4 / 20
本編
04
しおりを挟む
「AKI、忘れ物はない?」
「あぁ」
「久しぶりの再会でしょ? 良かったね」
「……あぁ」
明の変わりように、俺は言葉を失う。
仕事仲間の女性にそっけなく答える明は、俺の知らない人だった。
明はあまりプライベートを公表していない。数少ないインタビューやSNSでクールな性格になったことは知っていた。
でも俺は、自分の中にいる昔の明を変えることが出来なくて、仕事の時は素を隠しているだけなんだと思っていたのだ。
あの明はもういないのだと現実を突きつけられ、俺は勝手にショックを受ける。
「あ、この車です。ふたりとも乗って」
「はい……失礼します」
これから一ヶ月、大丈夫だろうかと不安を大きくしたところで、ワゴン車に着く。
さっさと後部座席に乗り込んだ明とは違い、俺はその場に立ち尽くした。
「えっと……」
こういう時、俺はどこに乗ればいいのだろう。
助手席? それとも明の隣?
運転席でナビを弄る女性は、立ち尽くす俺に気づかない。
道案内もするし助手席の方がいいのかなと思っていると、明が体を横にずらした。
「成海くん」
手が下から上にクイッと曲がり、手招きされる。
あまりにも様になる格好良さに感動しながら、明の隣へ乗り込んだ。
「ナビはセットしておいたけど、道が変だったら言ってね」
「はい、わかりました」
知らない車、久しぶりの再会と、初対面の年上の人。
緊張で硬くなった俺を乗せた車が、ゆっくり発進する。
「……」
明は外を見ていると思ったら何度かこっちに視線を向けていたけど、口を開くことはなかった。
ウィンカーの音しかない車内に、気まずさが広がる。
手持ち無沙汰に外を眺めながら、早く家に着いてくれと願った。
「この部屋。あ、これ明の分の鍵。何でも自由に使っていいから」
部屋の前で明に鍵を渡す。手のひらに乗せられた鍵をじっと見た明は、大事そうに握りしめた。
嬉しそうな反応に、ますます明がわからなくなる。
部屋の鍵を開けた俺は、先に明を中に入れた。大きなトランクを引いた明が部屋に入る。俺も続き、ドアを閉めると、大きな体が振り返った。
「成海くん!」
「え、うわっ!」
振り向いた明に、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。突然の変わりようと近さに、俺は鼓動を速くした。
昔は俺のほうが背が高かったのに、今では明のほうが頭ひとつ分大きい。
忙しない心音を感じながら、こいつこんなに大きくなったのかと、離れていた時間を実感した。
「成海くん、会いたかった……あれからずっと会いたかったんだよ」
「……そっか」
「成海くんは? 俺に会いたかった?」
「……会いたかったよ」
「ほんとに?」
「ほんとに」
抱きついていた体が少し離れる。サングラスを外した明は俺の顔を覗き込んだ。
ずっと写真で見てきた整った顔がすぐ近くにあり、じわじわと首に熱が広がる。
「成海くんの部屋に泊まりたいなんて迷惑言ってごめん。でもこのひと月は、成海くんとできる限り一緒に居たかったんだ」
「べつに、迷惑じゃないよ。……俺も明と会いたかったし」
素直に口にするのは恥ずかしいけど、俺が知る彼に戻った明に、自然と気持ちを伝えていた。
嬉しそうな明がまた俺の体を抱きしめる。
「……なぁ、暑いから部屋入らないか」
「うん。でも、もうちょっと成海くんを堪能させて」
外国に住んでいる明とは違い、こっちはハグに慣れていないのだ。
堪能するという言葉の通り、俺の肩口に顔を埋め大きく息を吸う明。
俺はただ、緊張と恥ずかしさと、昔の明に会えた喜びで、体を熱くした。
「あぁ」
「久しぶりの再会でしょ? 良かったね」
「……あぁ」
明の変わりように、俺は言葉を失う。
仕事仲間の女性にそっけなく答える明は、俺の知らない人だった。
明はあまりプライベートを公表していない。数少ないインタビューやSNSでクールな性格になったことは知っていた。
でも俺は、自分の中にいる昔の明を変えることが出来なくて、仕事の時は素を隠しているだけなんだと思っていたのだ。
あの明はもういないのだと現実を突きつけられ、俺は勝手にショックを受ける。
「あ、この車です。ふたりとも乗って」
「はい……失礼します」
これから一ヶ月、大丈夫だろうかと不安を大きくしたところで、ワゴン車に着く。
さっさと後部座席に乗り込んだ明とは違い、俺はその場に立ち尽くした。
「えっと……」
こういう時、俺はどこに乗ればいいのだろう。
助手席? それとも明の隣?
運転席でナビを弄る女性は、立ち尽くす俺に気づかない。
道案内もするし助手席の方がいいのかなと思っていると、明が体を横にずらした。
「成海くん」
手が下から上にクイッと曲がり、手招きされる。
あまりにも様になる格好良さに感動しながら、明の隣へ乗り込んだ。
「ナビはセットしておいたけど、道が変だったら言ってね」
「はい、わかりました」
知らない車、久しぶりの再会と、初対面の年上の人。
緊張で硬くなった俺を乗せた車が、ゆっくり発進する。
「……」
明は外を見ていると思ったら何度かこっちに視線を向けていたけど、口を開くことはなかった。
ウィンカーの音しかない車内に、気まずさが広がる。
手持ち無沙汰に外を眺めながら、早く家に着いてくれと願った。
「この部屋。あ、これ明の分の鍵。何でも自由に使っていいから」
部屋の前で明に鍵を渡す。手のひらに乗せられた鍵をじっと見た明は、大事そうに握りしめた。
嬉しそうな反応に、ますます明がわからなくなる。
部屋の鍵を開けた俺は、先に明を中に入れた。大きなトランクを引いた明が部屋に入る。俺も続き、ドアを閉めると、大きな体が振り返った。
「成海くん!」
「え、うわっ!」
振り向いた明に、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。突然の変わりようと近さに、俺は鼓動を速くした。
昔は俺のほうが背が高かったのに、今では明のほうが頭ひとつ分大きい。
忙しない心音を感じながら、こいつこんなに大きくなったのかと、離れていた時間を実感した。
「成海くん、会いたかった……あれからずっと会いたかったんだよ」
「……そっか」
「成海くんは? 俺に会いたかった?」
「……会いたかったよ」
「ほんとに?」
「ほんとに」
抱きついていた体が少し離れる。サングラスを外した明は俺の顔を覗き込んだ。
ずっと写真で見てきた整った顔がすぐ近くにあり、じわじわと首に熱が広がる。
「成海くんの部屋に泊まりたいなんて迷惑言ってごめん。でもこのひと月は、成海くんとできる限り一緒に居たかったんだ」
「べつに、迷惑じゃないよ。……俺も明と会いたかったし」
素直に口にするのは恥ずかしいけど、俺が知る彼に戻った明に、自然と気持ちを伝えていた。
嬉しそうな明がまた俺の体を抱きしめる。
「……なぁ、暑いから部屋入らないか」
「うん。でも、もうちょっと成海くんを堪能させて」
外国に住んでいる明とは違い、こっちはハグに慣れていないのだ。
堪能するという言葉の通り、俺の肩口に顔を埋め大きく息を吸う明。
俺はただ、緊張と恥ずかしさと、昔の明に会えた喜びで、体を熱くした。
1
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【R18/BL】激情コンプレックス
姫嶋ヤシコ
BL
小さな頃から仲良しだった悠と伊織。
お互いに成長し、伊織の華々しいモデルデビューを複雑な心境で見守る悠だったが、今までと関係は変わらないと言ってくれる伊織に安心していた。
けれど、とある出来事を切っ掛けに二人の距離は離れ、絶交状態に。
その後、縁あって悠も伊織と同じ業界へ入り、今では一、二を争うモデルとして活躍をしていた。
そんな時、悠の元に伊織の所属する事務所からしつこい程にオファーが届き始める。
自分から手を離したくせに今更何をと取り合わない悠だったが、自分の知らない所で次第に周囲を巻き込んでしまい……。
※エブリスタ、ムーンライトノベルにも掲載中
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
罰ゲームから始まる不毛な恋とその結末
すもも
BL
学校一のイケメン王子こと向坂秀星は俺のことが好きらしい。なんでそう思うかって、現在進行形で告白されているからだ。
「柿谷のこと好きだから、付き合ってほしいんだけど」
そうか、向坂は俺のことが好きなのか。
なら俺も、向坂のことを好きになってみたいと思った。
外面のいい腹黒?美形×無表情口下手平凡←誠実で一途な年下
罰ゲームの告白を本気にした受けと、自分の気持ちに素直になれない攻めとの長く不毛な恋のお話です。
ハッピーエンドで最終的には溺愛になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる