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「もしかしてこの鳥はお嬢様のことが好きなどなたかの贈り物でしょうか?」
「となるとジュピター様?」
「待って、なんでそこでジュピターの名前が出てくるのよ」
侍女たちの推理に聞き捨てならない名前が出てきてリエルの頬が染まる。
ジュピターは騎士見習いの幼なじみだ。
リエルが彼のことを憎からず思っているようなのは、うすうす侍女たちも気づいているので、微笑ましそうにそんなリエルのことを見ていた。
「ジュピターなら直接私に鳥を渡せばいいのよ」
「言われてみればそうですね」
「とりあえず、周囲にオウムを預かっていることを告知しましょう。迷い鳥のポスターを作って貼ればいいかしら」
あれこれとオウムの世話をしながらも、迷子のオウムの情報を集めるが、不思議と飼い主と名乗り出る人が顕れなかった。
しかし、リエルはあえてオウムに名前を付けることはしないでいた。いつかここから去るだろうに、名前をつけたら愛着がわいて離れがたくなってしまうから。
家にオウムがいることで、変わったことといえば、小さな動物がいるということで気がまぎれるのか、母親が少し嬉しそうであることだ。
オウムの様子を見に来ては、言葉を教えようとして楽しそうなのはよかったとリエルは思っていた。
オウムがタウコート家に来てから一か月ほど経った頃だろうか。
リエルは唐突に父親に呼び出された。自分を呼びにきた侍女の様子では、父の機嫌は良くなかったそうだ。
怒られるようなことはしていないはずなのにどうしたのだろう、と不思議に思いながら父の部屋に行くと、なぜかしかめっ面をしている父がいた。
「リエル……どうしてこんな大事なことを親にも黙っていたんだ」
「はい?」
「イシュタール卿のご子息のことだよ。お付き合いしているんだろう? お前はジュピターと仲がいいと思っていたんだが、相手は隠れてお付き合いするような身分の方ではないんだ。もっと早く言っておいてほしかったぞ。私たちの立場だってあるんだから」
何の話だろう。そもそもイシュタール卿とは誰の事だろうか。
父親がなんの話をしているかわからず、リエルは目をしばたたかせていた。
「私、誰ともお付き合いなんてしておりませんが……お父様、いったいどうされたのですか?」
「なんだって?」
父親はいぶかしげな顔をしたまま一通の封筒をリエルの前に差し出した。
「昨日、結婚の申し入れの正式な書状が届いたんだ。イシュタール伯爵から息子のマーキュリー殿のお相手にお前を、と」
「縁組?! しかも伯爵家の令息?! 何かの間違いでしょう!?」
「どういうことだ? お前とマーキュリー殿はもう将来を誓い合った仲で、先方は二人の仲を認めているとあったぞ? だから私の反対を恐れて勝手にお前たちが口約束してたのかと……」
「それどころか、お会いしたことだってありませんよ、その方に!」
どういうことだろう、とお互いの顔を見合わせてしまった。
「お前を誰かと間違えていたのだろうか」
「そうとしか思えないですよ」
リエルはきっぱりと言い切った。本当に身に覚えなんかないのだから。
「しかし、面倒なことになったな……相手は伯爵家だし、断ることなんてできないだろうから、と伝令にお受けする意思を伝えてしまったんだ。略式とはいえ婚約が調ったことになったかもしれない」
「お父様! なんてことを」
貴族の言葉は重い。たとえそれが口約束だとしても、それは紙に書かれた誓約書と同じレベルで効力を発揮することがある。
証拠がないと言っても通用しないのだ。
なぜなら伝令に使われた人物は、伯爵家の家臣などではなく、きっと中立の存在を選んで頼んでいるだろうから。だからこそ、その言葉の信頼性は上がってしまうのだ。
「いや、とりあえず先方に確認をすることにしよう。何かの間違いなのだろうから」
頭痛をこらえるような顔をしてタウコート男爵はそう言ったが、リエルは不安を隠せないままだった。
「となるとジュピター様?」
「待って、なんでそこでジュピターの名前が出てくるのよ」
侍女たちの推理に聞き捨てならない名前が出てきてリエルの頬が染まる。
ジュピターは騎士見習いの幼なじみだ。
リエルが彼のことを憎からず思っているようなのは、うすうす侍女たちも気づいているので、微笑ましそうにそんなリエルのことを見ていた。
「ジュピターなら直接私に鳥を渡せばいいのよ」
「言われてみればそうですね」
「とりあえず、周囲にオウムを預かっていることを告知しましょう。迷い鳥のポスターを作って貼ればいいかしら」
あれこれとオウムの世話をしながらも、迷子のオウムの情報を集めるが、不思議と飼い主と名乗り出る人が顕れなかった。
しかし、リエルはあえてオウムに名前を付けることはしないでいた。いつかここから去るだろうに、名前をつけたら愛着がわいて離れがたくなってしまうから。
家にオウムがいることで、変わったことといえば、小さな動物がいるということで気がまぎれるのか、母親が少し嬉しそうであることだ。
オウムの様子を見に来ては、言葉を教えようとして楽しそうなのはよかったとリエルは思っていた。
オウムがタウコート家に来てから一か月ほど経った頃だろうか。
リエルは唐突に父親に呼び出された。自分を呼びにきた侍女の様子では、父の機嫌は良くなかったそうだ。
怒られるようなことはしていないはずなのにどうしたのだろう、と不思議に思いながら父の部屋に行くと、なぜかしかめっ面をしている父がいた。
「リエル……どうしてこんな大事なことを親にも黙っていたんだ」
「はい?」
「イシュタール卿のご子息のことだよ。お付き合いしているんだろう? お前はジュピターと仲がいいと思っていたんだが、相手は隠れてお付き合いするような身分の方ではないんだ。もっと早く言っておいてほしかったぞ。私たちの立場だってあるんだから」
何の話だろう。そもそもイシュタール卿とは誰の事だろうか。
父親がなんの話をしているかわからず、リエルは目をしばたたかせていた。
「私、誰ともお付き合いなんてしておりませんが……お父様、いったいどうされたのですか?」
「なんだって?」
父親はいぶかしげな顔をしたまま一通の封筒をリエルの前に差し出した。
「昨日、結婚の申し入れの正式な書状が届いたんだ。イシュタール伯爵から息子のマーキュリー殿のお相手にお前を、と」
「縁組?! しかも伯爵家の令息?! 何かの間違いでしょう!?」
「どういうことだ? お前とマーキュリー殿はもう将来を誓い合った仲で、先方は二人の仲を認めているとあったぞ? だから私の反対を恐れて勝手にお前たちが口約束してたのかと……」
「それどころか、お会いしたことだってありませんよ、その方に!」
どういうことだろう、とお互いの顔を見合わせてしまった。
「お前を誰かと間違えていたのだろうか」
「そうとしか思えないですよ」
リエルはきっぱりと言い切った。本当に身に覚えなんかないのだから。
「しかし、面倒なことになったな……相手は伯爵家だし、断ることなんてできないだろうから、と伝令にお受けする意思を伝えてしまったんだ。略式とはいえ婚約が調ったことになったかもしれない」
「お父様! なんてことを」
貴族の言葉は重い。たとえそれが口約束だとしても、それは紙に書かれた誓約書と同じレベルで効力を発揮することがある。
証拠がないと言っても通用しないのだ。
なぜなら伝令に使われた人物は、伯爵家の家臣などではなく、きっと中立の存在を選んで頼んでいるだろうから。だからこそ、その言葉の信頼性は上がってしまうのだ。
「いや、とりあえず先方に確認をすることにしよう。何かの間違いなのだろうから」
頭痛をこらえるような顔をしてタウコート男爵はそう言ったが、リエルは不安を隠せないままだった。
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