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肆章 氷雪の国・スノーメイル

四十三話、優しいんだな、竜は

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「終わりだああああ!!!」


フェイクガルム達と格闘する事、数十分。漸く全部を燃やし尽くして、大きく息を吸う事が出来た。


「はあ…はっ…風華、ヴィクトール、無事か…」


「俺はな…!」


切羽詰まった様なヴィクトールの声に、ハッと振り向くと、不思議なナニカに包まれた風華の姿があった。


「これは!?」


「フウカはこの土壇場で自然の魔力を使い始めた。本当に末恐ろしい才能だ…」


「瘴気もこんなに…風華は大丈夫なのかよ」


「…分からない」


ヴィクトールの言葉に体中の血の気が引くのが分かった。喉からもヒュッと引き攣った音が響く。


「だが…竜は何とかなりそうだ」


「マジかよ…こんな巨体を…」


「半分以上、フウカがやってくれたよ」


杖に体を預けても尚、風華はずっと竜に魔力を送っている。何なら、意識なんてとうの昔に無くなってるだろうに…何がお前を其処まで必死にさせてるんだ…


「…動くぞ!」


「ッッ!?」


ヴィクトールの声に、反射的に体を動かして竜から距離を取った。酷い地響きに思わず耳を塞ぐ。クッソ、風華回収し損ねた!!


“ありがとう、人の子。貴女達のお陰で、やっと春を呼ぶ事が出来る”


優しい声だった。泣きたくなるくらいあったかくて、母上みたいに優しい声。春告の竜は…女性だったのか…


「はは、何が恐ろしい邪竜だよ。すげえ優しい目してんじゃんか」


「春告の竜。この国は既に災厄に呑まれ始めている。貴殿の力が必要だ。どうか、貴女を命を懸けて助けんとした我が生徒に免じ、人々の行いに今一度目を瞑って頂けないか」


「まだこの国には、春告の竜を信じてる奴も居るんだ。勿論、アンタを陥れたクソ共がいるのも分かってる…でも…」


“分かっています。人の子”


竜は、俺の言葉を遮って、そっと頭を近付けて来た。よく見ると、桜色の綺麗な目だ。体は真っ白で、鱗も所々桜色。さっきまで、黒い体だったのが嘘みたいだ。


“しかし、今国に蔓延っている瘴気の魔獣は、私だけで対処出来ない。後少し、私に力を貸して下さい”


「…嗚呼、勿論だ」


「ライハ。お前は先に行って国を守れ。小さな国だが、あの三人では限界がある。俺はもう少し魔力を回復させてから行く。フウカは…」


“この子は私が護ります。空は一番安全です”


さっき、洞窟に来た奴らをぶっ飛ばしまくったけど、外はもっとヤバいって事だよな。なら、とっとと行かねえと、せんせー達も体力的にキツいか。


「春告の竜。俺の片割れをよろしくな」


“勿論。私の命を助けてくれたこの子は、必ず無傷で帰しましょう”


「ありがとう。俺は先行くぜ。ヴィクトールも早くしろよ!」


ヴィクトールの返事を待たずに駆け出した。さっきからサラマンダーが忙しないって事は、外で火を使ってるんだろう。なら、早く行かねえと防衛ライン突破されかねねえよな!!
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