summer summer!

たがわリウ

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本編

07

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「明はベッドの方が慣れてるよな? 俺は布団で寝るから、明はベッド使ってくれ」

ベッドが置いてある部屋とダイニングは分かれている。寝るのは別の部屋がいいだろうからと、俺の布団はダイニングに用意する予定だった。しかし、すぐに明に呼び止められる。

「ありがと。でも、実は時差ボケで……寝れないかも……」
「え? 大丈夫か?」
「うん。隣に人がいてくれたら眠れるかもだから、成海くんも一緒にベッドで寝てくれない……?」
「え、俺も?」

想定外の言葉に、俺はぽかんと明を見る。まさか一緒のベッドで寝るなんて、考えてもいなかった。
もしかして普段は誰かと一緒に寝ているのだろうか。明と同じくらい素敵な、恋人とか──。
恋人と抱き合いながら眠る明を想像して、どうしてか胸がちくりと痛んだ。なんだ、いまの?
理由の分からない痛みに戸惑っているうちに、端正な顔に覗き込まれる。

「昔は一緒に寝てくれたじゃん……ダメ?」

確かに昔はふたり同じベッドで眠っていた。けれど時が経ち、俺たちの体は大きく成長している。
子供だったから一緒に寝ても違和感がなかったんじゃないかと思ったが、結局俺は頷いてしまった。どうやら明のお願いには弱いらしい。

「わかった。じゃあ電気消すな」
「よかった、ありがとう、成海くん」

準備していた布団を出すことはせず、明と一緒にベッドに横になる。一人暮らしをする際に祖父母が買ってくれたセミダブルベッドのおかげで、狭くても落ちることはなさそうだ。

「おやすみ」
「うん、おやすみ」

さすがに向かい合うことは出来ず、俺は明に背を向ける。おやすみと言った後はどちらも喋ることはなく、静かな夜が広がった。
耳が痛いほどの静寂に、どうしても後ろの明を意識してしまう。すぐそばの気配、ぼんやり感じる熱、微かに上下する体。
明と一緒に寝ているんだと思うと、引越しを告げられた日を思い出した。あの日、俺は寂しさを感じると共に、強く、まだ明と一緒にいたいと思った。
どうしてあんなに離れたくなかったんだろう。明といる日々が楽しくて宝物だったからだろうか。俺にとって明は親友のようなものだから?
思い浮かんだ親友という言葉には、少し違和感がある。親友というより家族にちかいだろうか。けれど、家族とも少し違う。
なんだっけ、この感覚。この感情はなんていうんだっけ。
胸の一番奥、誰にも、自分にも触れられたくない部分に手がかかり、言葉にならない不安が訪れる。
明は大切な存在で、友達とも家族とも違って──。
もう少しで答えが出そうな俺を、小さな声が呼んだ。

「……成海くん、寝た?」
「ううん」

まるであの日をなぞるかのように、明は俺の様子を窺った。声を返したからか、少しほっとした気配がする。

「ねぇ、もうちょっと、そっちいってもいい?」
「……うん」

ふたりの体は十分近いのに、なんでもっと近づくんだろう。浮かんだ疑問は声には出さず、半ば無意識に頷く。
布ズレの音とともに擦り寄ってきた明は、俺の腹に手をまわした。後ろから抱きしめられ、俺は体を硬くする。
布越しの体温、すぐ後ろで繰り返される呼吸、何かは分からないけど香る良い匂い。
一瞬で全身が熱くなり、息すら浅くなる。

「成海くんの体温、安心する」
「そ、そうか……」

声と共に吐き出された息が首にあたって、俺はさらに体を熱くする。どくどくと刻まれる鼓動がやけに大きく感じ、うるさかった。
俺が知る明は、どこか遠慮がちな少年のままだ。あの頃の明は何かしたいことやして欲しいことがあっても、自分から口にすることは珍しかった。
どうして明は、こうして俺に触れるのだろう。明と俺は離れた土地にいたから、感覚が違うのだろうか。重ならない数年間を実感する度、俺は少し寂しくなる。もし同じ土地に住んでいたとしても、成長するごとに感覚は変わっていくのに。
落ち着かない心音を感じながら、俺は重くもない瞼を無理やり閉じた。
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