ひとりじめ

たがわリウ

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本編

くすぐったい朝

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 瞼の奥に眩しさを感じゆっくりと目を開く。視界に入ってきたのは柔らかな朝日と、俺を見つめるゼンさんの目を細めた笑みだった。

「起きたか」
「ん……おはようございます」
「おはよう」

 ゼンさんの指が優しく俺の髪をすべる。その心地良さにまた瞼が下がってしまいそうだ。
 昨日は結局帰らないでくれと引き留められ、あのままここに泊まらせてもらうことになった。ゼンさんの部屋のベッドで、隣にはゼンさんがいて、シーツの下の俺の体は裸。
 昨日までは会社で部長としてのゼンさんにしか会えなかったのにこんな朝を迎えると、恋人になったんだなと強く実感する。

「朝食の準備をする。コーヒーでも飲みながらゆっくり支度してくれ」
「ありがとうございます」

 体を起こしたゼンさんはきちんと服をきているため既に起きていたのだとわかった。ゼンさんがベッドから降りると広いベッドがさらに広々とする。俺も上半身を起こすと、ベッドサイドのミニテーブルにコーヒーの入ったマグカップと、ミネラルウォーターのペットボトルが置かれているのが見えた。
 なんかここまで甘やかされてしまっていいんだろうかと思う。昨夜のベッドの上でも、ゼンさんが欲求を満たしたいというより、俺を気持ち良くさせたいという想いが存分に伝わってきた。
 昨日の甘ったるい声、視線、手の動きを思い出してしまい、自然と顔が熱くなる。自分がどんな反応をしたかまで思い出す前に急いで思考をストップさせて、シーツの上で丸まっていたシャツを手に取った。
 広げて頭から被る。俺の服は洗濯してもらっているため昨夜ゼンさんから借りたシャツは大きくて体格の違いを実感する。シャツは日本人男性の平均的な身長である俺の太ももまでを隠している。
 見えはしないがスースーするため下着が乾いていたら履きたい。でも下着を履いてもすぐに脱がされてしまいそうな予感を抱きつつ、ベッドから降りて洗面所に向かった。



「ご馳走様でした。すごく美味かったです」
「それは良かった」
「部長料理もできるんですね」
「……今は部長ではないんだがな」
「あ、すいません。もう癖になってて」

 癖が抜けずに部長と呼んでしまうとゼンさんは困った顔で笑う。今はまだ部長と呼ぶ方がしっくりくるけど、これからはゼンさんと呼ぶ癖がついていくのだろうか。

「ゼンさんいつも朝はこんな感じなんですか?」
「いや、ひとりだとコーヒーだけのときが多い。ミキサーなんて買ったことを忘れていた」

 ゼンさんが用意してくれたのは、香ばしいベーコンにふわふわなスクランブルエッグ、トースト、サラダに野菜スムージーだった。
 生活感のない綺麗で広々とした部屋でこんな上質な朝ごはんが出てきて、まるでホテルのルームサービスみたいだと思った。
 しかも向かい側にはTシャツにパンツというラフな格好のゼンさん。この状況が信じられなくてゼンさんを眺めていると何度も目が合って、その度に俺は胸が大きく軋んだ。なんだかすべてが恋人っぽくてくすぐったい。

「俺洗い物しますね」
「いや、春樹は座っていてくれ」
「こんなにお世話になってそれはできないです。それともゼンさん人に部屋のもの触られるの嫌ですか?」
「春樹なら大丈夫だ」
「じゃあいいですよね」

 食器をシンクに運ぶ俺にすまない、と声が掛かる。俺が食器を洗うことには折れてくれたゼンさんだったが、全部俺が運ぶという声は聞き入れられず、ゼンさんも食器をシンクへと運ぶ。

 泡立てたスポンジでシンクに置かれた食器を洗っている俺を、ゼンさんは隣でずっと見ていた。見られているとやりづらくて、何度か視線を向けるもゼンさんはそこから動かない。
 ゼンさんの視線に耐えながら洗い進めていると、残っている食器はスムージーの入っていたコップふたつだけ。あと少しだ、と思っている俺の体が、後ろから強く抱きしめられた。

「ゼンさん?」

 首だけで振り返り顔を横に向けると、熱い舌が俺の唇を舐める。もう少しなのにと思っている俺の唇が舌で押し開けられた。

「んんっ、ゼンさん、まだ、途中」
「これでも我慢したんだ」
「んっ」

 口内に侵入してきた舌は上顎をなぞり、くすぐったさと気持ち良さの混ざった感覚に声がもれる。呼吸もどんどん荒くなっていった。

「ふっ……ん、ぁっ」

 ぴちゃぴちゃと繰り返される深いキスの音をかき消すように、キスを続けながらゼンさんはシンクに水を流した。俺の手からスポンジが奪われ、すぐに水で手についていた泡を洗い流される。
 水を止めたゼンさんは濡れたままの俺の手を首にまわさせると、そのまま抱きかかえてキッチンから移動した。きっと降ろされるのはベッドだろう。朝食を食べただけでまたベッドに戻ることになるなんて。
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