2 / 4
2
しおりを挟む
そのまま二人でぶらぶらと通りを歩いていたが、いきなり重いものを食べさせられたせいで胃が痛い。
リチャードは速足なのでついていくのも疲れるし、足が痛くなってきた。
しばらくすると。
「飲み物買ってくるからちょっと待ってて」
「はい」
リチャードがそう言ってその場から離れた。
ようやく少し休める……アルマがそう思ってほっとしたのもつかの間、今度はリチャードが全然帰ってこない。
(どこに行ったのかしら……事故か事件があったというにしては静かだし……)
あんまり彼が戻ってこないので、置いて行かれたのだろうかと判断して、もう帰ろうかと思っていたところに、ようやくリチャードが帰ってきた。
「リチャード様、遅かったですね」
ほっとするようなむっとするような不思議な感情を押さえて、彼を迎えたがリチャードはなんとなく不機嫌そうだ。
「射的やってたの見かけたから、少しやってきてたんだよ。難しいね」
様子から察すると、どうやら何気なく始めた射的が上手くいかず、もう一回、もう一回と繰り返していたようだ。
人を待たせて自分は遊んでいたということだろうか。
彼は思い出したように「はい、飲み物」とコップを渡してきた。飲み物を買って遊ぶ間、置き去りにされていたのだろうか。冷たい飲み物だったはずのそれが、もう温くなってしまっている。
元々飲み物を飲みたいと思っていなかったアルマは、それを持て余してしまうが、とてもいい笑顔を向けられ、気をきかせて買ってきた俺を褒めて? と言わんばかりの何かを期待するような目をしている。
頑張っているリチャードのプライドを尊重したかったのはあったのだが、買ってこられたものを見て、アルマはそれをリチャードに返した。
「リチャード様、とてもありがたいのですが、私、こちらを飲めそうにありません……」
「遠慮しないでいいんだよ?」
「遠慮ではなくて」
「なんで飲めないの? さっきもあまり食べてなかったし、君、好き嫌い多くない?」
好き嫌いで飲めないということにされている。アルマはため息をついた。
中のものは果実水だった。とある果実に対してアレルギーがあり、どんなものが入っているかわからないものをアルマは口にできないのだ。
先ほどの店のように、シンプルな食材の場合なら大丈夫だし、このように作った人に自分で直接確認できないものは口にできない。
いくらすすめられたとしても食べられないのは生まれつきの胃袋の大きさが違うということを理解してくれていないような相手に、アレルギーのことを訴えても、きっと配慮してもらえないだろう。
ガンとして口をつけずにいたら、リチャードは子供のように膨れて口を利いてくれなくなった。
アルマは飲み物を持ったまま彼の後を歩いていく。
これくらいのことにヘソを曲げられてしまう幼稚さに呆れかえり、「そろそろ失礼します」と声をかければ、彼は無言で不機嫌アピールをしながらも家まで送ってくれた。
本当はこのまま別れて一人になりたかった。侍女もつけていない貴族令嬢の一人歩きも問題だが、その方が気分的にだいぶマシだったから。
しかし相手は兄の友人ということで家を知られていたのが運の尽きだった。
無言のまま家まで送られ、家の門で別れ、ああ、ようやく終わった、やれやれ、と思っていれば。
「今度の休みに迎えにくるから」となれなれしく髪を撫でられて、全身の鳥肌が立った。
リチャードは速足なのでついていくのも疲れるし、足が痛くなってきた。
しばらくすると。
「飲み物買ってくるからちょっと待ってて」
「はい」
リチャードがそう言ってその場から離れた。
ようやく少し休める……アルマがそう思ってほっとしたのもつかの間、今度はリチャードが全然帰ってこない。
(どこに行ったのかしら……事故か事件があったというにしては静かだし……)
あんまり彼が戻ってこないので、置いて行かれたのだろうかと判断して、もう帰ろうかと思っていたところに、ようやくリチャードが帰ってきた。
「リチャード様、遅かったですね」
ほっとするようなむっとするような不思議な感情を押さえて、彼を迎えたがリチャードはなんとなく不機嫌そうだ。
「射的やってたの見かけたから、少しやってきてたんだよ。難しいね」
様子から察すると、どうやら何気なく始めた射的が上手くいかず、もう一回、もう一回と繰り返していたようだ。
人を待たせて自分は遊んでいたということだろうか。
彼は思い出したように「はい、飲み物」とコップを渡してきた。飲み物を買って遊ぶ間、置き去りにされていたのだろうか。冷たい飲み物だったはずのそれが、もう温くなってしまっている。
元々飲み物を飲みたいと思っていなかったアルマは、それを持て余してしまうが、とてもいい笑顔を向けられ、気をきかせて買ってきた俺を褒めて? と言わんばかりの何かを期待するような目をしている。
頑張っているリチャードのプライドを尊重したかったのはあったのだが、買ってこられたものを見て、アルマはそれをリチャードに返した。
「リチャード様、とてもありがたいのですが、私、こちらを飲めそうにありません……」
「遠慮しないでいいんだよ?」
「遠慮ではなくて」
「なんで飲めないの? さっきもあまり食べてなかったし、君、好き嫌い多くない?」
好き嫌いで飲めないということにされている。アルマはため息をついた。
中のものは果実水だった。とある果実に対してアレルギーがあり、どんなものが入っているかわからないものをアルマは口にできないのだ。
先ほどの店のように、シンプルな食材の場合なら大丈夫だし、このように作った人に自分で直接確認できないものは口にできない。
いくらすすめられたとしても食べられないのは生まれつきの胃袋の大きさが違うということを理解してくれていないような相手に、アレルギーのことを訴えても、きっと配慮してもらえないだろう。
ガンとして口をつけずにいたら、リチャードは子供のように膨れて口を利いてくれなくなった。
アルマは飲み物を持ったまま彼の後を歩いていく。
これくらいのことにヘソを曲げられてしまう幼稚さに呆れかえり、「そろそろ失礼します」と声をかければ、彼は無言で不機嫌アピールをしながらも家まで送ってくれた。
本当はこのまま別れて一人になりたかった。侍女もつけていない貴族令嬢の一人歩きも問題だが、その方が気分的にだいぶマシだったから。
しかし相手は兄の友人ということで家を知られていたのが運の尽きだった。
無言のまま家まで送られ、家の門で別れ、ああ、ようやく終わった、やれやれ、と思っていれば。
「今度の休みに迎えにくるから」となれなれしく髪を撫でられて、全身の鳥肌が立った。
1
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
水鳥楓椛
恋愛
わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。
なんでそんなことが分かるかって?
それはわたくしに前世の記憶があるから。
婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?
でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。
だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。
さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる