。ほっぺは今したけど……」
言われてみれば、確かにそうだ。僕が奥手なので、なかなかそういうことをできなかったのだ。
今、悠にしたらどんな反応を見せるのだろう。そんなことを思ったものの、なかなか行動に移せない。そんな臆病な自分に苛立ってくる。
不意に、悠は僕の顔に自分の顔を近づけてきた。僕と悠の目と目が合う。僕が茫然としている間に、額と額がくっつく。それから、悠は耳を擽るように囁いた。
「ねぇ、今してみる?」
僕が何も答えられないでいると、悠は吹き出すように笑った。
「アハハハハハハ……」
僕は何が何だか分からず、目を丸くする。そんな僕を、悠は可笑しそうに見ている。その様子を見るに、からかわれていたことだけは確かなようだ。
僕は少し苛立ちながら、こう言った。
「な、何なんだよ」
「からかっただけだよ。そんなに怒ることないじゃん」
そう言うと、悠は艶のある笑みを浮かべる。そして、僕から目を反らした。一体、何がしたいのだろう。僕には分からないが、からかわれることが心地よくもあった。
そんな思い出に浸っていたが、不意にある心配事に囚われた。
もしや、あの甘い思い出すら悠は忘れるのではないか。大人になっていく内に、突然記憶の中から消滅するのではないか。そんなことを、どうしても考えてしまうのだった。
けれど、僕はそれを直ぐ様掻き消そうとする。そうでもしなければ、僕の気が持たない。
僕は再び、写真の中の悠を見つめる。悠は小鳥のそれのような濁りのない瞳で、僕を見つめている。その瞳を見ている内に、別れ際に放った言葉が脳内再生される。
「きっと、今日のことは一生忘れないと思う」
暗くなりかけた空の下、悠は確かにそう言ってくれた。その言葉を僕が信じなくて、どうするというのだ。
不安を打ち消すように、その言葉を何度も脳内再生する。きっと悠の中に、僕や僕との思い出は生き続けるはずだ。根拠は無くとも、そう信じる他ない。
不安な気持ちと格闘していると、突如スマホにメッセージが来た。それは、悠から来たものらしい。それを読み上げる。
「今日のデート、楽しかったよ」
ただ、その一言だけを伝えたかったらしい。意外にも、悠には律儀な所がある。僕もまた、メッセージを送る。
「次のオフの日は、どこに連れて行って欲しい?」
基本的に、デートの場所は僕が決めることになっている。なのでそう打ち込んだのだが、悠からは意外な返答が来た。
「次は私の好きな所に連れて行きたいの。いい?」
悠からデート場所を指定されることは、片手で数えられる程しかない。それ程貴重な機会を断る理由は無い。
「分かった。でも、それは一体どこなの?」
「教えない。ま、楽しみにしていてよ。それより、オフの日がいつか教えて」
これまた意外な返答だった。けれど、確かにその方が楽しみが増えて良いかもしれない。
メッセージを確認すると、オフの日を教えた。その後、悠から確認のメッセージが届く。
「じゃあ、その日で決定ね。集合場所は、○○公園ね」
それに対し「了解」とだけ打つと、会話は終了した。
一体、悠の好きな所はどこなのだろう。水族館だろうか。動物園だろうか。それとも、もっとニッチな所だろうか。想像すると、徐々に楽しくなってくる。好きな人の新たな一面を知れることは、恋の楽しさの一つだ。
そんなことを考えている内に、もう眠る時間になっていた。今日はもう、翌日の学校に備え眠ることにしよう。部屋の電気を消すと、ベッドに入る。
僕の頬に自分の頬を寄せ、幸せそうな表情でいる悠。きっと、こんなことは愛する相手にしかしないはずだ。そんなことを思うと、嬉しさと共に安心感のようなものも湧いてくる。
僕はその写真を見ながら、今日の夕暮れ時のことを思い出す。それはまるで今体感しているように、鮮明に映像化されていく。
オレンジに染まった空、漣の音、海に起こる緩やかな波。僕達は座りながらそれを眺めている。
そうしていると、悠がふいに僕の肩に頭を乗せる。僕の鼻腔に入る、華やかな髪の香り。僕はそれにどぎまぎしながらも、平静を取り繕いこう尋ねる。
「急にどうしたんだ?」
「別に、何でもない」
そう言ってから程無くして、悠は僕の頬にキスした。僕の胸は更に高揚し、身体が沸騰したような感覚を覚える。そんな僕をからかうように、悠は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
悠は海に向き直ると、思い出したようにこう言った。
「そういや、キスなんてしたことなかったね。ほっぺは今したけど……」
言われてみれば、確かにそうだ。僕が奥手なので、なかなかそういうことをできなかったのだ。
今、悠にしたらどんな反応を見せるのだろう。そんなことを思ったものの、なかなか行動に移せない。そんな臆病な自分に苛立ってくる。
不意に、悠は僕の顔に自分の顔を近づけてきた。僕と悠の目と目が合う。僕が茫然としている間に、額と額がくっつく。それから、悠は耳を擽るように囁いた。
「ねぇ、今してみる?」
僕が何も答えられないでいると、悠は吹き出すように笑った。
「アハハハハハハ……」
僕は何が何だか分からず、目を丸くする。そんな僕を、悠は可笑しそうに見ている。その様子を見るに、からかわれていたことだけは確かなようだ。
僕は少し苛立ちながら、こう言った。
「な、何なんだよ」
「からかっただけだよ。そんなに怒ることないじゃん」
そう言うと、悠は艶のある笑みを浮かべる。そして、僕から目を反らした。一体、何がしたいのだろう。僕には分からないが、からかわれることが心地よくもあった。
そんな思い出に浸っていたが、不意にある心配事に囚われた。
もしや、あの甘い思い出すら悠は忘れるのではないか。大人になっていく内に、突然記憶の中から消滅するのではないか。そんなことを、どうしても考えてしまうのだった。
けれど、僕はそれを直ぐ様掻き消そうとする。そうでもしなければ、僕の気が持たない。
僕は再び、写真の中の悠を見つめる。悠は小鳥のそれのような濁りのない瞳で、僕を見つめている。その瞳を見ている内に、別れ際に放った言葉が脳内再生される。
「きっと、今日のことは一生忘れないと思う」
暗くなりかけた空の下、悠は確かにそう言ってくれた。その言葉を僕が信じなくて、どうするというのだ。
不安を打ち消すように、その言葉を何度も脳内再生する。きっと悠の中に、僕や僕との思い出は生き続けるはずだ。根拠は無くとも、そう信じる他ない。
不安な気持ちと格闘していると、突如スマホにメッセージが来た。それは、悠から来たものらしい。それを読み上げる。
「今日のデート、楽しかったよ」
ただ、その一言だけを伝えたかったらしい。意外にも、悠には律儀な所がある。僕もまた、メッセージを送る。
「次のオフの日は、どこに連れて行って欲しい?」
基本的に、デートの場所は僕が決めることになっている。なのでそう打ち込んだのだが、悠からは意外な返答が来た。
「次は私の好きな所に連れて行きたいの。いい?」
悠からデート場所を指定されることは、片手で数えられる程しかない。それ程貴重な機会を断る理由は無い。
「分かった。でも、それは一体どこなの?」
「教えない。ま、楽しみにしていてよ。それより、オフの日がいつか教えて」
これまた意外な返答だった。けれど、確かにその方が楽しみが増えて良いかもしれない。
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「じゃあ、その日で決定ね。集合場所は、○○公園ね」
それに対し「了解」とだけ打つと、会話は終了した。
一体、悠の好きな所はどこなのだろう。水族館だろうか。動物園だろうか。それとも、もっとニッチな所だろうか。想像すると、徐々に楽しくなってくる。好きな人の新たな一面を知れることは、恋の楽しさの一つだ。
そんなことを考えている内に、もう眠る時間になっていた。今日はもう、翌日の学校に備え眠ることにしよう。部屋の電気を消すと、ベッドに入る。
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