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第二十話 バヌーと魔物討伐

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 すっかり日も暮れる中、金色の蛙亭、ドルブさんから紹介して貰った宿に帰る。
 驚いたことにニールも同じ宿に泊まっているそうだ。
 一階の食堂で共に夕食を食べるついでにがてら話をすることになった。

「改めて自己紹介させてくれ。オレはニール。Dランクのソロ冒険者でパーティーには所属していない。棒術と少しだが土属性の派生属性、水晶魔法を使える。王国を旅して回っている最中で何ヶ月か前からバヌーを拠点に滞在していたところだ」

「俺はニールの天成器べイオン。旅は嫌いじゃないんだがこいつにはあちこち振り回されて各地を転々と回ってる。いい加減迷いが晴れるといいんだが……それにしても、弓に盾、煙玉まで使うとは面白い奴だ。無力化しようと思ったんだが見事にこっちがヤラレちまったな」

「おい、べイオン、変なこと言うなよ。……それにしても悪かったな、まさかオレ以外の奴にも猫探しを依頼してるとは」

「気にしないで下さい。あれは……シータの演技が上手かったのもあります」

 両親に怒られて反省するかと思っていたけど、最後はパウを抱えてニヤリと笑っている姿が見えた。
 ……怒られてしょんぼりしているように見えたのも演技だったんだろうな。
 
「騙されたのはオレも一緒だし、なんなら話を聞かなかったのもオレだ。その……同い年位だろ、敬語は使わなくていい。気を遣われるのは苦手なんだ」

 そう言ったニールは少し寂しそうな表情をする。

「……わかった。それと、ミストレアの紹介をしてなかったな」

「私がクライの天成器ミストレアだ。ニールと言ったか、よくもクライを傷つけてくれたな! 問答無用で襲いかかってきて、どう責任を取ってくれるんだ!」

「いやだから誤解だったんだだって! オレもあの時は逃さないようにと思って必死だったんだ! 宿までの帰り道でも何度も謝っただろ」

「あんなものは謝罪ではないぞ! 賠償金だ、持っている硬貨を全て出して貰おうか!」

「勘弁してくれよ。はぁ……クライ、お前の天成器、自己主張が激しくないか?」

「そうか?」

 ミストレアのニールへの当たりは強いけど声を聴く限り多少ふざけて言っているところもあるのだろう。
 慌てるニールをからかっているとも言う。

「ははははっ! お前、面白いな!」

 べイオンはこの状況にも動じていない。
 傍若無人なところのあるミストレアとも気が合いそうだ。
 
「おっ、そろそろ飯が来そうだな。ここの夕飯はどれも豪華だから毎回楽しみなんだ」

 宿の従業員さんが運んでくるのは山盛りのパンと鉄板に乗せられたステーキ肉。
 チーズが鉄板の熱で溶け出しジュウジュウと音を立てる。
 ニールのおすすめだけあって美味しそうだ。





 次の日の朝。
 夕食より量は控えめだが丁寧な作りの朝食を終え、待ち人を待つ。

「おはよう、ずいぶん早起きだな」

「ああ、おはよう」

 待ち合わせた宿の一階のラウンジでニールと落ち合う。
 急いで朝食を食べるニールに落ち着いくように促しながら話を聴く。

「まさか、あれだけの強さで冒険者じゃないなんてな。てっきりCランクぐらいかと思ってよ」

「まあ、ここまで来るのに色々教わったりしてきたから」

 対人戦闘であれだけ冷静に戦えたのは〈赤の燕〉のみなさんのお陰だ。
 
「朝飯を食ったらまずは冒険者ギルドだな」

 昨日の雑談の中で王都への乗り合い馬車を待っていることを伝えると、有り難いことにバヌーを拠点にしているニールが都市の案内を提案してくれた。





「広いな……」

 冒険者ギルドもまた大規模なものだった。
 併設されたこれまた大きな酒場には早朝から活気が溢れている。
 ニールの話ではどうやら夜間を跨ぐ狩りの帰りに立ち寄っている冒険者も多いようだ。
 アルレインの街とは違い朝から深夜までほとんど休みなく開店しているそうで、ほとんど絶え間なくお客が訪れる。

 それと、バヌーは断崖の上にも魔物が来ないように魔物討伐の依頼が常時貼り出されているらしい。
 確かに崖上を警戒していないと都市への魔物の接近に気づけない。
 ここからは見えないけど崖上にも小さな冒険者ギルドの施設と守備隊の詰め所が存在していて、そこに寝泊まりして魔物を討伐、迎撃するようだ。

「ここ周辺は虫系の魔物が多い。その中でも特に脅威なのが蟻系の魔物だ。体長ニm前後で集団で行動し、全身が硬い甲殻で覆われていて、そのうえ酸まで出す。ここでは夜間でも都市の周辺に巣を作られないように警戒している。地面を掘って都市内部に侵入される訳にはいかないからな。その分討伐報酬もデカい」

 そう言ってニールは依頼の張り出されたボードを指差す。
 冒険者が殺到するボードには多くの依頼書が貼り付けられている。

「蟻の魔物であるコンバットアント、荒野に生息するマーダーライオン、無生物系のスライムやゴーレムなんかがこの近辺の主な魔物だな」

「ゴブリンやオークは出現しないのか?」

「そうだな、偶に迷い込むらしいけど、オレはここら辺で遭遇したことはないな。そう云う意味では比較的この近辺の魔物の討伐難度は高い」

「討伐難度?」

「冒険者ギルドで裁定している魔物の強さの指針だ。下からE、D、C、B、Aの順に魔物の強さが上がっていく。魔物の王ともなればAの更に上、S、SSまであるらしい。ついでに言えば、討伐難度に+がついている場合、その魔物は連携のとれた集団行動や罠を設置した陣地作成、特殊能力なんかを使ってくる通常の魔物より強敵ってことだな」

 ここまでの道中出現したシルバーウルフは多数のグレイウルフを従えて襲ってきた。
 囮を使って別働隊に馬車を背後から襲わせたり、包囲してきたり。
 確かに、統率された集団行動をする魔物は討伐難度は高いだろう。

「ちなみにゴブリンは難度E、オークは難度Dだ。上位個体の魔物になれば当然討伐難度も上がる。アーマーゴブリンは難度E+、ホブゴブリン、ゴブリンシャーマンは難度Dだ」

 ゴブリンは最低の難度なのか……何度も相手してきただけに少し複雑だな。

「それと、冒険者のランクも同じようにEから順番に上がっていく。同じランクの魔物がその冒険者の討伐適正難易度と言う訳だ。もちろんその場の状況や魔物の個体差、数によって難度は変わるから、あくまで参考にするって感じだな」

「それにしても知らない魔物ばかりだ……土地によってずいぶん生息している魔物が変わるんだな」

「そうだ、試しに戦って見るか? どうせあと二日はここにいることになるんだ。出発前に魔物退治といこうじゃないか」
 
 朗らかに笑うニール。
 さてはこの展開を予想していたのかもしれない。





 バヌーの門を出て約ニ時間。
 ニールにこの近辺の魔物の住処であり冒険者たちの狩り場に案内してもらっていた。

「この谷は魔力濃度が高いのか魔物が多く生息してる。冒険者の間では虫系統の魔物と波打った地層が見える谷にあることから「積層虫の谷」と呼ばれる狩り場だ」

 荒野に存在する岩石に囲まれた谷を降りていく。
 どうやら大小様々な規模の谷がこの辺りに密集していてそれ全てを含めて狩り場になっているらしい。

「この谷は周辺の中でもコンバットアントばかりの比較的狩りやすい初心者用の狩り場だ。ここなら落ち着いて戦えるだろう。他の谷は別の種類の魔物がひしめき合ってるから戦いづらいからな」

 谷底には乾燥した荒野が広がっている。
 谷と行っても狭い空間ではなく、どちらかというと盆地のような周囲から一段低い土地のようだ。

「この時間なら巣から離れて徘徊してるコンバットアントがいるはずだ。巣から離れて哨戒している奴らは少数だからそいつらを見つけるとしよう」

 地面には抉れた跡が無数に存在する。
 どうやらコンバットアントの移動した痕跡を見つけるのは難しくないらしい。
 その中でも他と比べて新しく、単独で行動しているだろう足跡を発見し、跡を辿る。

 それほど時間もかからず単独行動する個体を見つけた。

「いた、追跡を任せたけど思ったより早く見つけたな。一匹だけなら都合がいい」

 谷にはゴロゴロと巨大な岩が転がっているけどその影から黒みがかった甲殻の頭が動く。
 ニm前後の体躯の半分近くを占める頭部。
 カチカチと威嚇するように顎を打ち鳴らしながら、のそのそとした動きで岩の周囲を警戒している。

 事前にニールとべイオンから説明されたコンバットアントは蟻系の魔物の最下級の魔物であり、討伐難度はD+。
 動き自体は素早くないが黒みがかった全身の甲殻は硬く防御に優れ、口から吐き出す酸は肌に触れれば火傷のような怪我を負わせる。
 基本的に集団で巣を防衛しているが、巣から離れて周辺を哨戒している場合、ニ~三匹の少数のグループで行動しているようだ。

「最初は背後から奇襲する。幸い未だにこっちには気づいてないようだからな。戦いが始まったらオレが前に出て引き付ける。援護を頼む。行くぞ、べイオン」

 ニールは岩陰を移動しながらコンバットアントの背後に周る。
 急いで全体を見渡せる位置に移動する。
 
 ニールの合図で同時に仕掛ける。
 隙だらけの背後に棒術の痛烈な打撃と関節を狙って放たれた錬成矢が襲いかかる。

「ギィィィッ!」

 攻撃が当たるまで反応のなかったコンバットアントが悲鳴のような甲高い叫びを上げる。
 甲殻に覆われた身体にも、さすがに関節部分には矢による攻撃も効くようだ。
 後ろ足の一本は奇襲により貫通した錬成矢ですでに動かし辛そうにしている。

「畳み掛けるぞ!」

 コンバットアントは振り返りギザギザと突起のついた前足を振り下ろす。
 地面に直撃すると容易く岩を砕き砂埃が舞う。
 中々の威力の攻撃に対してニールは果敢にも懐に飛び込み連打を浴びせる。
 素早い身のこなしで攻撃を避け、カウンターの打撃を食らわせる。

 コンバットアントが動かなくなるまでそれほど時間はかからなかった。
 度重なる打撃で甲殻はひび割れ、つなぎ目の隙間には無数の矢が刺さっている。

「援護があるとやっぱり違うな。いつもはソロだから時間がかかるんだ。よし! 解体したら次に行くぞ!」

 晴れやかな笑顔でニールは笑う。
 今日は長い一日になりそうだ。
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