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第83話 夜宴(2)

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眼下に見えるトウキョウドームから大きな爆発音がなる。
名家の人々に付き添っていた警護官の神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。

今日のトウキョウドームでは、野球のナイター試合が行われているようだ。
そう動員数は2万5千人~3万人近く観客がいるはずだと周りの人達が言っていた。

この宴会場に備え付けられていたテレビの放送が映し出される。
どこのチャンネルも緊急放送を流し、バラエティ番組がニュース番組に変わった。

『え~~今入ってきたニュースです。トウキョウ都にあるトウキョウドームで先程、大きな爆発音がありました。どうやらドーム内で何らかの爆発が起きたようです。今夜は、トウキョウ対ヒロシマのナイター試合があり、観客はおよそ2万8千人ほどが今日のナイター試合を観戦しているようです。では、その時の映像をご覧下さい』

その映像は、ナイター中継をしてたテレビ局のもので試合中、球団のマスコットが何かを台車に積んで運び込みいきなり大きな爆発音が上がって周辺が粉塵で見えなくなってしまった光景が映し出されていた。

「これはピカティニによる自爆テロか……」

ピカティニというのは液体爆弾のことである。
正式にはPLX(picarinny Liquid Explosive)と言い2種類の液体ニトロメタンとエチレンジアミンを混ぜる事によって爆発する仕組みになっている。

「お祖父様!」

狩野さんが百合子を連れてきたようだ。
百合子と同年代の女性が幾人もいる。

「ふむ、百合子か。儂の側から離れたらいかんぞ」
「はい」

そう返事を返す百合子は、少し震えているようだ。

すると、その時会場内のテレビが、ニュースからいきなり画面が変わった。
映し出されているのは黒頭巾を被った男である。

『ようこそ、皆さん、今夜は楽しい宴となるでしょう。我々は、トウキョウドームにいる選手と観客を人質にしている。我々の意思に反することが行われればこいつらの命はないだろう』

そこでカメラはドーム内を映し出している。
怯える観客がさーっと映し出された。
そして、一塁選手側の後方の観客席がアップされた。
そこにいたのは、鴨志田さん達、クラスメイトだった。

何で野球を見に行ってるんだ?
あれから直ぐに帰らなかったのか……

『どうだい、怯えた観客達の顔は気に入ったかい?では、また連絡しよう』

そう言って黒頭巾の男の映像が途絶えた。

テレビの映像が終わると聡美姉達が俺のところにやって来た。

「グーグ、デカい花火上がったネ」

メイはどことなくテンションが高い。

すると、今度は西音寺の爺さんがマイクを持って会場にいる人達に告げる。

「どうやらトラブルが起きたようだ。この場にいても構わないが、部屋に戻ってもいい。セキュリティは整えておる。皆の者は安心しておれば大丈夫だ」

「それはどうだかな!なあ、爺さんよ」

会場に身なりの良い男の背後から銃火器を持った男達が流れ込んで来た。

「公彦、お前……」

兵隊を連れて来たのは、雫姉とロッポンギのカフェバーで会ったことのある男、西音寺公彦だった。






兵隊を連れて来た西音寺公彦。
雫姉と金堂組の件で調査対象に上がった男だ。

こいつのやってた事は偽札作りのはずだったが何故、テロリストと一緒にいるんだ?

兵隊は5名、全員が中共製95式自動小銃を携帯している。

背後にいるのは、中共か?

周りの被害を考え無ければ制圧は簡単だが、ここにいるのは名家の人間と関係者達。
被害を出すわけにはいかない。

『ダダダダダダダダ!』

1人の兵隊が天井に向けて発砲した。威嚇、牽制のようだが、普段銃声に慣れてないもの達にとっては、その効果は計り知れない。

『キャッーー!』

会場中に響き渡る悲鳴。
弾丸が当たって吹き飛ぶコンクリート片。
空になった薬莢がバラバラと飛び散り、火薬の匂いが立ち込める。

「公彦、お前なんて事したのかわかっているのか?」

「わかってるさ。これからは若い奴らの時代だ。旧世代は引っ込んでればいい。それに、名家などくだらないものは、未来にはいらないんだよ。これからは、誰もが平等に暮らせる世界がやってくる。そして、この俺が日本、いや、いや世界の頂点に立つんだ。老いぼれ爺い共は揃って地獄に落ちればいい」

完全に逝っちゃってる奴の戯言だ。
平等な世界?その世界の頂点?
頂点が存在する事自体、平等ではないということがわからないらしい。

結局、この男は、日本、若しくは世界を自分の思い通りにしたいだけの欲にまみれたお子様らしい。

でも、待ってやる必要もない。
倒し方はいくらでもある。

俺が動き出そうとすると、俺の肩を掴む男がいた。
聡美姉の兄 藤宮天剣だ。

「待て、本体はこいつらではない。こいつらは斥候だ」

敵も藤宮家 北辰家の護衛がいる場所に5人で制圧出来るとは思ってはいない。
もし、制圧できれば御の字だというわけだ。

随時、警備隊から連絡を受けている天剣は、このホテルに侵入してくる族達を捉えていた。

「このままにしとくわけにもいかない」
「わかった、好きにしろ」

俺は移動する前にメイを探す。
彼女には護衛としてこの場にいて欲しかったからだ。
しかし、チラリと顔を見たのはメイではなく百合子の顔だった。
彼女も俺に目を向けたようで、お互いの目が合った。

動いてしまった以上、今更とめられない。
俺は腰にさしていた
ベレッタU22を抜き両手で構える。
狙うは95式自動小銃を手にしてる奴らのトリガーを弾く指だ。

ここからだと、角度の悪い奴が2人いる。
こいつらはアクションを起こした時に狙うことにする。
俺がいるの場所は最奥。
その前にはパーティーで来た人で溢れてる。
その先に武装連中がいる。


俺の銃が3発ほど鳴る。
パーティーで来た人の隙間をぬって弾丸は敵の3人の指を吹き飛ばした。
狙った奴らは、声を上げて呻いている。

どこから弾丸がきたのかわからぬ2人はパーティーに来てた人達に銃を向ける。
よし、見えた……
そして、もう2発。
武装してる奴の小銃を狙った。
その2人も声を上げて呻き出す。

でも、これだけでは制圧できない。
俺は銃を撃てないようのしただけだ。

そこへ会場に入ってから姿を見せなかった穂乃果が敵の背後にいる。
彼女は、立ってた西音寺公彦の股間を背後から思いっきり蹴り上げた。

『うぎゃ~~!』

突然、股間に激しい痛みを感じた西音寺公彦は、数回その場で飛び跳ねて蹲ってしまった。

俺も人混みを抜けて、敵の正面に向かう。
再び銃を構えようとする兵隊に向かって、一気に間合いを詰めて回し蹴りを首筋にぶち込んだ。

吹き飛ぶ1人の兵隊。
その兵隊を警備員の者が取り押さえ拘束する。

穂乃果も1人の兵隊顎を下から蹴り上げていた。
のけ反りながらその兵隊も吹き飛んでいた。

残りは3名。
だが、ジッとしていられなかったのだろう。
メイが、俺と同じ速度でその3人に近づき回転しながら両足を開いて蹴りをぶち込んだ。

アクロバット攻撃はメイの得意技だ。
3人はそれぞれ吹き飛び床に死んだカエルのようにピクピクと体を痙攣させていた。

北辰家の者がきて、西音寺公彦を背後から拘束している。
元、オリンピック選手のようでその締めから逃げ出すことはできないだろう。

俺が動き出してから、およそ1分18秒。
3分間しか戦えないヒーローよりは役に立ったと思う。

俺は銃を腰に戻して、メイと顔を見合わせた。
会場はホッとした空気が流れてる。

しかし、その時、1発の銃声が鳴りその弾は俺の立ってた足元に煙を立てて埋まっていた。
軌道から外からの狙撃だ。
窓ガラスが割れて弾が通過した部分だけ破れていた。

『パチパチパチ……』

俺に銃を撃ち込んだ男の手がなる。
会場にあったテレビがその光景を映し出している。
拍手はその黒頭巾の男が手を叩いていたものだ。

俺の身体は震えていた。

何故なら……

「カズキ、相変わらず君は凄いな」

懐かしい声。
俺が生きてこられたのは、この声の主のおかげだ。
だが、彼はあの時死んだはず……

「賢ちゃん、生きてたんだ……?」

「ああ、残念だが死神は迎えにこなかったんだよ」

俺はかつての友と画面越しで対峙していた。


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