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 そのまま二人でぶらぶらと通りを歩いていたが、いきなり重いものを食べさせられたせいで胃が痛い。
 リチャードは速足なのでついていくのも疲れるし、足が痛くなってきた。
 しばらくすると。

「飲み物買ってくるからちょっと待ってて」

「はい」

 リチャードがそう言ってその場から離れた。
 ようやく少し休める……アルマがそう思ってほっとしたのもつかの間、今度はリチャードが全然帰ってこない。

(どこに行ったのかしら……事故か事件があったというにしては静かだし……)

 あんまり彼が戻ってこないので、置いて行かれたのだろうかと判断して、もう帰ろうかと思っていたところに、ようやくリチャードが帰ってきた。

「リチャード様、遅かったですね」

 ほっとするようなむっとするような不思議な感情を押さえて、彼を迎えたがリチャードはなんとなく不機嫌そうだ。

「射的やってたの見かけたから、少しやってきてたんだよ。難しいね」

 様子から察すると、どうやら何気なく始めた射的が上手くいかず、もう一回、もう一回と繰り返していたようだ。

 人を待たせて自分は遊んでいたということだろうか。

 彼は思い出したように「はい、飲み物」とコップを渡してきた。飲み物を買って遊ぶ間、置き去りにされていたのだろうか。冷たい飲み物だったはずのそれが、もう温くなってしまっている。

 元々飲み物を飲みたいと思っていなかったアルマは、それを持て余してしまうが、とてもいい笑顔を向けられ、気をきかせて買ってきた俺を褒めて? と言わんばかりの何かを期待するような目をしている。
 
 頑張っているリチャードのプライドを尊重したかったのはあったのだが、買ってこられたものを見て、アルマはそれをリチャードに返した。
 
「リチャード様、とてもありがたいのですが、私、こちらを飲めそうにありません……」

「遠慮しないでいいんだよ?」

「遠慮ではなくて」

「なんで飲めないの? さっきもあまり食べてなかったし、君、好き嫌い多くない?」

 好き嫌いで飲めないということにされている。アルマはため息をついた。
 中のものは果実水だった。とある果実に対してアレルギーがあり、どんなものが入っているかわからないものをアルマは口にできないのだ。
 先ほどの店のように、シンプルな食材の場合なら大丈夫だし、このように作った人に自分で直接確認できないものは口にできない。

 いくらすすめられたとしても食べられないのは生まれつきの胃袋の大きさが違うということを理解してくれていないような相手に、アレルギーのことを訴えても、きっと配慮してもらえないだろう。

 ガンとして口をつけずにいたら、リチャードは子供のように膨れて口を利いてくれなくなった。

 アルマは飲み物を持ったまま彼の後を歩いていく。

 これくらいのことにヘソを曲げられてしまう幼稚さに呆れかえり、「そろそろ失礼します」と声をかければ、彼は無言で不機嫌アピールをしながらも家まで送ってくれた。

 本当はこのまま別れて一人になりたかった。侍女もつけていない貴族令嬢の一人歩きも問題だが、その方が気分的にだいぶマシだったから。

 しかし相手は兄の友人ということで家を知られていたのが運の尽きだった。
 無言のまま家まで送られ、家の門で別れ、ああ、ようやく終わった、やれやれ、と思っていれば。
 

「今度の休みに迎えにくるから」となれなれしく髪を撫でられて、全身の鳥肌が立った。
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