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第5章
第89話 30周年パーティー
しおりを挟む日曜日……
午後1時、市内にあるホテルの宴会場で『コミー・マート』30周年記念パーティーが開催された。
店舗は休業していないため、全社員がここには来ていない。
来賓も地元の議員さんや取引先の企業、そして野菜を出荷してくれてる地元の農家さんなどが呼ばれた。
「え~~コミー・マートも地域に根ざして30年程の月日が経ちました。ここまで、当社がやってこれたのは、地域の皆様をはじめお取り引きいただいている皆様のおかげであります。30年前の当社は……」
「お父さんの話、相変わらず長いわね」
「まあ、それもご愛嬌ってことで……」
小宮弥生が話しかけているのは、コミー・マートが青果店だった頃の社員だった古株の布岐春生、本店の店長でもある。
「それで弥生ちゃん、大丈夫ですか?あのバカ男とあんな約束してしまって」
小宮弥生はよく家に近い本店の店に手伝いに行っている。
そこにあの『ガマセルク』のバカ息子、我間修斗がやって来て散々店をボロクソ言って帰っていったのだ。
その時、弥生がつい口走ってしまった。
桜宮美鈴さんと懇意にしてると……
だが、それを嘘だと罵る我間に対して「この30周年のパーティーに呼ぶから」と大言を吐いてしまう。
我間は、蛙のような顔で「もし来なかったら、お前は俺のものだからな!」と言われ、つい「構わないわ、来なかったら好きにすればいいでしょ!」と言ってしまったのだ。
「お父さんに聞いたんだけど未成年の口約束は親か法定代理人の同意がなければ後で取り消すことができるんだって。だから心配ないわよ」
布岐春生は、弥生からその話を聞いても浮かない顔をしていた。
「それなら良いのですが……」
心配そうに見つめる布岐春生。
そう簡単に相手が引く事はないだろう、と考えているようだ。
「……と言う事でありまして、皆さま方には、楽しんで頂けたら幸いであります」
小宮社長の長い話しが終わったようだ。
会場に来ている人の拍手に包まれた。
「それでは、来賓のお方の挨拶に移らせてもらいます。まずは、地域に多大なる貢献していらっしゃる3期連続当選の市会議員の楠根金太議員です。拍手でお迎え下さい」
司会の男性が来賓を紹介する。
また、会場が拍手で包まれる。
そこに手をら上げて60代の腹の出た男性がマイクの前に立った。
「今、ご紹介に預かりました楠根であります。私は、より良い市を目指して……」
来賓の長い話が続く。
そこへ、ガマ蛙のような顔をした少年が入って来た。
あたりをキョロキョロ見回してニヤリと笑う。
「……と、私は地域に貢献して参りました。ですので、更なるご支援の程をお願い致したい所存であります」
やっと、長い挨拶が終わったようだ。
「楠根金太議員、どうもありがとうございました。では、次は、東西南北銀行の支店長であります小金銀一さんからのお言葉を受けたまりたいと思います」
司会者の男性が更なる来賓をマイクに誘う。
「え~~ただいまご紹介に預かりました小金であります。当行と御社の間には、30年以上のお付き合いがあり、私もこの地域に配属されてからお世話になってる次第でありますが、昨今の経済情勢は、悪化を辿る一方であり、当行としてもできる限りの努力をしてまいりました。ですが……」
眼鏡をかけて痩せている男性で冷たい印象を受ける支店長の挨拶が続く。
「何で来賓の挨拶何か聞かなければならないのかしら?それにあの男は、うちにとっては敵のようなものよ!」
「そうですけど、慣例ですからね~~大人のお付き合いってわけです。弥生ちゃんももう少し大人になったらいろいろ分かりますよ」
そして、しばらくして来賓の挨拶が終わった。
「では、乾杯の音頭を長年当社のに尽くしていただいた布岐店長にお願い致します」
司会者がそう告げて支店長の布岐が挨拶する。
そして、やっと宴会の時間が始まった。
立食パーティーなのだが、広い会場に、テービルと椅子が幾つも置かれており、食事をする時や疲れた時に休めるようになっている。
会場では、各々が食事と会話を楽しんでおり、このままいけば無事に30周年記念パーティーは終わるはずだった。
「おや、こんなところにいたのか?覚悟はできてるのか?ははは」
ガマ蛙のような顔をした我間修斗が小宮弥生に近づいてそんな事を言った。
「何の覚悟かしら?」
「おい、おい、ふざけんなよ!こちとらこんな田舎までわざわざやって来てやったんだ。この前の約束を忘れたとは言わせないぜ」
そう言った我間は、ニヤけた顔で弥生を見つめていた。
「勿論、覚えているわよ。桜宮さんにはちゃんとパーティーの出席をお願いしたわ。でも、急なことで予定がつかなかっただけよ!」
すると、我間は大きな声で笑い出した。
「わはははは、そうか、お前は知らないんだな?桜宮家の人達は、身内以外のパーティーには出席しないだ。そんなの朱雀学園では常識なんだけどな。わはははは」
(こいつ、それを知ってて……)
「……そんな約束は無効よ!」
「まあ、未成年の口約束だし、親の同意がなければ取り消しできるが、契約は一旦は成立してるんだよ。だから、お前は俺のおもちゃになって散々遊び尽くしてからその契約を取り消してやるさ。わははは」
公序良俗に反する契約はそれ自体が無効なのだが、その事は相手の有利になるので言わないようだ。
「う………っ」
何も言えなくなってしまった弥生は、悔しそうに唇を噛み締めた。
(こんな男のおもちゃになるくらいなら、いっそ死んでやる!)
そう思ってた時、司会者が話しはじめた。
「宴もたけなわになってきました。ここで地元の和太鼓軍団『キザクラさんちの子猫隊』の皆さんがわざわざ当社の為に駆けつけてくれました。それでは演奏をお楽しみください」
会場にある一段高くなっている舞台の幕が上がる。
そこには、祭りと書かれたハッピを着て、色とりどりのバンダナを頭に巻いた人達が和太鼓の前でバチを構えていた。
『ドン、ドン、ドン。はっ!ドンドンドコドン、ドドンガドン……』
演奏が始まったようだ。
前には小学生の男女が小さな太鼓を叩き、奥では大きな太鼓をリズムに合わせて叩いていた。
しばらく演奏は続きそして、最後にみんなが声を合わせて『コミ・マート三十周年おめでとうございます!ドドドン!!』と、言って演奏が終わったのだった。
会場は拍手喝采の嵐となった。
「はっ、くだらない余興だな。田舎の貧乏スーパーにはお似合いか、ははは」
「くっ…………」
(悔しい……)
「さて、どんな風に遊んでやろうか?駅前でストリップショーでもしてもらおうか、それとも一日中裸で過ごしてもらうかな?勿論、その姿で学校にも行ってもらうぞ。ははは、楽しみだ」
「…………」
すると、その時、小宮弥生と我間修斗の前にさっき太鼓を叩いていた人達が集まって来た。
そして、声をかけられたのだった。
「くだらない余興で悪かったですわね?」
「えっ……あなたは……」
(頭に被っていたバンダナを外したその姿は見覚えがある。そして、他の人達も……)
「小宮弥生さん、桜宮家としては参加できませんけど、今日は個人的に参加させてもらいました。私達の演奏はどうでしたか?」
「あの~~何で……?」
小宮弥生は、驚きすぎてそれだけしか言葉に出来なかった。
祭りのハッピを着た人達は、桜宮美鈴と三条智恵、そして霧峰美里をはじめとした学校で見たことある人達だったからだ。
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