12 / 16
特別な夜
しおりを挟む
「……ルーフスさんと一緒にいられる日々を僕もずっと願っていました。ルーフスさんのことが好きです。これからは恋人として一緒にいてください」
「っ! 賢者様……」
魔法の光で照らされたルーフスさんの顔に驚きが広がり、次に喜び、切なさが浮かぶ。僕も同じような顔をしているのだろうなと思った。
焦がれる想いを抑えきれず、僕はルーフスさんの手を取る。籠手の感触は硬く冷たいけど、素手で握りあいたいわけじゃない。ルーフスさんの手を取れることが嬉しかった。
幸せを携え見つめあっていると、ルーフスさんが何かに反応する。顔を向けた先を見ると人の気配がした。
「ルーフス、ここにいたのか……ヒロナ? そなたも一緒だったとは」
「殿下。祭を陛下とお楽しみになっていらっしゃるのでは……」
バルコニーにやって来たのはロズア王子だった。
確か今夜は空中庭園から陛下と祭を楽しむ予定だったはず。「少し時間ができたのだ」と口にしながら王子は近づいてきた。
しかしすぐに、こちらへ歩いていた足が止まる。重なる僕らの手に目が向けられた。
「っ、そなたら、ついに……!」
目を見開いた王子の顔に満面の笑みが広がる。王子にこの気持ちを気づかれているだろうとは思っていたが、想像以上の喜びようだった。
祝福されるのは嬉しくもあり、照れで気恥ずかしくもある。
「そうかそうか……じれったさに気を揉んでいたが、思いが通じ合うのは嬉しいものだな」
「殿下のご配意のおかげでございます」
「いいや、私ができたのは些細なことだ。そなたらが己と互いに向き合ったからこそのもの。今宵は任は気にせず楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
何か用事があったわけではないのか気を使ってか、王子はすぐにバルコニーを後にした。再び僕とルーフスさんだけになるが、どこかくすぐったい空気が残っている。
「殿下もお喜びくださり嬉しいですが、なんだか照れますね」
「ええ……そうですね」
二人きりの静かな夜に戻り、僕たちは微笑み合う。大きな幸福に浸っていると、重ねたままだった手が握られた。
「お慕いしております、賢者様」
喉が熱くなる。紫色の瞳が真っ直ぐ僕に向けられている。
自然と僕たちは体を寄せた。背の高いルーフスさんは屈み、僕は踵を浮かす。
息が触れ、もう少しで唇も触れるところで、ルーフスさんの迷いを感じた。
「賢者様、もしお嫌でしたら……」
「僕はしたいです」
「っ」
空気が揺れる。今までルーフスさんが歳下であることを意識したことはほとんどなかったが、どこまでも誠実な彼を愛おしく思った。
いつも堂々と静かな強さを滲ませている彼のギャップに胸がときめく。
僕の言葉を聞いたルーフスさんは意を決したようにまた体を動かした。ついに唇が触れ合う。
「ん……」
ルーフスさんとキスをしている。好きな人と結ばれた。言葉にできない喜びや恋しさが唇からすべて伝われば良いのにと思う。
僕がこの世界に来たのは賢者として活躍するためではなく、この人と愛し合うためだったのではないかと思うほどに浮かれていた。
それほどまでに愛しい気持ちがどんどん溢れてくる。
ただ触れ合わせるだけだった唇がゆっくり離れた。
「……幸せすぎてすべてが夢なのではと思ってしまいます」
「僕もさっき全部が魔法なんじゃないかと考えました」
照れ笑いする僕たちの上からひらひら花びらが降ってくる。少しだけ魔力を巡らせ微かな風を発生させると、花びらは落ちることなく宙に浮いた。
「こちらの花弁は祭の演出ですか? 賢者様の魔法ですか?」
「どちらもです」
無数の花びらと光に囲まれた僕たちはまた顔を近づかせる。
好きな人との夜をさらに特別にできるなら、魔法の腕を磨いておいて良かったと心から思った。
「っ! 賢者様……」
魔法の光で照らされたルーフスさんの顔に驚きが広がり、次に喜び、切なさが浮かぶ。僕も同じような顔をしているのだろうなと思った。
焦がれる想いを抑えきれず、僕はルーフスさんの手を取る。籠手の感触は硬く冷たいけど、素手で握りあいたいわけじゃない。ルーフスさんの手を取れることが嬉しかった。
幸せを携え見つめあっていると、ルーフスさんが何かに反応する。顔を向けた先を見ると人の気配がした。
「ルーフス、ここにいたのか……ヒロナ? そなたも一緒だったとは」
「殿下。祭を陛下とお楽しみになっていらっしゃるのでは……」
バルコニーにやって来たのはロズア王子だった。
確か今夜は空中庭園から陛下と祭を楽しむ予定だったはず。「少し時間ができたのだ」と口にしながら王子は近づいてきた。
しかしすぐに、こちらへ歩いていた足が止まる。重なる僕らの手に目が向けられた。
「っ、そなたら、ついに……!」
目を見開いた王子の顔に満面の笑みが広がる。王子にこの気持ちを気づかれているだろうとは思っていたが、想像以上の喜びようだった。
祝福されるのは嬉しくもあり、照れで気恥ずかしくもある。
「そうかそうか……じれったさに気を揉んでいたが、思いが通じ合うのは嬉しいものだな」
「殿下のご配意のおかげでございます」
「いいや、私ができたのは些細なことだ。そなたらが己と互いに向き合ったからこそのもの。今宵は任は気にせず楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
何か用事があったわけではないのか気を使ってか、王子はすぐにバルコニーを後にした。再び僕とルーフスさんだけになるが、どこかくすぐったい空気が残っている。
「殿下もお喜びくださり嬉しいですが、なんだか照れますね」
「ええ……そうですね」
二人きりの静かな夜に戻り、僕たちは微笑み合う。大きな幸福に浸っていると、重ねたままだった手が握られた。
「お慕いしております、賢者様」
喉が熱くなる。紫色の瞳が真っ直ぐ僕に向けられている。
自然と僕たちは体を寄せた。背の高いルーフスさんは屈み、僕は踵を浮かす。
息が触れ、もう少しで唇も触れるところで、ルーフスさんの迷いを感じた。
「賢者様、もしお嫌でしたら……」
「僕はしたいです」
「っ」
空気が揺れる。今までルーフスさんが歳下であることを意識したことはほとんどなかったが、どこまでも誠実な彼を愛おしく思った。
いつも堂々と静かな強さを滲ませている彼のギャップに胸がときめく。
僕の言葉を聞いたルーフスさんは意を決したようにまた体を動かした。ついに唇が触れ合う。
「ん……」
ルーフスさんとキスをしている。好きな人と結ばれた。言葉にできない喜びや恋しさが唇からすべて伝われば良いのにと思う。
僕がこの世界に来たのは賢者として活躍するためではなく、この人と愛し合うためだったのではないかと思うほどに浮かれていた。
それほどまでに愛しい気持ちがどんどん溢れてくる。
ただ触れ合わせるだけだった唇がゆっくり離れた。
「……幸せすぎてすべてが夢なのではと思ってしまいます」
「僕もさっき全部が魔法なんじゃないかと考えました」
照れ笑いする僕たちの上からひらひら花びらが降ってくる。少しだけ魔力を巡らせ微かな風を発生させると、花びらは落ちることなく宙に浮いた。
「こちらの花弁は祭の演出ですか? 賢者様の魔法ですか?」
「どちらもです」
無数の花びらと光に囲まれた僕たちはまた顔を近づかせる。
好きな人との夜をさらに特別にできるなら、魔法の腕を磨いておいて良かったと心から思った。
81
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
俺の魔力は甘いらしい
真魚
BL
〜俺の魔力って甘くて、触れた相手の性的快感をメチャクチャ高めてしまうらしい〜
【執着ノンケ騎士×臆病ビッチ魔術師】
親友ルイへの叶わぬ想いを諦めて、隣国に逃げていたサシャは、母国からの使節団の一員として現れたルイと再会してしまう。「……なんでお前がここにいる……」サシャは呆然としつつも、ルイのことをなんとか避けようと頑張るが、男を好きであるとも、セフレがいることもバレてしまう。
ルイはそんなサシャのことを嫌悪するようなことはなかったが、「友人とセックスするなら、親友としたっていいじゃないか」とか言い出してきた。
ヤバい。大事な親友が俺の魔力にあたって正気を失っている……
逃げ腰なサシャと、無自覚に執着してくるルイのもだもだストーリーです。前半ドM展開多めです。8話完結。最終話にR18描写あります。
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について
東川カンナ
BL
失恋確定でヤケを起こした美貌の騎士・シオンが娼館で浴びるほど酒を煽っていたら、何故かその現場に失恋相手の同僚・アレクセイが乗り込んできて、酔っぱらって訳が分からないうちに“お仕置き”と言われて一線超えてしまうお話。
そこから紆余曲折を経て何とか恋仲になった二人だが、さらにあれこれ困難が立ちはだかってーーーー?
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
異世界は醤油とともに
深山恐竜
BL
俺が異世界に転移したときに女神から与えられたのは「醤油精製」――左手の中指から醤油を自在に出せるようになるスキルだった!? 役立たずの外れスキルにより、俺は生活に困っていた。
そんなある日、このスキルに興味があるという料理人シッティに頼まれ、彼に「和食」を教えることに。
俺は知識を振り絞ってちゃんとした料理、ときには簡単ずぼら一人男飯をシッティに教え、彼と食卓を囲む日々を送る。
優秀なシッティは次々と和食を完成させていくが、実は彼は王宮料理長で、和食が王宮を巻き込んでの騒動のきっかけに……?
几帳面な年下料理人×異世界転移したずぼらおっさん
【完結】ツンデレ妖精王が、獅子だけど大型ワンコな獣人王にとろとろに愛される話
古井重箱
BL
【あらすじ】妖精王レクシェールは、獣人王ガルトゥスが苦手である。ある時、レクシェールはガルトゥスに熱いキスをされてしまう。「このキスは宿題だ。その答えが分かったら、返事をくれ」 ガルトゥスの言葉に思い悩むレクシェール。果たして彼が出した答えは——。【注記】妖精王も獣人王も平常時は人間の青年の姿です。獅子に変身するけど大型ワンコな攻×ツンデレ美人受です。この作品はアルファポリスとムーンライトノベルズ、エブリスタ、pixivに掲載しています。ラブシーンありの回には*をつけております。
【完結】亡国の王子、砂漠の王に求愛される 〜僕はお嫁さんじゃなくて、きみの戦友になりたいんだが〜
古井重箱
BL
【あらすじ】革命によって王太子の座を追われたウィルレインは、砂漠のオアシスにある娼館に売られる。死を望むウィルレインを救ったのは、砂漠を統べる傭兵王リシャールだった。ウィルレインはリシャールの居城に招かれ、オアシスで働くようになる。リシャールの戦友になりたいと願うウィルレイン。しかしリシャールは「俺の嫁になれ」と熱い想いを捧げてくるのだった。【注記】豪快だけど純情な傭兵王(20)×美人だけどたくましい亡国の王子(18)。冒頭にモブとの絡みあり。(モブによる手コキ、モブの目の前で射精、モブによる視姦)モブとの本番行為はありません。R18シーンを含む回には*をつけております。この作品は、アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる