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ラスター伯爵のエルヴィへの婚約の申し入れ話はすぐに館中に知れ渡った。それを聞いたモリーは憤慨していた。
「お姉さま、ひどい! ラスター伯爵は私を好きになってお手紙をくれたのに! よくも横取りしたわね! しかも私に内緒で文通してたってどういうこと!? 勝手に人からきた手紙に返事を出したのね!」
物を壁に投げつけて怒りをあらわにするモリー。
危ないということと、落ち着かせるために彼女の部屋を出たエルヴィに一人の侍女が声をかけた。
それは、この家の郵便物を管理している者だ。
「あの……」
先程のお話を小耳にはさんだんですが、と彼女は小声で話しかけてくる。
「モリーお嬢様はラスター伯爵からお手紙をいただいたことはないはずです。ラスター伯爵様が当家に最初にお手紙をくださった時も、いただいた宛名はエルヴィ様でした……」
「どういうこと?」
「私が受け取って、エルヴィ様にお渡ししようとしたら、モリー様がそれをお姉さまにお渡しすると奪われて……」
エルヴィは目を見張る。あの最初の手紙はエルヴィがもらったものだったというのか。
エルヴィはそのままモリーの部屋の中に飛び込んだ。
「モリー! 貴方、私の手紙を奪ったの?!」
それまで物に八つ当たりしていたモリーはそれを聴くとぴたっと動きを止めた。
「あら、ばれちゃったの?」
あっけらかん、と言うと、手にしていた枕をベッドの上に投げ出した。
「奪ったなんて人聞き悪いこといわないで? 伯爵様とお姉さまなんて歳も離れているし、お姉さまにふさわしくないわよ。だから、別れさせてあげようと思って」
「お父様が縁をつなげっておっしゃってたのは……」
「ああ、それは本当よ。でもお父様がおっしゃる縁なんて、どうなるかわからないじゃない。実際お父様と本当のお母さまだって離婚されているのに」
「そういう意味ではないわよ! 面識を得て仲良くなれということじゃない。なのに私にきた手紙……ううん、目上の貴族から来た手紙を奪って勝手にやりとりを止めさせようなんて……貴方がしたことはいたずらで済むレベルのものではないのよ!?」
「え?」
血の繋がらない姉の怒り具合に、モリーは戸惑ったような顔を見せている。
「招待状を盗んだり、花嫁を取り違えて差し出すなんてことはお話の世界ではよくあるかもしれないけれど、貴族社会でそんなことをしたら、欺瞞行為として訴えられて、家門ごと社交界から追放されてもおかしくないわ」
「まさか……お姉さまったら大げさなんだから」
モリーは肩を竦めて、どうでもよさそうに顔をそむけた。ことの重要性を理解していないのだろう。
たまたま手紙をエルヴィが代筆していたから、ラスター伯爵からしたら、変なことを言っている子だなぁ、くらいで済ませてもらえたのだろう。
一番最初にラスター伯爵から来た返事に書かれていた言葉からすると。
「エルヴィは字を書くのが苦手で、いつも字が綺麗な妹のモリーに手紙を書いてもらっているのだけれど、今回は妹が病気で、エルヴィ本人が書かざるを得なかった」と受け止められていたのだろう。それに対するラスター伯爵の言葉は「貴方の字は十分綺麗だから、代筆を頼む必要なんてないですよ」という慰めだったのだ。
花束も病気と嘘をついたお見舞いにモリーについでに贈ったのであって、本来はエルヴィのために贈られたものだったのだろう。
すれ違う言葉が偶然噛み合って、その先に文通が続いたからよかったようなものの、平民に毛が生えた程度の男爵家が伯爵家を小馬鹿にするような態度をとるところだった。
しかも、モリーはエルヴィ宛の手紙を無視して捨ておくつもりだったのだろう。
伯爵本人からいただいた手紙を無視して、相手に悪印象など持たれていたら、父の立場にも関わることだし、この先、エルヴィだけでなくモリー自身の結婚にも関わるところだったのに。
「お姉さま、ひどい! ラスター伯爵は私を好きになってお手紙をくれたのに! よくも横取りしたわね! しかも私に内緒で文通してたってどういうこと!? 勝手に人からきた手紙に返事を出したのね!」
物を壁に投げつけて怒りをあらわにするモリー。
危ないということと、落ち着かせるために彼女の部屋を出たエルヴィに一人の侍女が声をかけた。
それは、この家の郵便物を管理している者だ。
「あの……」
先程のお話を小耳にはさんだんですが、と彼女は小声で話しかけてくる。
「モリーお嬢様はラスター伯爵からお手紙をいただいたことはないはずです。ラスター伯爵様が当家に最初にお手紙をくださった時も、いただいた宛名はエルヴィ様でした……」
「どういうこと?」
「私が受け取って、エルヴィ様にお渡ししようとしたら、モリー様がそれをお姉さまにお渡しすると奪われて……」
エルヴィは目を見張る。あの最初の手紙はエルヴィがもらったものだったというのか。
エルヴィはそのままモリーの部屋の中に飛び込んだ。
「モリー! 貴方、私の手紙を奪ったの?!」
それまで物に八つ当たりしていたモリーはそれを聴くとぴたっと動きを止めた。
「あら、ばれちゃったの?」
あっけらかん、と言うと、手にしていた枕をベッドの上に投げ出した。
「奪ったなんて人聞き悪いこといわないで? 伯爵様とお姉さまなんて歳も離れているし、お姉さまにふさわしくないわよ。だから、別れさせてあげようと思って」
「お父様が縁をつなげっておっしゃってたのは……」
「ああ、それは本当よ。でもお父様がおっしゃる縁なんて、どうなるかわからないじゃない。実際お父様と本当のお母さまだって離婚されているのに」
「そういう意味ではないわよ! 面識を得て仲良くなれということじゃない。なのに私にきた手紙……ううん、目上の貴族から来た手紙を奪って勝手にやりとりを止めさせようなんて……貴方がしたことはいたずらで済むレベルのものではないのよ!?」
「え?」
血の繋がらない姉の怒り具合に、モリーは戸惑ったような顔を見せている。
「招待状を盗んだり、花嫁を取り違えて差し出すなんてことはお話の世界ではよくあるかもしれないけれど、貴族社会でそんなことをしたら、欺瞞行為として訴えられて、家門ごと社交界から追放されてもおかしくないわ」
「まさか……お姉さまったら大げさなんだから」
モリーは肩を竦めて、どうでもよさそうに顔をそむけた。ことの重要性を理解していないのだろう。
たまたま手紙をエルヴィが代筆していたから、ラスター伯爵からしたら、変なことを言っている子だなぁ、くらいで済ませてもらえたのだろう。
一番最初にラスター伯爵から来た返事に書かれていた言葉からすると。
「エルヴィは字を書くのが苦手で、いつも字が綺麗な妹のモリーに手紙を書いてもらっているのだけれど、今回は妹が病気で、エルヴィ本人が書かざるを得なかった」と受け止められていたのだろう。それに対するラスター伯爵の言葉は「貴方の字は十分綺麗だから、代筆を頼む必要なんてないですよ」という慰めだったのだ。
花束も病気と嘘をついたお見舞いにモリーについでに贈ったのであって、本来はエルヴィのために贈られたものだったのだろう。
すれ違う言葉が偶然噛み合って、その先に文通が続いたからよかったようなものの、平民に毛が生えた程度の男爵家が伯爵家を小馬鹿にするような態度をとるところだった。
しかも、モリーはエルヴィ宛の手紙を無視して捨ておくつもりだったのだろう。
伯爵本人からいただいた手紙を無視して、相手に悪印象など持たれていたら、父の立場にも関わることだし、この先、エルヴィだけでなくモリー自身の結婚にも関わるところだったのに。
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