闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

文字の大きさ
上 下
14 / 89
第1章

第14話 テーマパーク

しおりを挟む


夕食会後の会合の後、そのままホテルに泊まることになった。
突然、明日香ちゃんが俺の部屋に来て夜遅くまでゲームしたりお話して遊んだことで張り詰めていた心がやわらいだ。

そして、今日は土曜日。
俺は明日香ちゃんと一緒に湾岸沿いにあるテーマパークに来ている。

「拓海お兄さま、今度はあれに乗りたいです」

トロッコがレールの上を走り、水の中に突っ込むという割とスリリングな乗り物だ。

「じゃあ、乗ろうか」

「はい」

嬉しそうに手を繋いで喜ぶ明日香ちゃんを見てると、妹がいたらこんな感じなのかな、とふと思った。

「ああいうのって怖くないの?」

「大丈夫です。病気で何もできなかったので、今はいろいろなことに挑戦してみたいのです。それにこうして遊ぶのは初めてですし……それにお兄さまが一緒ですから」

「そうだよね。じゃあ、これでもかっていうほど楽しもうか」

「はい」

午前中、目一杯遊んだ俺と明日香ちゃんはテーマパークの食堂で昼食をとっていた。

俺達の席の後ろには、霧坂さんとお爺さんが座っておりお爺さんは嬉しそうに孫娘と話がはずんでいた。

「お爺ちゃん、私はお仕事中なのよ」
「わしだって仕事中だわい」

一応、霧坂さんは俺の護衛、お爺さんは明日香ちゃんの護衛としてテーマパークに来ている。

「うしろ、賑やかだね」
「はい、修造お爺さんはいつも元気です。面白いお話もたくさんしてくれます」

(へーー、日本昔ばなしとかアンデルセンとかかな。明日香ちゃんって病気が長かったから、年齢より幼く感じるし、おじいさんが少女に絵本とか読んでる姿ってそういうのって、ほんわかするよなあ)

「修造さんはお話が得意なんだね」

「はい、特にキャバクラって言うお店で貢ぎ物をしないで女性を口説くお話が面白かったです」

「は!?」

小学生相手になんの話してんだ、爺さん!

「そ、そうなんだ。きっとその話は聞き流した方がいいと思うよ」

「そうなのですか?では、女性の方が裸でダンスするお店の話とかもダメなのでしょうか?」

「えっ!?」

驚きすぎて言葉が出ない……

「衣装の脱ぎ方で、その踊り子さんの技量がわかるって言ってました」

俺は思わず後ろを向いて爺さんを見る。
話が聞こえていたのか、霧坂さんも鋭い目つきでお爺さんを睨んでいた。

「お爺ちゃん!明日香様になんて話してるの?」
「そ、それは将来お嬢が魅力的な女性になる為の話とか」
「わかりました。この件についてはお婆ちゃんに報告させて頂きます」
「待て、早まるでない。わしが悪かった。2度としないから~~」

騒がしい席が一層騒がしくなったのは言うまでもない。





午前中は、割と激しい乗物で遊んだので、午後からは店を覗いて買い物をしたり、ふるゆわ系の遊具で遊んでいたりした。

途中から楓さんや奥様方が合流して賑やかに過ごすことなった。
大人の男性陣達は、日頃の疲れもありホテルでゆっくりしているようだ。

そういえば、生徒会長は夕食が終わって帰って行った。
中間テストや球技大会などもあり、学園関係で忙しいらしい。

俺もテストがあるんだが……

明日香ちゃんは、みんなが来てからも楽しそうに笑って遊んでいる。
こういう姿を見ると、忌避していた俺の能力が役に立って嬉しいと思える。

「拓海様、実はひとつお話ししておかなければならないことがあります」

みんなと遊んでいる中、楓さんが小声で話しかけてきた。

「どうしたの?」

「実は、前から言われていたのですが、保護施設にいる能力の発現がない子達の中で寝たきりになっている子達がいるのですが、その方達を治療してほしいと国の機関から言われていました」

楓さんが施設にいた時のことを出来るだけ思い出させないようにしてくれていたのは、知っている。

だから、そのような要請があっても先延ばしにしてくれていたのだろう。

「襲撃を受けたって聞いたけど、その子達は連れ攫われていなかったんだね」

「組織からも見捨てられたようですね」

旧組織の連中は、能力を発現させるための方法として、ある薬を投入したり外科手術で脳を弄ったりしてたのは知っている。

おそらく、失敗して廃棄された子供達なのだろう。
多くの子供達が亡くなっていたのもわかってたけど、その子達は、拉致されて間もない子達で、処分される前に国の機関の突入によって解放された子達なのだろう。

「治せるか自信はないよ」

治癒能力も万能ではない。
どういう理屈かわからないが、精神に伴う疾患は治せないことが多い。

軽い鬱病なら、治せた実績もある。
だが、長く患っている精神疾患の人は治せなかった。
俺自身の薬漬けの心を治せなかったのと同じなのかもしれない。

「ええ、理解しています。能力者たちの襲撃を受けて寝たきりの上怪我を負った子達が数人いるので、施設の管理者が打診してきたのです。先方には落ち着いたら連絡することにしましょう」

「うん、楓さんの好きなタイミングでいいよ」

この場でする話ではないのでは?と、最初は思ったが楓さんのことだ。
きっと遊んで気を紛らわせるこの場が最適だと判断したのだろう。

確かに、家や畏まった場で聞いたのなら、いろいろと考え込んでしまったと思う。

「拓海お兄さま~~、今度はあれに乗りたいです」

施設の事を思い出してしまった俺の心に明日香ちゃんの無邪気な笑顔が落ち着かせてくれた。

「うん、一緒に乗ろう」

明日香ちゃんだけではない。
こうして、無心で遊ぶのは俺にとっても初めてなのだから。





一日中遊び通した次の日の日曜日。
明日香ちゃん達は、名残惜しそうに家に帰って行った。

ホテルで見送った俺達も楓さんの車で帰ることになった。
家に帰ると、数日開けただけなのに、なんだか懐かしい気分になる。

自室に入り、ベッドに寝転んだ。
何だか良い匂いがするけど、なんだろう?

そういえば、着替えた時に着ていたシャツが見当たらない。
後で洗濯機しようと思ってベッドの上に置いといたはずなんだけど。

「楓さんが片付けてくれたのかな?」

まあ、考えても仕方ないので勉強を始める。
ある程度の点数を取らないと、みんなに申し訳ない。

それから、ほとんど部屋から出ることもなく1日が過ぎていったのだった。





「えへへ、たっくんのシャツゲットしちゃった」

そう言いながら、ベッドの上でゴロゴロする髪の長い金髪の少女がいた。

「アンジェ、そろそろご飯ですよ」

「うん、いま行く」

ゲットしたシャツをベッドの中にしまって、その少女は階段を降りてキッチンに向かった。

用意された夕食がテーブルの上に並んでる。

「ママ、いただきます」

「よく噛んで食べるのよ。でも、いいの?学校移って」

「うん、英明学園なら友達もいるし、どうしても行きたいんだ」

「そうね、施設を一緒に抜け出してあなたのママになって初めてのワガママだから、アンジェの好きなようにしなさい」

「うん、ママ、大好き。あ、これ美味しい」

母と子一人の家庭だけど、その雰囲気はとても暖かかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

処理中です...