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脱出

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 鋭い視線が突き刺さった。隙のない立ち居振る舞いが、抵抗は無駄だと思わせる。
 どうする。何か魔法で突破できないか。頭をフル回転させるが、戦闘経験も貧しい自分がどう動いても、怯える人々を守りきることはできないだろうと思った。それなら――。

「お前たちも来い」

 顎で示されたのは他の人達がうずくまっている場所だった。どうするんだと隣からの視線を感じながら、ゆっくり移動する。商人の男性も僕に倣った。

「そうだ、そのまま大人しくしろよ」

 今、僕一人で動いても全員を助けられる可能性は低い。それなら焦らず待って、どこかのタイミングで動けばいい。帰りが遅くなれば城の誰かが気づいてくれるかもしれない。
 予期せぬ事態に速まる鼓動をなんとか落ち着かせようと、深い呼吸を繰り返す。脳裏には「気をつけて行ってきてくれ」「無事にお戻りください」と僕のことを気にかけてくれた王子とルーフスさんの顔が浮かんだ。



 ホコリとカビ臭い匂いが充満していた。薄い木の板でできた簡素な小屋には窓がないため薄暗い。別の部屋にいるならず者たちの話し声がくぐもって聞こえた。

「あんた城に仕えてるんだろう? なんとかならないのか?」
「もう少しお待ちを」
「もうずっと待ってる」

 再びまくしたてるように商人の男性は僕を急かした。騒いでいると思われないよう、小声でやりとりをする。

「これからどうなるの?」
「家に帰らせてくれ……」

 床に座り込んでいる全員が恐怖や焦燥を滲ませていた。荷物を取り上げられ、両手首は紐で縛られている。
 幸いなことに足や体は固定されなかったため、立ち上がれば歩けそうだった。

「なぁ、なんとかしてくれ。どこかに売られるなんてごめんだ」
「少し集中させてください」
「集中? 少しってどれくらいだ?」

 喋り続ける商人の質問に答える余裕はなかった。この部屋に放り込まれ、男たちがいなくなった時から僕は壁に向かって座り、手のひらを押し当てている。
 もう一つ幸運だったのは、魔法を扱える人間がいることに気づかれなかったことだ。
 怯える人々の囁きや浅い呼吸、商人の声から意識を逸らす。心の中で「落ち着け」と繰り返しながら集中した。

「あと少し……」

 体の中を魔力が巡る。魔力の量を調整しながら、手のひらに注いでいく。グッと手に力を込めると、まるで紙粘土のように壁はポロポロと崩れた。
 上手くいったらしい。人が一人通れる程の穴ができた。

「あんたすごいな!」
「これは……魔法か?」
「お静かに。皆さん、気づかれないうちに一人ずつ脱出してください」

 突然開いた穴にざわついてしまったが、僕の声に反応した数人が皆を立たせてくれた。一人ずつ誘導し、音に気をつけながら脱出していく。

「俺も行かせてもらうぞ」
「はい、僕は最後に出ます」

 残り数人になったところで商人の男性も穴を通っていった。このままいけば無事に皆脱出できる。そう思った時、突然轟音と叫び声が聞こえた。

「っ! なんだ?」

 脱出に気づかれたのか、仲間割れか。外で何が起きたのかはわからない。他の部屋から勢いよくならず者たちが外に出ていったのが気配でわかった。
 怒鳴るような声や地鳴りのような音、金属がぶつかる音はこの部屋とは反対、小屋の正面の方から聞こえてくる。それなら今のうちにと、残っていた数人を急いで外に出した。
 あとは自分だけ。早く外に出て誘導をしなければ。こちらに向かってくる足音が聞こえたため慌てる。
 穴をくぐろうと体を屈めた瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。咄嗟に振り返り、入ってきた人物を見る。そこにいた人物を見て、僕は目を丸くした。
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