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トリシャ……のんきな性格の伯爵家の令嬢。魔法を扱うのが得意
マリエール……高位貴族の娘。我儘で自分の思い通りにならないと気が済まない性格
* * *
トリシャとマリエールは仲が良い友人同士、とみられていた。
マリエールは自分の思う通りにならないと癇癪を起こす娘だったが、トリシャはそのマリエールのワガママさが気にならないおっとりとした性格だったからだ。
いくらワガママにふるまっても自分を見捨てないトリシャにマリエールは執着し、彼女の友人らを追い払うようになった。
マリエールを嫌うトリシャの友人は、次第にトリシャから離れていき。自然とトリシャの交友関係は狭くなって行ってしまった。
マリエールの口癖は「私たち、友達よね!」だった。
そう言って、自分の思い通りにトリシャを動かそうとしてくる。
それを言われると、お友達は大事にしましょう、と言われて育っているトリシャはマリエールが望むなら、と望みをかなえていた。
(別にお友達って言わなくてもしてあげるんだけどなぁ)
マリエールは自分の思い通りにトリシャを動かしていること自体に満足をしている部分が大きかったのだが、トリシャは元々、こだわらない性格だったので「別にいいか」とマリエールを甘やかしていた。
周囲からすれば、女王様と下僕のようで「トリシャはよくマリエールと付き合っているなぁ」とトリシャを心配する人もいたのだが、トリシャ自身は取り立ててなんとも思っていなかった。
世界がそのように二人で完結しているうちはまだよかった。
そのうち二人が大人になっていけば、そんな関係性も変わってくる。
「私、好きな人がいるの。友達だから協力してくれるわよね?」
「それは構わないけれど、好きな人って誰?」
「王太子殿下よ!」
マリエールは王太子妃となることを夢見るようになっていた。
この国では聖なる樹の元で将来結ばれる予定の二人が落ち合うと、木が光るという伝説があった。
その伝承が有名になりすぎて、聖なる樹の根本が踏み固められてしまって木が弱ったので、入れる人には制限がつけられる始末だったが。
マリーエルはたまたま視察で王太子殿下がその聖なる樹の近くまでいらっしゃるという話をきいたらしい。
そして貴族の娘という立場を利用して、マリーエルがその接待を申しつかったというわけで。
「王太子殿下がいらした時がチャンスよ。貴方は魔法が得意でしょ? 私と殿下が木の下を通り過ぎた瞬間、聖なる樹の一面に光を放ってちょうだい。そうすれば、私と王太子殿下で伝説が成立するわ」
「それって伝説が成就したことになるの?」
「貴方は黙って言うことを聞いてればいいのよ!」
(そういうものなのかしら?)
納得がいかないまま、マリエールに押し切られる形で、トリシャは引き受けることとなった。
そして数日後、王太子が聖なる樹の元に来た。
マリエールが視察に訪れた王太子一行を案内しているのを木の陰からトリシャは見てタイミングを見計らっていた。
聖なる樹はとても大きな木だ。
大人が10人くらい手をつながないと木の周りを一周できないだろう。
あらかじめ木の陰にトリシャが隠れていれば、わからない。
ここに忍び込むことすら難しかったので、リハーサルもできずの本番一発勝負である。
王太子が聖なる樹に差し掛かる頃、マリエールが意図的にゆっくり歩きだした。
そのタイミングで、トリシャは手の中に光魔法を作り出した。しかし。
「あ……」
魔力が聖なる樹に吸われてしまって光らせるのが難しい。
トリシャは懸命になって少しでも光らせようとした。
額に汗を浮かべ、必死にもてる限りの魔力を注ぎ続けていく。その結果。
「!」
聖なる樹は光った。光ってくれた。
そして、王太子殿下も光っている。
驚いて自分の身体を見つめる王太子に、その護衛も思いがけないことに慌てふためいている。
(えええ!? どういうことなの!?)
しかし――どう見ても、王太子殿下と光っているのはトリシャだった。
マリエール……高位貴族の娘。我儘で自分の思い通りにならないと気が済まない性格
* * *
トリシャとマリエールは仲が良い友人同士、とみられていた。
マリエールは自分の思う通りにならないと癇癪を起こす娘だったが、トリシャはそのマリエールのワガママさが気にならないおっとりとした性格だったからだ。
いくらワガママにふるまっても自分を見捨てないトリシャにマリエールは執着し、彼女の友人らを追い払うようになった。
マリエールを嫌うトリシャの友人は、次第にトリシャから離れていき。自然とトリシャの交友関係は狭くなって行ってしまった。
マリエールの口癖は「私たち、友達よね!」だった。
そう言って、自分の思い通りにトリシャを動かそうとしてくる。
それを言われると、お友達は大事にしましょう、と言われて育っているトリシャはマリエールが望むなら、と望みをかなえていた。
(別にお友達って言わなくてもしてあげるんだけどなぁ)
マリエールは自分の思い通りにトリシャを動かしていること自体に満足をしている部分が大きかったのだが、トリシャは元々、こだわらない性格だったので「別にいいか」とマリエールを甘やかしていた。
周囲からすれば、女王様と下僕のようで「トリシャはよくマリエールと付き合っているなぁ」とトリシャを心配する人もいたのだが、トリシャ自身は取り立ててなんとも思っていなかった。
世界がそのように二人で完結しているうちはまだよかった。
そのうち二人が大人になっていけば、そんな関係性も変わってくる。
「私、好きな人がいるの。友達だから協力してくれるわよね?」
「それは構わないけれど、好きな人って誰?」
「王太子殿下よ!」
マリエールは王太子妃となることを夢見るようになっていた。
この国では聖なる樹の元で将来結ばれる予定の二人が落ち合うと、木が光るという伝説があった。
その伝承が有名になりすぎて、聖なる樹の根本が踏み固められてしまって木が弱ったので、入れる人には制限がつけられる始末だったが。
マリーエルはたまたま視察で王太子殿下がその聖なる樹の近くまでいらっしゃるという話をきいたらしい。
そして貴族の娘という立場を利用して、マリーエルがその接待を申しつかったというわけで。
「王太子殿下がいらした時がチャンスよ。貴方は魔法が得意でしょ? 私と殿下が木の下を通り過ぎた瞬間、聖なる樹の一面に光を放ってちょうだい。そうすれば、私と王太子殿下で伝説が成立するわ」
「それって伝説が成就したことになるの?」
「貴方は黙って言うことを聞いてればいいのよ!」
(そういうものなのかしら?)
納得がいかないまま、マリエールに押し切られる形で、トリシャは引き受けることとなった。
そして数日後、王太子が聖なる樹の元に来た。
マリエールが視察に訪れた王太子一行を案内しているのを木の陰からトリシャは見てタイミングを見計らっていた。
聖なる樹はとても大きな木だ。
大人が10人くらい手をつながないと木の周りを一周できないだろう。
あらかじめ木の陰にトリシャが隠れていれば、わからない。
ここに忍び込むことすら難しかったので、リハーサルもできずの本番一発勝負である。
王太子が聖なる樹に差し掛かる頃、マリエールが意図的にゆっくり歩きだした。
そのタイミングで、トリシャは手の中に光魔法を作り出した。しかし。
「あ……」
魔力が聖なる樹に吸われてしまって光らせるのが難しい。
トリシャは懸命になって少しでも光らせようとした。
額に汗を浮かべ、必死にもてる限りの魔力を注ぎ続けていく。その結果。
「!」
聖なる樹は光った。光ってくれた。
そして、王太子殿下も光っている。
驚いて自分の身体を見つめる王太子に、その護衛も思いがけないことに慌てふためいている。
(えええ!? どういうことなの!?)
しかし――どう見ても、王太子殿下と光っているのはトリシャだった。
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