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シャナ……没落伯爵家の娘。ドリィの横やりで婚約者である子爵令息フィンセントを奪われたあげく、実家も没落させられた。現在は修道女見習い。
ドリィ……ラルド侯爵家の令嬢。気の強い性格をしている。
フィンセント……シャナの元婚約者で、伯爵家の次男坊。性格が弱い。
*******
(神よ。私はどうなっても構いません。あの者達に罰をお与えください)
修道女見習いのセシリアは小さな教会の祭壇の前に跪いて、一心不乱に祈っていた。
セシリアの本名はシャナ。つい最近までは家名がある貴族の娘であった。
しかし、シャナの婚約者であったフィンセントをラルド侯爵家のドリィが気に入ったことから運命が大きく変わってしまった。
フィンセントを手に入れるために、ドリィはシャナの実家である伯爵家をターゲットにして悪だくみを敢行し、それに気づけなかったシャナの伯爵家は経済的に破綻し、結果的に没落させられてしまったのだ。
その結果、父は自殺し、元々体が強くなかった母は心労から体調を崩し、そのまま息を引き取ってしまった。
他に頼れる場所もないシャナは、今は、実家に縁のある修道院に身を寄せていた。
まだ、お勤めの期間が短くて正式な修道女になれないので、今の身分は修道女見習いということであったが。
セシリアという洗礼名を改めていただき、日々奉仕活動を行い貴族令嬢とは違う、落ち着きのある人生を送っていることに不満はない。
しかし、神に祈る時にラルド侯爵家の不幸を願ってしまうのは止められない。
自分の欲のために誰かを不幸にする存在が許せない。
彼女らが許されるのなら、彼女らの不幸を願うくらいは許されるはずだ。
どうにかして仕返しがしたいけれど、今の自分では到底無理なことでしかなかったのだから、神に託すことだっていいだろうに。
この小さな教会は、回り持ちで修道女が週に一度、掃除に来ることになっている。
今回はそれがシャナことセシリアの番だったのだ。
掃除が全て終わり、施錠をして修道院に戻ろうとした時のことだった。
道を歩いていれば、遠くで馬がいなないているのが聞こえた。
「危ない!」
誰かの声が聞こえたけれど、まさか自分に言われているなんて思わなかった。
動物の荒い息使いに異変を感じて振り返れば、目の前に大きな馬の体があり、今まさに自分が踏みつぶされそうになっている。
「きゃああああ!」
悲鳴を上げて、慌ててよけようとしたけれど遅かった。御者が必死に馬を制御しようとするひきつった顔がストップモーションのように見える。
次の瞬間、腹を強く蹴られて跳ね飛ばされてしまった。衝撃で息が吸えなくなって、そのまま壁に、地面に、とボールのように体が転がった。
「事故だ!」
「女の子が馬に蹴られたぞ!」
ざわめく周囲の声が徐々に聞こえなくなっていく。
意識が遠のく寸前に見えた馬車の紋章はどこかで見覚えがあったが、よく思い出せないまま、目の前が暗くなっていった。
ドリィ……ラルド侯爵家の令嬢。気の強い性格をしている。
フィンセント……シャナの元婚約者で、伯爵家の次男坊。性格が弱い。
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(神よ。私はどうなっても構いません。あの者達に罰をお与えください)
修道女見習いのセシリアは小さな教会の祭壇の前に跪いて、一心不乱に祈っていた。
セシリアの本名はシャナ。つい最近までは家名がある貴族の娘であった。
しかし、シャナの婚約者であったフィンセントをラルド侯爵家のドリィが気に入ったことから運命が大きく変わってしまった。
フィンセントを手に入れるために、ドリィはシャナの実家である伯爵家をターゲットにして悪だくみを敢行し、それに気づけなかったシャナの伯爵家は経済的に破綻し、結果的に没落させられてしまったのだ。
その結果、父は自殺し、元々体が強くなかった母は心労から体調を崩し、そのまま息を引き取ってしまった。
他に頼れる場所もないシャナは、今は、実家に縁のある修道院に身を寄せていた。
まだ、お勤めの期間が短くて正式な修道女になれないので、今の身分は修道女見習いということであったが。
セシリアという洗礼名を改めていただき、日々奉仕活動を行い貴族令嬢とは違う、落ち着きのある人生を送っていることに不満はない。
しかし、神に祈る時にラルド侯爵家の不幸を願ってしまうのは止められない。
自分の欲のために誰かを不幸にする存在が許せない。
彼女らが許されるのなら、彼女らの不幸を願うくらいは許されるはずだ。
どうにかして仕返しがしたいけれど、今の自分では到底無理なことでしかなかったのだから、神に託すことだっていいだろうに。
この小さな教会は、回り持ちで修道女が週に一度、掃除に来ることになっている。
今回はそれがシャナことセシリアの番だったのだ。
掃除が全て終わり、施錠をして修道院に戻ろうとした時のことだった。
道を歩いていれば、遠くで馬がいなないているのが聞こえた。
「危ない!」
誰かの声が聞こえたけれど、まさか自分に言われているなんて思わなかった。
動物の荒い息使いに異変を感じて振り返れば、目の前に大きな馬の体があり、今まさに自分が踏みつぶされそうになっている。
「きゃああああ!」
悲鳴を上げて、慌ててよけようとしたけれど遅かった。御者が必死に馬を制御しようとするひきつった顔がストップモーションのように見える。
次の瞬間、腹を強く蹴られて跳ね飛ばされてしまった。衝撃で息が吸えなくなって、そのまま壁に、地面に、とボールのように体が転がった。
「事故だ!」
「女の子が馬に蹴られたぞ!」
ざわめく周囲の声が徐々に聞こえなくなっていく。
意識が遠のく寸前に見えた馬車の紋章はどこかで見覚えがあったが、よく思い出せないまま、目の前が暗くなっていった。
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