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第82話 夜宴(1)

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『名家の集い』と言われる宴は、粛々と進行していった。
全体的な挨拶は最初だけで、後は個人同士の挨拶に移る。
総代と百合子の前には、挨拶を待つ人集りができている。

「カズ君、あそこにいるのが龍賀家の人達だよ」

名家のひとつである龍賀家、和服を着た婦人とその娘らしき双子の女の子がお付きの者と一緒にいる。

「男の人がいないようだが?」

「そうなんだよ。龍賀家は代々婿取りなんだよ。男が産まれても直ぐに亡くなってしまうという『龍賀家の呪い』みたいなものがあると聞いてるよ」

「そうなんだ……」

「そして、あちら側にいるのが北辰家、藤宮家が剣の一族なら北辰家は体術の一族と言われてたんだよ。柔道とかでオリンピック選手を何人も輩出してるんだ」

「通りでガタイが良い男性がいると思ったよ。それにしても、名家の本家の人間は出席してる人が少ないように感じるけど?」

「仕事で海外にいたりしてる人も多いからね。だから、その分家や支流の人が多く出席してるんだよ」

それで俺達が出席しても平気だったわけか……

「東藤くん、ちゃんと食べてる?」

そう問いかけてきたのは生徒会長だ。

「ああ、会長は挨拶に行かなくてもいいのか?」
「うん、お父さん達が行ってるからね。それに、目立つと変な虫が寄ってくるし」

社交の場でもあるこの宴は、家柄の良い人達の男女の出会いの場でもある。

「みんな家柄の良い人達なんだろう?良い出会いはあるかもしれないぞ」
「え~~とね。家柄の良い人って全てではないけど、それを鼻にかけてる人が多いのよ。私、そういうのはちょっと苦手かな」

確かにさっきの黄嶋家の分家の男達みたいなのは遠慮したい。
会長の妹葉月はメイ達と一緒にデザート類を漁ってる。
いつの間に聡美姉と雫姉も加わっている。
メイと葉月は、明日からは同じ学園の生徒だ。
仲良くなってくれれば嬉しい。

「それより、これ、随分性能が良いのだけど、東藤くん、もし、私の姿見たら許さないからね」

会長はスマホを俺に見せて警告してる。
たまにスマホを見て設置された学園の管理システムにアクセスしてるようだ。

「ああ、わかってる。そんなとこまで見る気はないよ」

設置された場所には女子の更衣室とかあるからその事を言ってるようだ。

「そう、それなら良かったわ。それより、東藤くん、そちらの人は誰かしら?」

さっきから気配はしてたが、俺に用事とは思えなかったので放置していた。

「さあ、俺もよくわかりません」

俺の側に龍賀家の双子の女の子がいる。
小学生高学年か、中学生くらいか?

「呼びに来た」
「夏菜、違うわ。まず挨拶が先よ」
「知ってる。夏帆こそ挨拶してない」

「確か龍賀家のお嬢様達ですよね。初めまして、白金結月と申します」

生徒会長は、相手が龍賀家とあって、先に挨拶をした。

「知ってる。緑扇館学園の生徒会長」
「知ってる。緑藤理事長の姪御さん」

「嬉しいですわ。私のような支流の者までご存知なのですね」

相手が小さい子なので生徒会長もやりづらそいだ。

「うん、でも用があるのはこっちの男」
「そう、男」

用ってなんだ?
俺には用はないのだが……

「俺の事か?」

「うん、母様が呼んでる」
「そう、母様が来いって」

双子の母親が俺に用事があるみたいだ。
その話を聞きと白金会長は小さく手を振って、自分は妹の葉月のところに行ってしまった。

俺は仕方なく、双子の後を付いて行くことに。
どういうわけか、俺が双子に引っ張られて連れて行かれると、周りの者、特に男性達から憐みの表情を向けられる。

意味がわからん……

「母様、男連れてきた」
「母様、男捕まえた」

「夏帆、夏菜。そのような言い方は良くありませんよ」

双子が母親にそう告げると母親は双子を窘めるように話す。

「「わかりました(わかった)」」

母親と思われる和服美女は、20代のように見える。
こんな大きな子供がいるとは普通思わないだろう。

「自己紹介がまだでしたね。私は龍賀桔梗。龍賀家の者です。この2人は私の娘達よ。ほら、挨拶しなさい」

「龍賀夏帆11歳 小学6年生です」
「龍賀夏菜11歳 小学6年生」

「俺は東藤和輝、高校2年生です」

「ええ、存じてますよ。東藤和輝さん、それとも神宮司和輝さんとお呼びした方がよろしくて?」

双子の母親、桔梗と名乗る女性は、俺の素性を知っててここに呼んだようだ。

「いいえ、今は東藤和輝です」
「そうですか?では、和輝さん、夏休みのご予定は決まっておりますか?」
「いいえ、特には」
「それでしたら、8月にこの子達の誕生会があります。良かったらご出席してくださいませんか?」

誕生会のお誘いの為に俺を呼んだのか?

「都合が合えば構いませんが」
「まあ、良かった。夏帆、夏菜。このお兄さんが来てくれるそうよ」
「「やったー」」

そんなに喜ぶことなのか?

「それでは、後で招待状をお送りしますね。今は聡美さんのところにいるのでしょう?他の皆様もご都合がつけばご招待致しますわ」

「わかりました。後で聞いておきます」

「まあ、嬉しい。今年は楽しくなりそうね」

本当に嬉しそうに喜ぶこの母親をみていると、何か裏があるのでは、と勘ぐってしまう。

この母親が言うには、龍賀家はシンシュウの山奥にある湖の辺りに屋敷があるようだ。
夏には、湖で泳いだり高原で過ごせたりと良いところをアピールしてきた。
夏休みを過ごすには、良さそうな場所だと俺も思ってしまう。

俺が龍賀家の人達とはなあいていると、そこへ白髪頭の老紳士がやってきた。

「お話のところ申し訳ありません。東藤様、総代がお呼びでございます」

すると龍賀家の母親は、

「あら、狩野様、東藤さんは今私とお話ししているのですが?」

「これは、桔梗様、失礼致しました。相変わらずお美しいですね。桔梗様におかれましては、ご健勝でなりよりでございます。少しばかりお時間を拝借してもよろしいですか?」

「総代からのお呼びでは無碍にもできませんね。それに狩野様がわざわざ出向いてのお誘いでは引き下がるしか有りませんね。東藤さん、また、お時間のある時にでもお話ししてくださいませ」

「わかりました」

俺は龍賀家の元を後にして、老紳士に付いて行く。
身のこなしも優雅だが、その所作に隙が見当たらない。
かなりの使い手だと判断する。

そして、俺は2人の爺さんが談笑してる場所まで案内された。
一人はは総代、もう一人は西音寺家の爺さんだ。

「お連れ致しました」

そう老紳士が話を通して、俺は2人の爺さんの前に出る。
そして、その老紳士は総代に小声で耳打ちをした。
総代は、厳つい顔をしながらも口元を緩めているが、もう一人の爺さんは俺を値踏みするようにジロジロと観察し出した。

「龍賀家に目をつけられるとは、お主も難儀な男じゃな」
「総代の言ってる意味がわかりません」
「そうじゃのう、お主だから龍賀家が目を付けたと言うべきか」
「ますます、わかりません」
「わはは、まあ良い。今宵は頼むぞ」
「ええ、引き受けた以上ヘマはしません」
「うむ、それは上々、わはは」

それを見ていた周りのもの達は騒めきたった。

「みろ、総代が笑ってるぞ」
「俺も初めて見たぞ、あんな楽しそうな総代を」
「あの若造、何者なんだ?」
「身なりはとても良い。どこかの支流の者か?」

そんな話がチラホラ聞こえてくる。
総代の背後に控える聡美姉の兄姉も眼を丸くしている。

「ほおお、確かに肝が座っておる。まだ、若いが面白そうな男だのう」
「そうだろう、西音寺。儂はこいつと出会ってから少し楽しみが増えたわい」
「兼ちゃんがそう言うのなら、我も試してみたいの」

総代の事を兼ちゃんと呼びこの西音寺の爺さんは総代とは旧知の仲のようだ。

「ところで、百合子には会ったか?」
「いや、まだです。遠目からは拝見しました」

百合子は別の場所で知り合いと思われる同じ年齢のお嬢様と親しく話していた。

「狩野よ。百合子をここへ」
「はい、畏まりました」

狩野さんは百合子を呼びに行くために席を外す。
その時、背後に控えていた聡美姉の兄さんが耳元で誰かの通信を受けていたようだ。

直ぐに総代に近づき耳元で囁く。
その後、直ぐに眼下に見えるトウキョウドームから大きな爆発音が聞こえた。

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