6 / 6
6
しおりを挟む
救出されたシャナは聞いていたラルド侯爵家の悪事を全て教会にて証言をした。
そして、シャナが記憶を取り戻したのは、全てが終わった後だった。
修道院に戻った途端、貴族令嬢であった頃の記憶が戻ってきたのである。
もちろん、馬車の事故の後の記憶も残ったままで。
今回の騒動のきっかけを作り、貴族派筆頭の悪事を裁いた立役者ということで、シャナは一躍有名になってしまった。
婚約者を奪われたとばかり思っていたが、実際は婚約者の方が自分を裏切っていたとは思わなかった。
そして、フィンセントがあんなに執拗にセシリアを口説いていた理由は、フィンセントの取り調べで判明した。
彼はシャナの実家である伯爵家の空白になった爵位を狙っていたのである。
財産を奪っただけでは飽き足らず、セシリアがシャナの替え玉となり婚約者であったフィンセントに爵位を譲るよう証言させようと企んでいたのだ。
子爵令息であるというだけではなく、伯爵という確固たる身分が欲しかったのだろう。
記憶を失っているとはいえ、シャナ本人にそんな詐欺を働かそうというのだから、間抜けな話である。
一夜にして貴族の勢力図が塗り替わってしまった。
ラルド侯爵家に没落させられた家門はシャナの家だけではなかったため、それらの家が団結し、集団で訴訟が行われることになった。
復権と財産を戻されることとなるため、シャナは現在暮らす修道院から離れ、貴族として取り戻した屋敷に戻ることになった。
修道女見習いセシリアはこの世に存在しなくなったのである。
修道院から離れる日、シャナはセントルイス修道院の修道女たちに頭を下げていた。
「今までお世話になりました。そして、あの手紙に気づいてくださってありがとうございます」
結局は、あのシャナの助けを呼ぶ手紙に修道院の人達が気づいてくれなければ、事件は無事に解決できなかったのだ。
救護院の看護師が見せていたように、貴族が平民に興味を持つことを玉の輿と思ってしまわれていれば、あの手紙の真意に気づけなかっただろうから。
シャナの礼に修道女たちは首を振った。
「これも貴方が神の僕として過ごしてきていたことの積み重ねです。あの短期間でまだ見習いだったとはいえ、貴方は神の花嫁として神に見守られていたのでしょう。なにより貴方の知識がなかったら、あの手紙を書けませんでしたしね」
そう修道女長が笑うのを、シャナは黙って微笑んで受け止めていた。
聖書に対する知識は確かにあったかもしれない。しかしそれはシャナが神をそれほど信じていない時、貴族令嬢としてつちかった賜物であって、修道院で得た物ではなかった。
それに、彼女たちは知らない。シャナがずっと神に祈るふりをして、あの人達の不幸を望んでいたということを。
なのに何も知らない修道女たちは、素直にシャナを祝福してくれていたことがどこか申し訳ない気がした。
「でも結果として修道女見習いのままでよかったと思うわ。これからの貴方の幸せを祈ります」
まだ見習いだったからこそ、容易に還俗できて、伯爵令嬢に戻れたのだから。このことも含めて、あの呪いの言葉を神が聞き届けてくださったとしか思えなかった。
「全て神の御心のままに」
そうシャナは晴れやかに笑う。
今度からは神の前では心からの感謝の祈りを捧げられるようになる予感を感じながら。
そして、シャナが記憶を取り戻したのは、全てが終わった後だった。
修道院に戻った途端、貴族令嬢であった頃の記憶が戻ってきたのである。
もちろん、馬車の事故の後の記憶も残ったままで。
今回の騒動のきっかけを作り、貴族派筆頭の悪事を裁いた立役者ということで、シャナは一躍有名になってしまった。
婚約者を奪われたとばかり思っていたが、実際は婚約者の方が自分を裏切っていたとは思わなかった。
そして、フィンセントがあんなに執拗にセシリアを口説いていた理由は、フィンセントの取り調べで判明した。
彼はシャナの実家である伯爵家の空白になった爵位を狙っていたのである。
財産を奪っただけでは飽き足らず、セシリアがシャナの替え玉となり婚約者であったフィンセントに爵位を譲るよう証言させようと企んでいたのだ。
子爵令息であるというだけではなく、伯爵という確固たる身分が欲しかったのだろう。
記憶を失っているとはいえ、シャナ本人にそんな詐欺を働かそうというのだから、間抜けな話である。
一夜にして貴族の勢力図が塗り替わってしまった。
ラルド侯爵家に没落させられた家門はシャナの家だけではなかったため、それらの家が団結し、集団で訴訟が行われることになった。
復権と財産を戻されることとなるため、シャナは現在暮らす修道院から離れ、貴族として取り戻した屋敷に戻ることになった。
修道女見習いセシリアはこの世に存在しなくなったのである。
修道院から離れる日、シャナはセントルイス修道院の修道女たちに頭を下げていた。
「今までお世話になりました。そして、あの手紙に気づいてくださってありがとうございます」
結局は、あのシャナの助けを呼ぶ手紙に修道院の人達が気づいてくれなければ、事件は無事に解決できなかったのだ。
救護院の看護師が見せていたように、貴族が平民に興味を持つことを玉の輿と思ってしまわれていれば、あの手紙の真意に気づけなかっただろうから。
シャナの礼に修道女たちは首を振った。
「これも貴方が神の僕として過ごしてきていたことの積み重ねです。あの短期間でまだ見習いだったとはいえ、貴方は神の花嫁として神に見守られていたのでしょう。なにより貴方の知識がなかったら、あの手紙を書けませんでしたしね」
そう修道女長が笑うのを、シャナは黙って微笑んで受け止めていた。
聖書に対する知識は確かにあったかもしれない。しかしそれはシャナが神をそれほど信じていない時、貴族令嬢としてつちかった賜物であって、修道院で得た物ではなかった。
それに、彼女たちは知らない。シャナがずっと神に祈るふりをして、あの人達の不幸を望んでいたということを。
なのに何も知らない修道女たちは、素直にシャナを祝福してくれていたことがどこか申し訳ない気がした。
「でも結果として修道女見習いのままでよかったと思うわ。これからの貴方の幸せを祈ります」
まだ見習いだったからこそ、容易に還俗できて、伯爵令嬢に戻れたのだから。このことも含めて、あの呪いの言葉を神が聞き届けてくださったとしか思えなかった。
「全て神の御心のままに」
そうシャナは晴れやかに笑う。
今度からは神の前では心からの感謝の祈りを捧げられるようになる予感を感じながら。
15
お気に入りに追加
42
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

【完結】双子の妹にはめられて力を失った廃棄予定の聖女は、王太子殿下に求婚される~聖女から王妃への転職はありでしょうか?~
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
聖女イリーナ、聖女エレーネ。
二人の双子の姉妹は王都を守護する聖女として仕えてきた。
しかし王都に厄災が降り注ぎ、守りの大魔方陣を使わなくてはいけないことに。
この大魔方陣を使えば自身の魔力は尽きてしまう。
そのため、もう二度と聖女には戻れない。
その役割に選ばれたのは妹のエレーネだった。
ただエレーネは魔力こそ多いものの体が弱く、とても耐えられないと姉に懇願する。
するとイリーナは妹を不憫に思い、自らが変わり出る。
力のないイリーナは厄災の前線で傷つきながらもその力を発動する。
ボロボロになったイリーナを見下げ、ただエレーネは微笑んだ。
自ら滅びてくれてありがとうと――
この物語はフィクションであり、ご都合主義な場合がございます。
完結マークがついているものは、完結済ですので安心してお読みください。
また、高評価いただけましたら長編に切り替える場合もございます。
その際は本編追加等にて、告知させていただきますのでその際はよろしくお願いいたします。

この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私はあまり大切にされず育ってきたのですが……?
四季
恋愛
この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私、これまであまり大切にされず育ってきたのですが……?

メイクした顔なんて本当の顔じゃないと婚約破棄してきた王子に、本当の顔を見せてあげることにしました。
朱之ユク
恋愛
スカーレットは学園の卒業式を兼ねている舞踏会の日に、この国の第一王子であるパックスに婚約破棄をされてしまう。
今まで散々メイクで美しくなるのは本物の美しさではないと言われてきたスカーレットは思い切って、彼と婚約破棄することにした。
最後の最後に自分の素顔を見せた後に。
私の本当の顔を知ったからって今更よりを戻せと言われてももう遅い。
私はあなたなんかとは付き合いませんから。

[完結]裏切りの学園 〜親友・恋人・教師に葬られた学園マドンナの復讐
青空一夏
恋愛
高校時代、完璧な優等生であった七瀬凛(ななせ りん)は、親友・恋人・教師による壮絶な裏切りにより、人生を徹底的に破壊された。
彼女の家族は死に追いやられ、彼女自身も冤罪を着せられた挙げ句、刑務所に送られる。
「何もかも失った……」そう思った彼女だったが、獄中である人物の助けを受け、地獄から這い上がる。
数年後、凛は名前も身分も変え、復讐のために社会に舞い戻るのだが……
※全6話ぐらい。字数は一話あたり4000文字から5000文字です。


魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。
守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。
だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。
それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる