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「元々、夫とは父の命令で結婚しただけでした。それでも結婚したら思いやりある家庭を作ろうと思っていたんですが……結婚したら、なおさら夫は冷たくなる一方で。そんな中、夫の事業も失敗してしまい、金銭的に行き詰まるようになりました」
ミュゼーは黙ったままアイラの話を聞いている。静かに話を聞いているミュゼーに背中を押されたように、アイラはそのまま事情を話していく。
「私も働くようになって、家を空けがちになったような頃からです。夫が家に戻ってこなくなったのは。女を外に作ったようです。戻ってきたとしても、私が止めようとすると殴られて……女として魅力がないお前なんかより、あっちの方がいい、と……」
「なるほどね。それで、貴方の望みはなにかしら? 貴方の家庭は破綻しているようだけれど……離婚でも求める?」
貴族で離婚するのはなかなか面倒くさいことだ。このような状況でも、男性優位の原則が働くので男が認めないと離婚が成立しない。
もっともミュゼーのように夫が亡くなっていれば別だが、殺すわけにもいかないだろうし、とミュゼーは当たり前のことを考えていた。
「……夫を取り返したい……私を女ではないと言った人間に、本当に大切なのは私だと思い知らせて、心から後悔させたい。そして、二度とそんな気が起きないように、私に縛り付けたい……」
うつろな目をして言うアイラに、ミュゼーは口を開いた。
「貴方、本当にそれでいいの? そんな男の愛を取り戻して、いつまた同じことになるかわからない状況に怯えて暮らすの?」
「でも、そう生きていくしかないんです、女は! いい夫を摑まえて、経済的に恵まれている貴方なんかに、私の気もちなんてわからない!」
「…………」
そうアイラは叫ぶと顔を覆って泣き始めた。
「私は女としての自分を取り戻したいの……」
「そう……それが貴方の今の考えなのね」
ミュゼーはアイラの手をとるとぎゅっと握る。その手は荒れ果て、とても貴族の夫人の手とは言えないものだ。
「とりあえず、やるだけやってみたらいいわ。私がスポンサーになってあげる」
ミュゼーの言葉に涙で汚れた顔のアイラが顔を上げる。その目は、ミュゼーが言っていることがわからないと言っているようだ。
「一年という期限付きで貴方ははうちで働きなさい。雇用契約書も作るし、給料もちゃんと払う。今の貴方の状況を私が救い上げてあげる。そして貴方が自分が思うように自分を磨くための金は私が個人として払ってあげるわ」
「どういうこと、ですか……?」
「貴方は夫を見返すというやりたいことがあるのでしょう? それならやってみなさい。お金だけの問題なら、お金があるところから出させればいいだけ。できるかできないかは別の話。動かなければ一生貴方はこのまま、負け犬よ?」
負け犬。その言葉を聞いて、アイラの迷うように揺れていた目にぐっと力が宿った。
「一年……いえ、そこまで経たないでも、貴方が旦那さんとの関係で、何か変化があったら私に教えてちょうだい。それ以外にも貴方の心境の変化が起きたというのなら、それも教えて。私がスポンサーとなっているのだから、それくらいの情報提供をしてもらってもいいでしょう?」
「はい、もちろんですが……でも、こんな話、貴方のように忙しい方にはつまらないのではないでしょうか?」
「そんなことないわよ?」
ミュゼーはにこりと笑う。
「女はね、この社会では常に弱い立場であるのよ。その弱い存在を応援するのも、また女の仕事であるの」
ミュゼーは黙ったままアイラの話を聞いている。静かに話を聞いているミュゼーに背中を押されたように、アイラはそのまま事情を話していく。
「私も働くようになって、家を空けがちになったような頃からです。夫が家に戻ってこなくなったのは。女を外に作ったようです。戻ってきたとしても、私が止めようとすると殴られて……女として魅力がないお前なんかより、あっちの方がいい、と……」
「なるほどね。それで、貴方の望みはなにかしら? 貴方の家庭は破綻しているようだけれど……離婚でも求める?」
貴族で離婚するのはなかなか面倒くさいことだ。このような状況でも、男性優位の原則が働くので男が認めないと離婚が成立しない。
もっともミュゼーのように夫が亡くなっていれば別だが、殺すわけにもいかないだろうし、とミュゼーは当たり前のことを考えていた。
「……夫を取り返したい……私を女ではないと言った人間に、本当に大切なのは私だと思い知らせて、心から後悔させたい。そして、二度とそんな気が起きないように、私に縛り付けたい……」
うつろな目をして言うアイラに、ミュゼーは口を開いた。
「貴方、本当にそれでいいの? そんな男の愛を取り戻して、いつまた同じことになるかわからない状況に怯えて暮らすの?」
「でも、そう生きていくしかないんです、女は! いい夫を摑まえて、経済的に恵まれている貴方なんかに、私の気もちなんてわからない!」
「…………」
そうアイラは叫ぶと顔を覆って泣き始めた。
「私は女としての自分を取り戻したいの……」
「そう……それが貴方の今の考えなのね」
ミュゼーはアイラの手をとるとぎゅっと握る。その手は荒れ果て、とても貴族の夫人の手とは言えないものだ。
「とりあえず、やるだけやってみたらいいわ。私がスポンサーになってあげる」
ミュゼーの言葉に涙で汚れた顔のアイラが顔を上げる。その目は、ミュゼーが言っていることがわからないと言っているようだ。
「一年という期限付きで貴方ははうちで働きなさい。雇用契約書も作るし、給料もちゃんと払う。今の貴方の状況を私が救い上げてあげる。そして貴方が自分が思うように自分を磨くための金は私が個人として払ってあげるわ」
「どういうこと、ですか……?」
「貴方は夫を見返すというやりたいことがあるのでしょう? それならやってみなさい。お金だけの問題なら、お金があるところから出させればいいだけ。できるかできないかは別の話。動かなければ一生貴方はこのまま、負け犬よ?」
負け犬。その言葉を聞いて、アイラの迷うように揺れていた目にぐっと力が宿った。
「一年……いえ、そこまで経たないでも、貴方が旦那さんとの関係で、何か変化があったら私に教えてちょうだい。それ以外にも貴方の心境の変化が起きたというのなら、それも教えて。私がスポンサーとなっているのだから、それくらいの情報提供をしてもらってもいいでしょう?」
「はい、もちろんですが……でも、こんな話、貴方のように忙しい方にはつまらないのではないでしょうか?」
「そんなことないわよ?」
ミュゼーはにこりと笑う。
「女はね、この社会では常に弱い立場であるのよ。その弱い存在を応援するのも、また女の仕事であるの」
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