上 下
7 / 14
思春期のはじまり

12歳と26歳 ②

しおりを挟む
「マリアさん、別に僕は怒ってるわけでも責めてるわけでもないんだよ」

嘘だ。

「たださ、どうするのか気になるんだ。許嫁としてね」

シュヤンは先程から嘘ばかりついている。
手紙を隠したマリアを責めているし、顔には出さないが手紙の差出人の男には腸が煮えくりかえりそうなほど怒っている。
「断る」以外の選択肢をマリアに与える気もない。
顔を真っ赤にして泣きそうな表情を浮かべるマリアにゾクゾク感じながら、さらに責め立てる。

「ね?教えて?どうするの?」

「お、お断りします…」

そう小さな声でもじもじと言ったマリアの頭を撫でる。このもふもふで最高の触り心地の髪の毛がシュヤンは堪らなく好きだ。

「うん、偉いね」

マリアは俯きながら膝の上で手をもにもにしている。
駄目だ、楽しい。
子供から卒業しようとしている彼女は今、完全にシュヤンを異性として意識している。

(これは隠し事をしたお仕置きだから…)

心の中でそんな虐めるための言い訳をする。

「でも、なんでこの子はマリアさんのこと好きになったのかな」

「そんなこと…わかりませんよ…」

マリアは懸命に顔を背けるが、その分その可愛らしい耳がシュヤンから見える。
このふっくらとした愛らしい福耳を吸ったらどんな声を出すのか…そんな欲望を懸命に堪える。

「心当たりとかないの?」

「ないです…」

「まあでもマリアさんは可愛いからね」

そう言うと耳まで真っ赤になる。

(ああ可愛い…可愛いよ…)

「ねえマリアさん、」

今はピンクに染まっている丸くて柔らかい頬っぺたを撫でる。なんでこの人は全身どこを触ってもふわふわなんだろう。

「キスしようよ」

「はっ?へ?!き?!」

シュヤンの思いがけない言葉に驚いたマリアは可愛らしい耳を可愛らしい狼の耳に変えた。ついでに尻尾まで生えてきている。

「で、でも…そんな…だって…」

動揺してまともな言葉が出てこないようだ。
シュヤンはそんなマリアに畳み掛ける。

「ね、いいでしょ?
もしマリアさんが他の男と付き合うことになっても、ファーストキスは僕が貰ったって思えばなんとか正気を保てるかもしれない」

まあ、ほんの少し可能性が上がるだけに過ぎないが。

「で、でも…」

「大丈夫、僕がちゃんとリードするから」

そう言って唇に指をはわせると、信じられないくらい柔らかい。
断られても絶対キスする。こんなの触ってしまったらそうせずにはいられない。

彼女の体温が上がっていることが服越しでもわかる。手がしっとりとして、また首筋から汗が流れている。
その顎を掴むと、案外抵抗なくこちらを向いた。
金色の目は伏せて下を向いている。
我慢の限界だ。
限界まで己を抑制しながら唇を重ねる。

(あっ…やっっっっっばいこれ…)

柔らかすぎる。ずっとくっついていたい。もはや食べてしまいたい。
一瞬でそんな感情が全身を駆け巡るが、鋼の精神でなんとか自ら離れる。
マリアはぽーっと蕩けるような顔をしていた。

(いやほんとやばいこれはやばい)

理性が働くうちに撤退しないと何をしでかすかわからない。
マリアの身体はまだまだ子供だ。シュヤンがこのテンションのまま好きにしたら壊れてしまう。

「ありがとう、ごちそうさま」

それだけ言うと惚け続けるマリアを置いて早足に部屋を出る。
オリビアやシオンとすれ違ったが無言で家を飛び出した。

一方、残されたマリアは表面上は極優しい触れるだけの口づけのされた自分の唇に触れる。
凄くぽわぽわする気持ちだ。

「…変なの……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】親に売られたお飾り令嬢は変態公爵に溺愛される

堀 和三盆
恋愛
 貧乏な伯爵家の長女として産まれた私。売れる物はすべて売り払い、いよいよ爵位を手放すか――というギリギリのところで、長女の私が変態相手に売られることが決まった。 『変態』相手と聞いて娼婦になることすら覚悟していたけれど、連れて来られた先は意外にも訳アリの公爵家。病弱だという公爵様は少し瘦せてはいるものの、おしゃれで背も高く顔もいい。  これはお前を愛することはない……とか言われちゃういわゆる『お飾り妻』かと予想したけれど、初夜から普通に愛された。それからも公爵様は面倒見が良くとっても優しい。  ……けれど。 「あんたなんて、ただのお飾りのお人形のクセに。だいたい気持ち悪いのよ」  自分は愛されていると誤解をしそうになった頃、メイドからそんな風にないがしろにされるようになってしまった。  暴言を吐かれ暴力を振るわれ、公爵様が居ないときには入浴は疎か食事すら出して貰えない。  そのうえ、段々と留守じゃないときでもひどい扱いを受けるようになってしまって……。  そんなある日。私のすぐ目の前で、お仕着せを脱いだ美人メイドが公爵様に迫る姿を見てしまう。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ
恋愛
私が暮らすエーネ国は長い間隣国と戦続きだった。 長い戦を勝利に導いたのは一人の騎士。近い将来次期王宮軍騎士隊長になるだろうと噂されていた侯爵家次男のリーストファー副隊長。 この度の戦で右足を負傷し杖無しでは歩く事も出来ないと聞いた。 今私の目の前には陛下の前でも膝を折る事が出来ず凛と立っているリーストファー副隊長。 「お主に褒美を授与する。何が良いか申してみよ」 「では王太子殿下の婚約者を私の妻に賜りたく」 え?私? 褒美ならもっと良い物を…、爵位とか領地とか色々あるわよ? 私に褒美の価値なんてないわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

処理中です...