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第2話 学校での立ち位置
しおりを挟む俺が通う学校、緑扇館高校は都会では珍しいほど緑豊かな地、西東京の一角にある。
正門から校舎に向かうアプローチは桜並木になっているが、今では淡い新芽も濃い緑色に変化している。
2年C組、窓際の一番後ろの席に腰掛け、いつものように本を読んでいると、登校してくる生徒も増えて教室は賑わい始めた。
席の近くの男子達は、昨夜のテレビに出演していたアイドルグループの話で盛り上がっている。
「昨日の『FG5』見た?マジ、リリカちゃん最高なんだけど」
「俺はアヤたん推しだな」
「はあ~~ミミカ様、マジ天使」
話を聞いていると『FG5』と言うアイドルグループは『Flower Garden5』 14歳から16歳の5人組で構成される、今人気のアイドルグループのようだ。
また、教室の後ろの方では数人の女子達がスマホを覗きながら騒いでいる。
「ほら、見て!昨日のオケの時の美咲。マジ上手なんだけど」
「確かに上手。本物より上手いよね」
昨夜のカラオケの様子を動画撮影していたようだ。
「ねぇ、美咲。これ動画サイトにアップしない?」
「やめてよ!親に見つかったら怒られるわ」
「人気出ると思うんだけど」
「絶対、やめてよね。マジ勘弁だから」
ここで騒いでるのは、ギャル系の美少女で髪の毛を金色に染めている 鈴谷羅維華、歌とダンスが上手だと言われている栗色の髪の毛をした瀬川美咲、髪の毛がショートで陸上部にいそうな快活な美少女、佐伯楓、年の割には落ち着いた雰囲気をしているクール美少女、木梨由香里それとフワッとした印象のホンワカ美少女、鴨志田結衣の5人だ。
女三人寄れば姦しいと言われているが、5人もいればその勢いはそれ以上だ。
クラスの後ろの方で美女子達が騒いでいると、目敏い男子達は放っておくはずもなく……
「何、盛り上がってんだ。羅維華?
「あっ、光希。昨日のオケの時の動画だよ。美咲が超ヤバくってさぁ」
「マジ?見せてくれよ」
「俺も」
「俺も」
姦しい女子達に近寄って来たのは、このクラスで陽キャラと言われているそこそこイケメンの立花光希とその連れ、新井真吾と南沢太一だ。
「ダメだよ。羅維華。見せないでね」
必死な顔で羅維華に話しかける美咲。
「瀬川さん。それはないんじゃない?クラスメイトだろう」
「俺も瀬川の歌ってるとこ見てみたい」
真吾と太一は、女子達に詰め寄りそうな勢いだが、光希は……
「瀬川さんがそこまで言うなら見るのはやめるけど、今度は俺達と一緒にカラオケ行こうぜ」
「そうか、その手があったな」
「カラオケ行った時に聞かせてくれよ。いつ行く?今日?」
光希のアイデアに浮かれる真吾と太一。
男子が浮かれて動くたびに、俺の机と椅子にぶつかり始めた。
邪魔そうな顔をするも文句を言わずの黙って本を読んでいるとそんな様子に気づいたホンワカ女子の鴨志田結衣が、
「ねぇ、さっきから東藤君の机に当たってるよ」
「東藤!?」
「誰それ?」
「いたっけ?そんな奴」
男子達は、悪びれる事なくそんな事を言い始め、また女子達に絡むように話に加わった。
はあ……面倒な奴らだな。
ホンワカ女子の鴨志田さんは、俺の方を申し訳なさそうの見ているが、それ以上のことは何も言わなかった。
そんな時、スマホに連絡が入る。
この人だかりの場所で見るのを躊躇ったが、移動する事も出来ず仕方なしにスマホカバーを開いた。
『昨夜の件、ニュースになってるよ』
藤宮聡美からだ。
メッセージの下にアドレスが載せてあり、俺はそれをクリックした。
~~~~~
『5月16日、午後10時頃。品川第三埠頭の倉庫街の海に転落している車があると通報がありました。警察の発表によると車の中で亡くなっている男性を発見。身元調査の結果、泉橋印刷工業の重役 岸沢康作(63歳)の死亡が確認されました。死因は心臓発作のようです。警察は事故と事件の両面から捜査を行うようです』
~~~~~
あのオッさん、60超えてたのか?
ヤクザの女で腹上死なんて、因果な最後だな……
それにしてもあの女ヤクザ。始末しなくて良かったのか?
確か金堂組の組長だった人物で、今は引退して会長となっている金堂左近の出戻り娘らしいが、40歳超えてやりたい放題だな。
藤宮聡美から更に新しいメッセージが送られて来た。
『学校が終わったら事務所に来てね。お仕事だってさ』
昨夜のようなクソみたいな仕事はやりたくないが……
そんな事思っていると、ふと声をかけられた。
「東藤君、東藤君」
声の主を見るとホンワカ女子の鴨志田さんだ。
いつの間にか俺の周りにいた男子どもは廊下に出ていた。
今度は別のクラスの女子と話しているようだ。
「どうした?」
そう返事をすると鴨志田さんは申し訳なさそうに目を伏せて
「さっきはごめんね。みんなに注意できなくて。それと昨夜シブヤで東藤君見かけたよ。バイトしてるなんて偉いね」
何っ……
シブヤと言えばあの時だ。
周りに注意して監視カメラの位置も避けて行動してたというのに、見られただと!?
この俺が……
呆気にとられた顔をしてたのか、鴨志田さんは
「東藤君ってそんな顔もするんだね。お仕事頑張ってね」
そう言い残して自分の席に行ってしまった。
殺さなくては……
◇
その日の放課後、俺はシンジュクにある雑居ビルの一室を訪れていた。
その部屋のドアには『ウィステリア探偵事務所』とプレートが貼り付けてあり、俺は硬くなった皮のソファーに腰掛けている。
「わははは、カズ君最高!!」
目の前には大きな声で笑っている藤宮聡美。
大きな胸が忙しそうに上下左右と小刻みに揺れている。
「悪い事じゃねぇが確かに用心のしすぎだな」
そう言いながら笑みを浮かべて自分のデスクでコーヒを飲む男は紫藤幸村、この探偵事務所の所長だ。
「何がおかしい?目撃者は殺すのが当たり前だ」
「だからカズ君、その目撃者の事だよ。今日一日その子のストーカーしてたんでしょう?その子を殺すために行動パターンを調査してさ。わははは」
当たり前の事をして何がおかしいのか?
理解に苦しむ。
「カズキ、お前が育った環境からすれば当然の事かも知れねぇ。だけど、ここはお気楽呑気な日本だ。違うんだよ、環境と人物が」
「そうだよ。だってその子『お仕事頑張ってね』ってカズ君を労ったんだよ。そんな良い子を何で殺さなくちゃいけないの?寧ろ私は頭を撫でてあげたいくらいだよ。カズ君に優しくしてくれたお礼にね」
「俺はユリアさんにお前を頼まれている。ユリアさんが何故カズキを学校に行かせたと思う?お前が生まれて幼少期まで育ったこの日本で?」
「それは俺がユリアに要望したからだ」
「その理由も知ってるよ。だからあの高校に入学させたんだ。帰国子女の高校二年生としてな」
「感謝はしている」
「日本では俺がお前の保護者だ。そこにいる聡美は戸籍上のお前の従兄弟だ。お前がヘマをして何か事件を起こせば俺や聡美にもその影響が及ぶ。わかってるんだろうな?」
「ああ、理解してるよ」
「なら、普通の高校生をやれ!たまに昨夜のようなどうしようもないクズ依頼もあるがお前の生活費のためだ。我慢しろ」
「ああ、死体処分など初めてだったよ。何時もは殺してそのままだったからな」
「カズ君、ここは日本だから人を殺しちゃダメなんだよ。まあ、それは日本だけじゃないけどさ」
「そうだ。もし殺さなくてはならない時は、お前を殺しに来た奴だけだ。いわゆる正当防衛って奴だな」
「そうそう、それでも殺さなくても済むなら違う対処をした方が良いんだよ」
「まあ、徐々に理解すればいい。だから、その女は殺すな。寧ろ友達になれ」
「はい!?何故、殺す対象と友人関係にならねばいけないんだ?」
「それは友達になればわかる」
そう言い切る紫藤所長は、真剣な目をしていた。
「なんならお姉ちゃんが話をつけてやろうか?女同士の方が話しやすいでしょう?」
聡美もマジでそう思ってるようだ。
「遠慮しとく。これは俺の問題だ」
「そう?でも困った時はちゃんと話してよ。今日は笑っちゃって悪かったけど真剣な話ならちゃんと相談にのるからね」
俺はいつだって真剣なんだが……
「わかった」
「聞き分けの良い子はお姉ちゃん、大好きだよ。さてご飯食べに行こう!今日は聡美お姉ちゃんが奢ってあげるよ」
「家に帰ればもやしがある。あれを炒めて食べるからいい」
「また、そんな食事して、ちゃんと食べないといざという時に身体が動かなくなるよ。食事はとても大切なんだから」
「栄養素の事は理解している。だから毎日煮干しを食べてる」
「もう、カズ君。黙ってお姉ちゃんに甘えなさい。そうしないとアパートまで押しかけるよ」
「わ、わかった」
藤宮聡美は、怒るとユリア並みの迫力がある。
こういう場合は、黙って言うことを聞くのが一番だ。
「あっ、そうだった。カズキを呼び出した用件がまだだった」
「所長、しっかりしてよね」
「カズキ、お前に仕事がある。アイドルグループ『FG5』って知ってるか?」
そういえば朝、クラスの男子が話してたな……
「カズキ、『FG5』の倉元リリカの警護依頼だ。どうもストーカー被害に遭ってるらしい」
「へえ~~いいなぁ。リリカちゃんのガードなら私もしたい」
「これはカズキの仕事だ」
「チェッ、ケチ所長!でもカズ君は早速、今日の成果が仕事に生きるね。クラスメイトをストーカーしてたカズ君?」
「……依頼内容は?」
「カズキにはアイドルグループ『FG5』の臨時マネージャーをしながら警護をしてもらう。詳しい事は資料にまとめてある。この場で記憶してくれ」
「……わかった」
それにしてもアイドルってなんだ?
マジ意味不明なんだが……
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