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お説教
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場所をノアの部屋に移して話し合いを始める。
ノアの手には先程の契約書が。
「……一応ちゃんとした契約内容にはなっている。あちらが有責の場合だけでなく、こちらが有責の場合の慰謝料のことも書かれているようだね。渡す金額にかなりの差があるが、クエンティン商会がこれに納得してサインしたなら向こうの責任だ。何も問題はない。……問題は」
ノアはユウナをひたりと見つめる。
その心の中を見通すような眼差しに、ユウナは目を背けたくなった。
「クエンティン商会のジュードの噂は俺でも知っている。問題ありな馬鹿息子だ。そんなジュードと婚約したのは納得した。お互いに約束をして証文を交わしたなら守らなければならない。商人は信用が第一だからね。けれど、どうして今も婚約しているんだい?」
ひやりとしたものがティアの背を駆け抜け、思わず口元が引き攣る。
「どうしてとは?」
「こんな不良物件、婚約したらとっとと破棄してしまえば良かっただろう? それなのにユウナは未だに馬鹿の婚約者で居続けている。どうしてだい?」
言葉遣いは優しげなのに、声色からノアが怒っているのを察することができる。
「えーと……」
父親に続き、今度尋問されるのはユウナだった。
先程までの父親の気持ちがよく分かる。
ノアは絶対に敵に回してはいけない相手だ。
「ユウナ?」
にこりと微笑むその目はまったく笑っていない。
これ以上口をつぐむのは得策ではないと、ユウナは観念した。
「兄様は隣国でも商売できるように、人脈を作るために隣国に留学しているわけでしょう?」
「そうだね」
ユウナの家の商会は、国内では最大規模を誇るが、隣国ではほとんどコネを持っていないのが実情だ。
ノアはそんな隣国でも店を出せるように動いている。
「クエンティン商会は隣国での販売経路も持ってて、たくさんのコネがあるから、ジュードと婚約していれば商会の役に立つんじゃないかなって思って……」
その瞬間、ノアから冷気が発せられた。
「ユウナ、それは兄様を信じていないってことかい?」
「ち、違う。そんなことない!」
「けれど、そういうことだろう? 俺の力が信用できないから、ユウナは自分を売ってまでコネを作ろうとしたわけだ」
「うう……」
そう言われてしまえば確かにそうなので、反論のしようがない。
「兄様は悲しいよ。最愛の妹に信用されてないなんて」
ノアは大袈裟に手で顔を覆って上を向いた。
「ご、ごめんなさい。でも、私も商会の娘だし、政略結婚は想定内のことだったから、ちょっとでも兄様に有利になるようにしたかったのよ。だって私が伯爵を継ぐことになったとしても、政略結婚になるだろうし。それなら家に少しでも益になる方が良いかと思って」
しゅんとするユウナに。ノアは深い溜息を吐いた。
「馬鹿なことをしたね」
「それは反省してる。……まあ、婚約のことは今日限界を突破したから破棄するつもりだったんだけど」
「何があったんだい?」
ユウナは、今日あったことだけでなく、これまでのことを詳細にノアに説明した。
ノアの手には先程の契約書が。
「……一応ちゃんとした契約内容にはなっている。あちらが有責の場合だけでなく、こちらが有責の場合の慰謝料のことも書かれているようだね。渡す金額にかなりの差があるが、クエンティン商会がこれに納得してサインしたなら向こうの責任だ。何も問題はない。……問題は」
ノアはユウナをひたりと見つめる。
その心の中を見通すような眼差しに、ユウナは目を背けたくなった。
「クエンティン商会のジュードの噂は俺でも知っている。問題ありな馬鹿息子だ。そんなジュードと婚約したのは納得した。お互いに約束をして証文を交わしたなら守らなければならない。商人は信用が第一だからね。けれど、どうして今も婚約しているんだい?」
ひやりとしたものがティアの背を駆け抜け、思わず口元が引き攣る。
「どうしてとは?」
「こんな不良物件、婚約したらとっとと破棄してしまえば良かっただろう? それなのにユウナは未だに馬鹿の婚約者で居続けている。どうしてだい?」
言葉遣いは優しげなのに、声色からノアが怒っているのを察することができる。
「えーと……」
父親に続き、今度尋問されるのはユウナだった。
先程までの父親の気持ちがよく分かる。
ノアは絶対に敵に回してはいけない相手だ。
「ユウナ?」
にこりと微笑むその目はまったく笑っていない。
これ以上口をつぐむのは得策ではないと、ユウナは観念した。
「兄様は隣国でも商売できるように、人脈を作るために隣国に留学しているわけでしょう?」
「そうだね」
ユウナの家の商会は、国内では最大規模を誇るが、隣国ではほとんどコネを持っていないのが実情だ。
ノアはそんな隣国でも店を出せるように動いている。
「クエンティン商会は隣国での販売経路も持ってて、たくさんのコネがあるから、ジュードと婚約していれば商会の役に立つんじゃないかなって思って……」
その瞬間、ノアから冷気が発せられた。
「ユウナ、それは兄様を信じていないってことかい?」
「ち、違う。そんなことない!」
「けれど、そういうことだろう? 俺の力が信用できないから、ユウナは自分を売ってまでコネを作ろうとしたわけだ」
「うう……」
そう言われてしまえば確かにそうなので、反論のしようがない。
「兄様は悲しいよ。最愛の妹に信用されてないなんて」
ノアは大袈裟に手で顔を覆って上を向いた。
「ご、ごめんなさい。でも、私も商会の娘だし、政略結婚は想定内のことだったから、ちょっとでも兄様に有利になるようにしたかったのよ。だって私が伯爵を継ぐことになったとしても、政略結婚になるだろうし。それなら家に少しでも益になる方が良いかと思って」
しゅんとするユウナに。ノアは深い溜息を吐いた。
「馬鹿なことをしたね」
「それは反省してる。……まあ、婚約のことは今日限界を突破したから破棄するつもりだったんだけど」
「何があったんだい?」
ユウナは、今日あったことだけでなく、これまでのことを詳細にノアに説明した。
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