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氷の貴公子
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ロゼットと雰囲気の似たその人は、ロゼットの兄のログスだ。
「あら、お兄様。女子会に男子が入ってくるなんて無粋ですわよ」
「すまないね、ロゼット。ユウナ嬢がいらしていると聞いて、こちらが挨拶をしたいというものだから」
ログスの後ろから現れたのは、兄のノアにも負けず劣らずの美しい男性だ。
身なりからして貴族だろうが、ユウナは知らぬ顔だった。
けれど、ロゼットは驚いたように立ち上がり、淑女らしく品のいい礼をする。
それを見て、目の前の彼がかなり高位の貴族であると察したユウナも、慌てて礼をする。
「お二人とも普通にしてください。頭を下げなければならないのはこちらの方だ。突然来訪した無礼をお許しいただけないだろうか」
そう言って頭を下げる美麗な男性に、ロゼットは慌てる。
「とんでもございませんわ、アールス様。我が家へようこそおいでくださいました」
アールス。
その名を聞いてユウナに心当たりがあったのは一つだけ。
アールス公爵家。
いくつかある公爵家の中で最も力なある家だ。
アールス家で目の前の男性ぐらいの年齢の男子は嫡男であるキルク・アールスしかいない。
笑わない冷徹な仕事人間という噂で、氷の貴公子と陰で呼ばれているらしい。
相手が公爵家の者ならば、伯爵令嬢であるロゼットが焦るはずである。
「それにしてもアールス様がなぜこちらへ? 兄と親交があるとは初めて知りましたわ」
ロゼットが兄なログスへ視線を向けると、動揺がこちらまで伝わってきた。
「あ、えーと、それはその……」
「最近仲良くなったんですよ。ねぇ、ログス?」
「そ、そうです!」
まるで首振り人形のようにこくこく頷くログスと、うっすら笑みを浮かべるキルク。
なにか違和感が。
仲良しというわりに、なんだか二人には距離を感じるような気がする。
「怪しい……」
ロゼットもユウナと同じことを思ったのか、胡乱げな眼差しを向ける。
それを振り払うようにログスはユウナを名指しした。
「いいからお前は黙ってなさい。用事があるのはユウナ嬢なんだから」
「ユウナになにか用ですの?」
「私がお会いしたかったのですよ」
キルクがログスを押しのけるようにして前へ出てくると、ユウナの手を取り、手の甲にキスを落とした。
「はじめまして、キルク・アールスです」
「ご丁寧にありがとうございます。私は……」
「存じ上げております。ユウナ嬢。ユウナ嬢と名でお呼びしてもよろしいですか?」
その有無を言わせぬ空気にユウナはこくりと頷くことしかできなかった。
「あら、お兄様。女子会に男子が入ってくるなんて無粋ですわよ」
「すまないね、ロゼット。ユウナ嬢がいらしていると聞いて、こちらが挨拶をしたいというものだから」
ログスの後ろから現れたのは、兄のノアにも負けず劣らずの美しい男性だ。
身なりからして貴族だろうが、ユウナは知らぬ顔だった。
けれど、ロゼットは驚いたように立ち上がり、淑女らしく品のいい礼をする。
それを見て、目の前の彼がかなり高位の貴族であると察したユウナも、慌てて礼をする。
「お二人とも普通にしてください。頭を下げなければならないのはこちらの方だ。突然来訪した無礼をお許しいただけないだろうか」
そう言って頭を下げる美麗な男性に、ロゼットは慌てる。
「とんでもございませんわ、アールス様。我が家へようこそおいでくださいました」
アールス。
その名を聞いてユウナに心当たりがあったのは一つだけ。
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笑わない冷徹な仕事人間という噂で、氷の貴公子と陰で呼ばれているらしい。
相手が公爵家の者ならば、伯爵令嬢であるロゼットが焦るはずである。
「それにしてもアールス様がなぜこちらへ? 兄と親交があるとは初めて知りましたわ」
ロゼットが兄なログスへ視線を向けると、動揺がこちらまで伝わってきた。
「あ、えーと、それはその……」
「最近仲良くなったんですよ。ねぇ、ログス?」
「そ、そうです!」
まるで首振り人形のようにこくこく頷くログスと、うっすら笑みを浮かべるキルク。
なにか違和感が。
仲良しというわりに、なんだか二人には距離を感じるような気がする。
「怪しい……」
ロゼットもユウナと同じことを思ったのか、胡乱げな眼差しを向ける。
それを振り払うようにログスはユウナを名指しした。
「いいからお前は黙ってなさい。用事があるのはユウナ嬢なんだから」
「ユウナになにか用ですの?」
「私がお会いしたかったのですよ」
キルクがログスを押しのけるようにして前へ出てくると、ユウナの手を取り、手の甲にキスを落とした。
「はじめまして、キルク・アールスです」
「ご丁寧にありがとうございます。私は……」
「存じ上げております。ユウナ嬢。ユウナ嬢と名でお呼びしてもよろしいですか?」
その有無を言わせぬ空気にユウナはこくりと頷くことしかできなかった。
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