上 下
116 / 177

第百十六話 簡易鑑定

しおりを挟む

「え~、ホント? 御使いに絡まれちゃったのぉ?」

 冒険者ギルドからの帰りがけに奇妙な男性三人組に絡まれてしまった俺たち五人は、翌日御使いの事情に詳しいアイカの元を訪れていた。

 といってもアイカは現在サラウさんの実家のバオニスト商会でお世話になっている。
 そのため、本店である魔導具店に顔をだしたところ、いまだに冒険者稼業休止中のサラウさんが歓迎の面持ちで出迎えてくれた。
 アイカに用事があることを伝えると、丁度冒険者ギルドの訓練場から帰ってきたところだった彼女とイザベラさんにばったりと出くわしたため、以前アイカに食事を奢ったこともある本店からほど近い喫茶店『ハニーランプカフェ』で、一緒に軽くお茶をしながら話し合いの場を設けさせてもらうことにした。

 ちなみにカルラさんとララットさんは例のごとく訓練場で汗を流しているらしくこの場にはいない。
 サラウさんも残念ながらお店が忙しいとのことで、喫茶店にはアイカとイザベラさんの二人だけがついてきてくれた。

 アイカにまだ顔合わせしたことのなかったラウルイリナとニールを軽く紹介して昨日の三人組のことを話す。

 彼女はそれを聞くと唐突に頭を下げた。

「その……ごめんね。御使いは色んな人がいるからさ。……やっぱり完全に止めることは出来なかったかー」

「アイカのせいじゃない。謝らないでくれ」

「でも……」

 なおも気まずそうな表情をするアイカにニールが軽い口調で話しかける。
 お陰で沈んでいた場の空気が一気に明るくなった。
 ……やっぱりニールがいてくれるとこういうときに助かるな。

「アイカって御使いなんだって? オレ、御使いは昨日の三人以外は見たことがないんだけど、意外とあんまり王都にはいないよな」

「うん、最初に地上に降臨した御使いは実を言うと数が予定より少なかったんだー」

「数が少ない? そんなことあるのか?」

「そ! そのお陰でわたしも地上に降りれた訳なんだけど、神の石版には地上に千人が降臨するってあったでしょ。アレ、ホントは五百人くらいしか降臨してないんだよ。だから王都にいる御使いの数も必然的に少なくなっちゃってるんだよね~。多分セイフリム王国の王都には五十人? か、六十人くらいしかいないんじゃないカナ?」
 
 どうりで王都を歩いていても御使いに会う機会は少なかった訳か。
 まあ、あの三人組みたいな相手がまた突然現れたら困るからいいんだが。

 アイカはその他にも御使いが降臨する場所は森林王国が一番人気で、最も人気がなかったのは教国だと教えてくれた。
 なんでも美形の多いエルフを一目見たい御使いが多く存在したかららしい。
 御使いにもエルフはいるはずなのに……なぜだ?

「だが、いくら御使いとはいえ昨日の不躾な視線はいただけなかったがな。私もカルマの判定を受けたことはあるが……同じような背筋に寒気が伝わるような感覚で驚いた。クライからも軽く説明してもらったが、アレも御使いの力なんだろう?」

 ラウルイリナが嫌なことを思いだしたかのように顔を歪めながらもアイカに質問する。

「あー、《簡易鑑定》かぁ」

 質問にアイカもまた嫌そうな表情を浮かべる。

 《簡易鑑定》。
 それは御使いのエクストラスキルの一つ。

 以前アイカと共にレベル上げをしていたときに教わった話では、このエクストラスキルは物体のステータスの開示、それこそ簡易的な解説を表示させることが可能らしい。

 視線に合わせて発動されたスキルは、物体の名称、分類、備考を表示させるそうだ。
 それこそ俺のもつDスキル、《リーディング》のように。

 そして、このスキルは魔物や人相手にも発動できる。

「魔物相手なら遠慮なく使えるんだけど……人相手だとね~」

 魔物相手なら視線を向けるだけで魔物の種類やレベルがわかる非常に便利なスキルだが、人相手だと少し勝手が違うとアイカが追加で説明してくれる。

 どうやら人相手だと表示されるのは名前、レベル、カルマの三つだけだそうだ。

 ただし、名前は対象に名乗ってもらわない限り表示されないらしく人探しには向かない。
 それとレベルはあまり対象とのレベル差があるとこれもまた表示されないらしい。

 しかし、カルマの表示は割と条件のようなものはないらしく、簡単に表示されるようだ。
 それだけでも《簡易鑑定》が御使いが習得しているだけあって破格のスキルだとわかる。

 そして、俺と出会ったときアイカはこのスキルを使うことはなかったけど、人相手にこのスキルを使うと対象にされた相手はカルマの判定と同じく不快感を味わうことになるらしい。
 サラウさんの語っていた御使いの降臨直後のトラブル頻出もこれが原因でもあったらしい。

 アイカは深く溜め息を吐きながら天界にいるであろう天使に不満を漏らしていた。

「わたしたち御使いもスキルを使用した相手に不快感を与えるだなんて知らなかったんだよね~。ホント、天使様も事前に教えておいて欲しいよ」

 彼女曰く、最初は御使い自身も《簡易鑑定》のデメリットというべき対象への不快感を把握していなかったそうだ。
 そのため地上に降り立った御使いの多くがEPの消費も少ないこのスキルをあらゆるものに使っていたらしく、そのせいで王都の住民とのトラブルにまで発展してしまった背景があるようだ。

(自分自身の力のはずなのに把握しきれていないところはクライの《リーディング》と同じだな)

「それで、三人組はレベル上げを頼んで来たんだったか?」

「はい、そうです。アイカのレベル上げを手伝ったなら自分たちも手伝えといってきて」

 昨日のどこかちぐはぐな三人組の御使いは、俺を見つけるやいなやレベル上げの助力を頼んできた。
 見ず知らずの相手のはずだが、アイカのいったように噂のせいもあって俺は御使いの間では有名らしい。

 三人組はアイカのレベル上げを協力したことを知っていたようで、自分たちのレベル上げも手伝えと半ば強引な態度を見せていた。
 それは当然のごとく一緒にいた仲間たちにも向けられていて。

 まあ、エクレアの前でそんな失礼な態度を見せればイクスムさんが黙っていない。
 イクスムさんが三人組を一喝するとそそくさと彼らは退散していった。
 それこそ、なにしにきたんだと文句をいいたいくらいだったが逃げ帰るのは早かった。

(それにしても失礼な奴らだったな。結局自分たちの名前も名乗らないで逃げていくとは)

 憤慨するミストレア。
 気持ちはわからないでもない。
 あまりに唐突にはじまり、突然終わったから困惑の方が大きかったけど。

「いまだに御使い絡みのトラブルがなくならないのは自分勝手な者が多いからだろうな。はぁ……まったくどこで知ったのかは知らんが困ったものだ」

 イザベラさんの言う通り、本当になぜそんなことがわかったのだろうか。

「う~ん、わたしも他の御使いにはレベル上げのことは話してないんだけど……どこかで見られてたのカナ?」

 別にレベル上げ自体は隠すことでもないと思って警戒していなかったからな。
 現場を御使いの誰かに見られていたのかもしれない。
 御使いは御使い同士で連絡が取り合えるようだし、噂のこともある。
 情報が伝わるのが早いのかも。

 昨日の話については一段落したが、アイカの元を訪れたのはもう一つ理由がある。

「それで……アイカにはもう一つ聞きたいことがあったんだけど……」

「あー、うん。アレでしょ。わたしもあんなことになるとは知らなかったんだよね」

 御使いでも知らなかったのか。
 てっきり天界絡みのことだからなにか知ってると思ったんだけど。

 昨日俺たちは酒場で食事兼談笑をしていて気づかなかったけど、神の石版に新たな記述が増えていたらしい。

 今朝星神教会から発表された内容には驚かされた。

「神の試練でしょ。わたしもびっくりしたよ。まさか御使いの数も少ないいま、そんなことをするなんて思いもよらなかった」

 石版に記された神の試練。

 激動の長期休暇がいまはじまる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...