踏み出した一歩の行方

たがわリウ

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もう一度きみと

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「なぁ、もう一度キスしてみるか」
「え?」

速かった心拍もおさまり落ち着きを取り戻してきた俺は横を向き空に声を投げる。
俺の提案に空は目を見開いた。驚きが伝わってくる。

「動揺してるからとかじゃないからな」
「じゃあどうして……」
「……さっき先輩に触られた時はなんかすげぇ嫌で、気持ち悪かった」
「うん」
「でも空とのキスはそういう感じじゃなかったんだよ」
「それは、友達だからじゃないの?」
「それを確かめたい」

自分の中で何度も繰り返し考えても、空への感情がわからなかった。けれどそれは気づいていなかっただけかもしれない。今はもう、空への気持ちに確信があった。

「……正直に言うと、睦月とキスできるならしたいよ。でも睦月が友達の延長としてそういう気になってるなら、睦月も俺も辛いだけだよ」
「お前本当に良い奴だな。俺にはもったいねぇよ」

思ったままをそのまま言うと、空は喜べばいいのか否定すればいいのか迷っているように眉を下げた。

「あのミスコンの先輩に嫉妬したって言ったら?」

空の瞳の中に驚きが浮かび、言葉の意味を理解するかのように黙る。

「空の隣には俺がいたいし、俺の隣には空がいて欲しい」
「睦月……」

最初は空の気持ちを知らずに友達のまま、ただ楽しい関係が続けばよかったと思った。
けれど今は、友達のままでは居られないような、特別な感情があることに気づいている。

「じゃあするよ?」
「あぁ」

ゆっくりと空の整った顔が近づいてくる。距離が縮まる度に、落ち着いた心臓がまたうるさく鼓動を刻んだ。
しかしそれはさっきまでの嫌な痛みではなく、体温を上昇させるもの、期待を含むものだ。
息が触れる近さで目を閉じる。そのまま待っている俺の唇に、柔らかい唇が触れた。一瞬触れ合った唇はすぐにまた離れる。

「どう?」

嫌な気持ちはしない。それどころか、離れることが名残惜しく、もっとしたいと思う。

「好きだ。この前はごめんな」

確信を持った気持ちを空に告げる。優しいタレ目が見開き、そして嬉しそうに緩んだ。

「嬉しい。俺も好きだよ、睦月。大好き。でもこの前は俺の方こそごめんね」

照れを含む笑みが俺にも移り、口元がにやけてしまう。空との気持ちの重なりに、胸に暖かなものが広がり、頬に熱が生まれた。

「もっとしたい」
「ちょっと待って、耐えきれない」

もう一度顔を近づけようとした俺の肩が押されて、抑えられる。俺と同じように顔を赤くした空は大きく息を吐き出すと、俺の肩から手を離した。

「睦月、ありがとうね」

俺の方こそ、と言おうとした唇がまた塞がれる。押し付けられ、ふにふにと感触を楽しんだ唇は、数秒経って離れる。
すっかり熱っぽくなった視線を絡めた俺達は、どちらともなくまた唇を寄せ、しばらくふたりでのキスに夢中になった。
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