闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

文字の大きさ
上 下
29 / 89
第1章

第29話 発見

しおりを挟む



結城茜

楓さんから連絡を受けた。
拓海くんを無事保護できたようだ。
明日のお昼頃には横須賀に到着するらしい。

「ほんとに良かったわ。拓海くんはそのまま入院するかもしれないけど、楓さんは明日の夕方には帰って来るわよね。明後日の裁判が間に合いそうね」

資料は既にまとめてある。
だが、決定的なものは揃えられなかった。

「そうだ、今日の夕飯は少しだけ豪華にしましょう。渚に買い物に行ってもらおうかしら、お醤油が切れそうだし」

事務所を出て隣の自宅に戻る。

「あ、お母さん、お帰りなさい」

ソファーに座ってテレビを見ている陽菜は、すっかりバス通学に慣れたようで、最近では朝もひとりでバスに乗って行っている。

「陽菜もおかえり。学校変わりない?」
「うん、今度朝日ちゃんがうちに来たいって、いいでしょうお母さん?」
「構わないわよ」
「やったーー!早速連絡してくる~~」

そう言って自分の部屋に駆け込んだ。

「自分の部屋ができたのが嬉しいのね。これも楓さんや拓海くんのおかげだわ」

そういえば渚は帰って来てるのだろうか?
靴が有ったので部屋にいると思うけど。

「渚、帰ってるの?」
「いるよ」

渚の部屋に入ると、机で勉強していた。
テストも終わったばかりなのに珍しい。

「勉強してたの?」
「ううん、拓海くんの休みの分のノート書いてたんだ」
「そうなんだ。コピーじゃダメなの?」
「コピーだとなんか味気ない感じがするんだよね。だから、新しくノートを買って板書きの他に分かりやすいように付け加えてるんだ」

(へ~~渚がねえ~~)

「そうか、拓海くんもきっと喜ぶわよ」
「えへへ、そうだといいなあ~~」

(この雰囲気で買い物は頼めないわね)

「お母さん、買い物してくるけど、何か欲しいものある」
「じゃあ、アイス食べたい」
「わかったわ。陽菜も同じでいいかしら?」
「大丈夫だと思うよ。あの子甘いものなら何でも食べるから」
「じゃあ、行ってくるわね」

いつもは安売りのスーパーに行ってたけど、今日は駅地下の食品売り場に行こうと思う。

駅地下の食品売り場では、お惣菜やお弁当も売っており、忙しい時には重宝するけど、少しお値段が高い。

「今日はクリームシチューにしようかしら。いつもはルウを買って簡単に済ませてたけど、良い白ワインも楓さんからもらったし、元から作ろうかしら」

実家である結城家のシチューは、牛乳の他に生クリームやチーズも入れる。

「ご飯より、パンよね」

こうして落ち着いて食事を作るのは本当に久しぶりだ。
結婚したての頃も仕事をしてたので、せっかく母親から教えてもらった料理も元旦那に披露したことがない。

「だから、あの人は浮気したのかしら」

つい余計な事まで考えてしまった。
あの頃の私は、子育てと仕事で余裕はなかった。
家事と育児を手伝わない元旦那に、いつも怒っていた覚えがある。

そんな中、浮気が発覚した。
相手は、元旦那の部下の女性だ。
女の目から見て、男ウケするような女性で、あざとい感じがした。

私は慰謝料はいらないから、娘達の養育権をもぎ取った。
あんな女に娘を渡せるわけがない。

毎日が目まぐるしいほど忙しかったけど、私は娘達と暮らせて幸せだった。

だけど、体調が悪くても毎日変わらず過ごしてたのがいけなかった。
もっと、早く病院に行っていればあんなに悪くなる事はなかったのに……

でも、拓海くんのおかげで病気は完治した。

ありがとう、拓海くん……

渚は、気づいていないかもしれないけど、拓海くんのことが好きみたいだ。
できれば、将来渚と一緒になって拓海くんの本当の母親になれたら良いのだけど。

「さて、他には生ハムをのせたサラダと……」

楽しい……

いつも子供達に食べさせなきゃっていう義務感があったのかもしれない。
だけど、今はこうしてあれこれ考えて買い物ができるのが楽しくて仕方がない。

「私って、意外と料理が好きだったのね」

家事より書類仕事の方が合ってると思っていた私は、新たな一面を知れて嬉しかった。

「ほんと、これも拓海くんのおかげだわ」

拓海くんが帰ってきたら美味しいものを作ってあげようと心に誓った。


買い物から帰ると、テーブルの上にメモと一緒にUSBメモリが置かれていた。

「何だろう、これ?」

メモには、可愛らしい文字で『見てね』と書かれており、宛先は私宛になっている。

私は、それをポケットにしまって料理を始めた。

夕飯も終わり、寝る頃にそれをしまったのを思い出した。
ノートパソコンでそのUSBメモリを見ると……

「何これ……何で?」

疑問が疑問を呼ぶ。
そう、これは今度の裁判の相手である本部長の決定的な証拠が揃っていた。

「えーーっ!」

思わず声を上げてしまった。
どうやってこの情報を手に入れたのか?
そして、誰が、これを私に届けたのか?

疑問は尽きないが、これが有れば裁判は勝てる。
私は、直ぐに隣の事務所に行きその資料を基に新たな資料を作成したのだった。





俺の前には、敬礼した二人の女性自衛官がいる。
いつまでも敬礼してるので、やめてもらった。

そして、たくさんお礼を言われてしまったのだ。

仕事をしただけなので、こう感謝されると居心地が悪い。
でも、良い機会なので、治療した時に気になったことを聞いてみた。

「あの後はどうなったのですか?」

「清水先生の診察を受けて問題ないと言われました」

(思った答えと違った。これは俺の言葉のチョイスが悪かった)

「え~~と、渡辺っていう若い自衛官のことをお聞きしたかったのですが?」

「えっ、何で知ってるんですか?」

「治療する時に少し記憶が流れてきまして、それで気になっていたのですけど」

「はい、あの渡辺自衛官、いえ、元自衛官ですね。彼は海上自衛隊を辞めました。実質クビになったのと同じです」

「それは、良かったですね」

「はい、付き纏われて困ってました。私が幕僚長の娘だと知って近づいてきた男です。普段から付き纏われて、ストーカー顔負けのしつこさでした」

「今は平気ですか?」

「はい、彼が辞めたことにより私には近づけませんし、上にも報告しています。それに、盗み撮りもされたので警察にも届けてます。今は、牢屋にでも入ってるんじゃないですか」

彼女を治療した時に流れて記憶は、その若い自衛官による付き纏いの悩みが主だった。最近では、周りにも付き合っていると嘘を流されて精神的に追い詰められていたはずだ。
そんな感情と痛みが襲ってきて俺は気を失ってしまったんだ。

「それでですね。蔵敷拓海さま、治療して頂いたお礼をしたいのですが」

「私も美咲を助けてくれたお礼がしたいです」

藤倉さんも内海さんもそう言うが仕事だったのでお礼はいらないのだが……そのまま言葉にするのは躊躇われた。

何か良い返答はないものだろうか?

「あのーもしかして、お二人がこうして海上自衛隊の船で助けに来てくれたことって関係してます?」

「はい、私も凪沙も是非にと上に掛け合いました。拓海さまのおかげで私は怪我の治療だけでなく、凪沙と一緒に階級まで上がりましたので」

(階級が上がったのは口止め料かな?)

「それはおめでとうございます。俺としてはこうして助けに来てくれただけで十分なのですが」  

すると、楓さんが

「拓海様は、本来は入院していたのですが、急を要する依頼がありその帰宅途中で拉致されたのです。ですので、また入院すると思います。退院しましたらご連絡差し上げますので、退院祝いを兼ねてお二人の昇級お祝いを致しましょう」

「え、いいんですか?」

「はい、自宅で開くささやかなパーティーですが、お二方もいらしゃってくだされば幸いです」

「「行きます!!」」

息のあった返事だった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される

卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。 それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。 王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。 老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。 そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。 読み切り作品です。 いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します! どうか、感想、評価をよろしくお願いします!

王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea
恋愛
伯爵令嬢のフルールは、最近婚約者との仲に悩んでいた。 そんなある日、この国の王女シルヴェーヌの誕生日パーティーが行われることに。 「リシャール! もう、我慢出来ませんわ! あなたとは本日限りで婚約破棄よ!」 突然、主役であるはずの王女殿下が、自分の婚約者に向かって声を張り上げて婚約破棄を突き付けた。 フルールはその光景を人混みの中で他人事のように聞いていたが、 興味本位でよくよく見てみると、 婚約破棄を叫ぶ王女殿下の傍らに寄り添っている男性が まさかの自分の婚約者だと気付く。 (───え? 王女殿下と浮気していたの!?) 一方、王女殿下に“悪役令息”呼ばわりされた公爵子息のリシャールは、 婚約破棄にだけでなく家からも勘当されて捨てられることに。 婚約者の浮気を知ってショックを受けていたフルールは、 パーティーの帰りに偶然、捨てられ行き場をなくしたリシャールと出会う。 また、真実の愛で結ばれるはずの王女殿下とフルールの婚約者は───

婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶
恋愛
私の名前はエリン・ストーン。良くいる伯爵令嬢だ。婚約者であるハロルド・パトリック伯爵令息との結婚を約一年後に控えたある日、父が病に倒れてしまった。 今、頼れるのは婚約者であるハロルドの筈なのに、彼は優雅に微笑むだけ。 優しい彼が大好きだけど、何だか……徐々に雲行きが怪しくなって……。 ※ 私の頭の中の異世界のお話です ※ 相変わらずのゆるふわ設定です。R15は保険です ※ 史実等には則っておりません。ご了承下さい ※レナードの兄の名をハリソンへと変更いたしました。既に読んで下さった皆様、申し訳ありません

異世界ネット通販物語

Nowel
ファンタジー
朝起きると森の中にいた金田大地。 最初はなにかのドッキリかと思ったが、ステータスオープンと呟くとステータス画面が現れた。 そしてギフトの欄にはとある巨大ネット通販の名前が。 ※話のストックが少ないため不定期更新です。

お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル
恋愛
橋本菜緒子、40歳、ドラッグストア勤務。結婚10年、子ども無し。三年前に生まれた疑惑…夫が浮気してるかも、は、クロだった。 いろんなことを反省し、生活を変え…そしたらある日、夫の浮気相手に刺されて死んだ。なんで…いつでも離婚したのに…。未練とかまったくなかったのに…。 目が覚めたら、めっちゃ肥えた女の子になってた。なにこれ!?ここどこ!? こんなに太ってるのに王太子妃?しかも、三年後に離縁するのが決定してる? 前世、腐女子街道まっしぐらだった私にはプライスレスな境遇だった。いいですいいです、三年楽しませていただけるならば、あとは黙って出ていきます! 前世でできなかった離縁、むしろこっちから願ったり!きっちり厄落としさせていただきます!

胸糞展開で倒されるラスボスに転生してイライラするので、ストーリフラグ全部破壊することに決めた

竜頭蛇
ファンタジー
ある日を境にアクションRPGゲーム『アーマード・ファンタジー』のラスボスーークリア・ヴィランに転生してしまった主人公。転生前のゲームをプレイ時からラスボスの扱いが悪役だと言うのにあまりにも胸糞で、個人的に気に入らなかったこともあり、そんなラスボスに転生してしまった自分の身の上に腹が立ってきたので、ラスボスの破滅フラグ含めて全てのストーリーフラグを破壊することに決める。ストーリーをフラグをへし折るために破壊と混乱を巻き起こしているはずがなぜか、人望が上がり、ヒロインや死ぬはずだった姫騎士や敵対するはずだった王族に好かれるようになる。  

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在隔日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

処理中です...