35 / 44
新たな婚約
しおりを挟む
「お前がこれほど馬鹿だったとは思わなかった! ユウナさんのなにが不満だったのだ!」
「……不満とかじゃなくて、伯爵になるなら妻が二人いてもおかしくないって、アリアが……」
「おかしいに決まっているだろ! そもそも平民のお前が伯爵になれるわけがないのに、なにをほざいているんだ!」
「え、でも、父さんが」
「私は伯爵家に入り婿できると言っただけで、お前自身が伯爵になれるとは一言も口にしていない! まあ、どっちにしろ、お前と結婚した場合はユウナさんが伯爵を継ぐ可能性がなくなると知らなかった私も悪いから、お前一人を責められないが」
父親はわずかに苦い顔をしてから、再度怒りに染まる。
「だからといって、仮にお前が伯爵になれたとしても、入り婿の分際で他に妻を持てるわけがないだろ! それは平民の家でも同じことだ。入り婿が他で愛人など作ろうものなら即離婚されて当然の愚行だぞ!」
確かにその通りだと、ジュードはようやく間違いに気がつき始めた。
「あ……、じゃあ、ユウナに謝ってまた婚約してもらえるように頼んだらいいじゃないか。少し勘違いしただけなんだ。アリアとは恋仲ってわけじゃない。アリアは体が弱いから、他に嫁ぎ先が見つからないかもしれないから俺が受け入れないとって思っただけだし。ちゃんとユウナに説明したら分かってくれるだろ?」
寒々とした眼差しがジュードを見下ろす。
「馬鹿が。もうその段階はとっくの昔に過ぎている」
「それってどういう……」
ジュードの言葉に被せて父親の言葉を発する。
「社交界で噂になっていると言っただろう。もう周知の事実として話が回っている。ただの噂ですと否定できないほどにな。お前には覚えがあるんじゃないのか? 男爵家でアリアちゃんと、どういう風に過ごしていたんだ。ただの幼馴染みの付き合い方ではなかったのだろ? すでに男女の仲になっていると証言がいくつも出てきている」
「あ……」
ジュードは否定できない。
アリアに流されて、幼馴染みの一線を超える触れ合いをしていたのは本当のことだったからだ。
アリアの部屋でひっそりと行われていた逢瀬はアリアと二人だけの秘密。
けれど、使用人達は当然気がついていたはず。
それでも呑気にしていたのは、貴族の使用人なら口が堅いだろうと、思ったからだ。
なので、大した口止めもしていなかった。
それが今になって災いするなどジュードもアリアも思っていない。
「男爵様からも、これほど社交界で話題になっている以上、責任を取ってもらわなければ困ると苦言を呈された。今さら嘘だったで済ませられる段階ではないんだよ」
「そんな……」
そこまで大事になっていると、ジュードは初めて知った。
しかし、貴族の社交界での話を、社交界に参加したことのない平民のジュードが知らないのは仕方ない。
アリアもまた、社交界とは無縁だった。
「伯爵との縁は惜しいが、うちの商会で一番の取引相手である男爵様を怒らせるわけにはいかない。男爵様の圧がかかる前に、お前にはアリアちゃんと婚約してもらう。そのために、ユウナさんとの婚約を早急に解消したんだ」
「そんなの勝手だろ」
自分の意思を無視した決定にジュードは反抗心を抱く。
ジュードは別にユウナとの結婚に不満はなかったのだ。
なにせユウナは美しく、貴族の血を引き、国一番のシャロン商会の令嬢だ。
見目も、血筋も、資産も、これ以上の好条件の相手などそうそう縁を持ってるものではない。
手放したくないという、欲が湧く。
だが、ジュードの思惑を切り捨てるように父親は凍るような目を向けた。
「聞いていなかったのか? これは決定事項だ。お前に拒否権はない」
怒りを通り越し、感情の抜けた表情の父親に、ジュードは今さらながらとんでもないことをしたのではないかと気づかされる。
「明日、男爵様が時間を取ってくださるそうだ。お前も一緒に来い。正式な婚約を取り決めるための書類を作ることになっている」
もはや、ジュードの意見などどうでもいいというように告げた後、父親はジュードを部屋の外に放り出し、使用人に男爵家へ行くための準備をさせるようにと命じた。
目の前で無情にパタンと閉まる扉の前で、頭が真っ白になったジュードはしばらく突っ立ったままだった。
「……不満とかじゃなくて、伯爵になるなら妻が二人いてもおかしくないって、アリアが……」
「おかしいに決まっているだろ! そもそも平民のお前が伯爵になれるわけがないのに、なにをほざいているんだ!」
「え、でも、父さんが」
「私は伯爵家に入り婿できると言っただけで、お前自身が伯爵になれるとは一言も口にしていない! まあ、どっちにしろ、お前と結婚した場合はユウナさんが伯爵を継ぐ可能性がなくなると知らなかった私も悪いから、お前一人を責められないが」
父親はわずかに苦い顔をしてから、再度怒りに染まる。
「だからといって、仮にお前が伯爵になれたとしても、入り婿の分際で他に妻を持てるわけがないだろ! それは平民の家でも同じことだ。入り婿が他で愛人など作ろうものなら即離婚されて当然の愚行だぞ!」
確かにその通りだと、ジュードはようやく間違いに気がつき始めた。
「あ……、じゃあ、ユウナに謝ってまた婚約してもらえるように頼んだらいいじゃないか。少し勘違いしただけなんだ。アリアとは恋仲ってわけじゃない。アリアは体が弱いから、他に嫁ぎ先が見つからないかもしれないから俺が受け入れないとって思っただけだし。ちゃんとユウナに説明したら分かってくれるだろ?」
寒々とした眼差しがジュードを見下ろす。
「馬鹿が。もうその段階はとっくの昔に過ぎている」
「それってどういう……」
ジュードの言葉に被せて父親の言葉を発する。
「社交界で噂になっていると言っただろう。もう周知の事実として話が回っている。ただの噂ですと否定できないほどにな。お前には覚えがあるんじゃないのか? 男爵家でアリアちゃんと、どういう風に過ごしていたんだ。ただの幼馴染みの付き合い方ではなかったのだろ? すでに男女の仲になっていると証言がいくつも出てきている」
「あ……」
ジュードは否定できない。
アリアに流されて、幼馴染みの一線を超える触れ合いをしていたのは本当のことだったからだ。
アリアの部屋でひっそりと行われていた逢瀬はアリアと二人だけの秘密。
けれど、使用人達は当然気がついていたはず。
それでも呑気にしていたのは、貴族の使用人なら口が堅いだろうと、思ったからだ。
なので、大した口止めもしていなかった。
それが今になって災いするなどジュードもアリアも思っていない。
「男爵様からも、これほど社交界で話題になっている以上、責任を取ってもらわなければ困ると苦言を呈された。今さら嘘だったで済ませられる段階ではないんだよ」
「そんな……」
そこまで大事になっていると、ジュードは初めて知った。
しかし、貴族の社交界での話を、社交界に参加したことのない平民のジュードが知らないのは仕方ない。
アリアもまた、社交界とは無縁だった。
「伯爵との縁は惜しいが、うちの商会で一番の取引相手である男爵様を怒らせるわけにはいかない。男爵様の圧がかかる前に、お前にはアリアちゃんと婚約してもらう。そのために、ユウナさんとの婚約を早急に解消したんだ」
「そんなの勝手だろ」
自分の意思を無視した決定にジュードは反抗心を抱く。
ジュードは別にユウナとの結婚に不満はなかったのだ。
なにせユウナは美しく、貴族の血を引き、国一番のシャロン商会の令嬢だ。
見目も、血筋も、資産も、これ以上の好条件の相手などそうそう縁を持ってるものではない。
手放したくないという、欲が湧く。
だが、ジュードの思惑を切り捨てるように父親は凍るような目を向けた。
「聞いていなかったのか? これは決定事項だ。お前に拒否権はない」
怒りを通り越し、感情の抜けた表情の父親に、ジュードは今さらながらとんでもないことをしたのではないかと気づかされる。
「明日、男爵様が時間を取ってくださるそうだ。お前も一緒に来い。正式な婚約を取り決めるための書類を作ることになっている」
もはや、ジュードの意見などどうでもいいというように告げた後、父親はジュードを部屋の外に放り出し、使用人に男爵家へ行くための準備をさせるようにと命じた。
目の前で無情にパタンと閉まる扉の前で、頭が真っ白になったジュードはしばらく突っ立ったままだった。
495
お気に入りに追加
7,551
あなたにおすすめの小説
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
みんなもやってるから浮気ですか?なら、みんながやってるので婚約破棄いたしますね
荷居人(にいと)
恋愛
私には愛する婚約者がいる。幼い頃から決まっている仲のいい婚約者が。
優しくて私だけをまっすぐ見てくれる誠実な人。嫌なことがあっても彼がいればそれだけで幸せな日となるほどに大切な人。
そんな婚約者は学園の高等部になってから変わってしまった。
「すまない!男ならみんながやってることだからと断りきれなくて……次からはしないよ!愛してるのは君だけなんだ!」
誠実から不誠実の称号を得た最初の彼の変化。浮気だった。気づいたのは周りの一部の令嬢が婚約者の浮気で落ち込むのが多くなり、まさか彼は違うわよね………と周りに流されながら彼を疑う罪悪感を拭うために調べたこと。
それがまさか彼の浮気を発覚させるなんて思いもしなかった。知ったとき彼を泣いて責めた。彼は申し訳なさそうに謝って私だけを愛していると何度も何度も私を慰めてくれた。
浮気をする理由は浮気で婚約者の愛を確かめるためなんて言われているのは噂でも知っていて、実際それで泣く令嬢は多くいた。そんな噂に彼も流されたのだろう。自分の愛は信用に足らなかったのだろうかと悲しい気持ちを抑えながらも、そう理解して、これからはもっと彼との時間を増やそうと決意した。
だけど………二度、三度と繰り返され、彼の態度もだんだん変わり、私はもう彼への愛が冷めるどころか、彼の愛を信じることなんてできるはずもなかった。
みんながやってるから許される?我慢ならなくなった令嬢たちが次々と婚約破棄をしてるのもみんながやってるから許されますよね?拒否は聞きません。だってみんながやってますもの。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
【完結】長年の婚約者を捨て才色兼備の恋人を選んだら全てを失った!
つくも茄子
恋愛
公爵家の跡取り息子ブライアンは才色兼備の子爵令嬢ナディアと恋人になった。美人で頭の良いナディアと家柄は良いが凡庸な婚約者のキャロライン。ブライアンは「公爵夫人はナディアの方が相応しい」と長年の婚約者を勝手に婚約を白紙にしてしまった。一人息子のたっての願いという事で、ブライアンとナディアは婚約。美しく優秀な婚約者を得て鼻高々のブライアンであったが、雲行きは次第に怪しくなり遂には……。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる